第4話 肉とスキル(?)
気づけば雨は止み、辺りを虫が飛びはじめていた。
「キュイ!」
「よかった、生きてる!」
「俺たち生きてるぞ!!」
「キュイィイ!!」
オオカミの死体から抜け出してきたウリは安堵と共に体をすり寄せ、喜びを分かち合う。
服が血まみれだが、今はいい。
しかしどうしてオオカミを倒すことができたのだろうか。
直也が投げた石は丸っこて軽く、獣の喉を抉る程の威力など出るはずもなかった。
「これは......」
恐る恐る死体に近寄るとそこには先ほど直也が投げた石が落ちている。
しかし、ひとつだけ違うのだ。
それを拾い上げて観察する。
他の石より一回り小さいそれは木の葉のような形をしており、先ほど投げていたものより薄く細長い。
そして何より気を抜くと手を切ってしまいそうなほどに鋭いのだ。
「これって、最後のだよな......?」
「キュイ!」
ウリにはオオカミを貫いた石がどれか見えていたのだろうか、"正解!"という声が聞こえそうなほどに威勢の良い鳴き声をあげる。
そこで直也は確信した。こんな理不尽サバイバルにも良いところはあったのだ。
「ここ!やっぱファンタジー異世界じゃん!よっしゃー!!」
*****
血生臭い。
洞窟が血と獣の匂いで溢れかえっているのだ。
俺は今、あのオオカミを解体していた。
手には例の石。切れ味がすごい。
解体の仕方など知らないド素人なのであっているのかはわからないが、肛門付近から腹を開き肋骨を繋ぐ組織を剥がしていく。
ウリに剥がした肋骨を開いた状態で固定してもらい、食道を引っ張り出す。
「おぉ、爽快」
ブチブチと音を立てながら内臓がほとんど付いてくる。
あとは皮を剥がして程よい大きさに分けるだけなので小さい刃を駆使しながら解体する。
解体し終えてウリの方を見たらもそもそと内臓を食べていて少々ショッキングだった......
「よし!川に水浴びにでも行くか!」
「キュイ!」
******
水はたらふく飲んだ。
寝床の洞窟もある。
的だったものはもう肉と化している。
そうとなればすることはひとつ。
「飯だぁー!」
「キュキュイ!」
ウリは賢く、言っていることを体感で六割は理解しているのでこの喜びを共有できて嬉しい。
食べ方はもちろん串肉を火の中に突っ込むストロングスタイル。
表面が焦げるまでよく焼きだ。
焼き上がった串肉の表面は真っ黒で焦げが剥がれかけているが、その隙間からは肉汁が溢れてキラキラと輝いている。
喉がごくりと音を立てると、合図もなく食事が始まった。
「う、うまぁー!!!!」
「キュ、キュイ!!?!」
調味料を一切使わない野生的な料理だが異常なまでに美味い。
焦げの苦味と空腹バフで一瞬意識が飛ぶかと思ったほどであった。
しかしウリが調理した肉の味を覚え、生肉を食べなくなったのは誤算だった。
「ふぅーもう無理......」
結局1/6ほどを一回の食事で消費してしまった。
流石に毎食このペースというわけではないだろうが、早く狩をする準備をしなければと思った。
******
俺は悩んでいた。
あのとき石を刃物に変えたチカラが一向に使えないのである。
何度石を握っても投げても、うんともすんとも言わない。
「あー!もうむり!」
やはり堅実に石器的なやつを作るべきだろうか、そもそも石器に向いた石ってどんなのだ?
そんなことを考えている時だった。
「キュイ!」
ウリがあるひとつの石を持ってきたのだ。
それは灰色で雫のような形で表面に剥がれ落ちたような跡がある。
俺の記憶が正しければ黒曜石なんかに似ている。
これは不思議なことにあのオオカミの体から出てきたのだ。
「でも黒曜石って真っ黒だよな?」
そんなことを言っているとウリが無理矢理にその石を握らせてきた。
この石を刃物にしろとでも言うのだろうか。
そう思うと地面についていた左手に違和感が生まれる。
そこにはあの石の刃物があったのだ。
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