第3話 石とオオカミ

「ガルルヴヴゥ」


 涎を垂らしたオオカミは唸りながらゆっくりと近づいてくる。

 震えているウリを抱え上げ、焚き火へ走るタイミングを伺う。


 ドゴォーン!!


 その瞬間外が光り、視界を奪う。

 雷が落ちて隙ができたと本能的に理解した俺は全力で焚き火に走り、松明を手に取る。

 それに気づいたオオカミは歩みを早め、一触即発の状態となっていた。


「くそっ!来るな!」

「グガァヴゥ!」


 オオカミが一瞬、体重を後ろに移す。

 攻撃を仕掛けてくると悟り応戦しようとした瞬間、今までに経験したことのない痛みが直也を襲った。


「ぐはっ!!」


 痛い!痛すぎる!

 今までろくにケンカもしてこなかった直也にとってオオカミの体当たりは到底耐えられるものではなく、4メートルほど吹き飛ばされて地面に突っ伏した。

 口元を拭った手にはべっとりと赤黒い血がついている。

 手に持っていた松明は入口の方へ吹き飛び、オオカミは余裕そうな顔でこちらを見ている。


「くそっ!体が動かない」


 今なおズシズシと鈍痛が走り、体を起こすことすらままならない。


「フガッ!!」

「ウリ!」


 ウリが相手を威嚇し大きな鳴き声をあげると、オオカミへ体当たりを仕掛ける。

 小柄なウリの攻撃は効いているようには見えないし、本人も自覚しているはずだ。

 それでも俺を庇うために立ち向かってくれているのだ。


「ガルゥ......」

「キュイィ!」


 オオカミはまるで玩具で遊ぶようにウリを蹴り飛ばした。

 殺さないようにゆっくりと痛ぶっているのがわかる。


「くそ!離れろ!」


 俺はなんとか気を引こうと手元にあった小石を投げるが反応はない。

 脅威ではないとみなされてしまった。

 これはウリを殺すまでこちらには見向きもしないことを意味し、絶望する。


「グルァ......」


 オオカミはウリを踏みつけ大きな口を開く。

 口には鋭く尖った歯が並んでおり、よく見ると細かながついている。

 オオカミの涎がウリへと垂れ、ウリは死を悟った。


「やめろぉぉおお!!」


 せっかくできた家族をこんなにも早く失うなんて受け入れられない。

 助けなければ、裏が死んでしまう!

 最後に残った石を全力で投げたとき、不思議な感覚に襲われた。

 足や地面についた手のひらが熱くなっていく。

 その熱は体へ移り、腹部を経由して手のひら、指先へと流れてゆく。


 ドサッ......


 次の瞬間、そこには喉元が抉られ、血を流しながらウリに倒れ込むオオカミの姿があった。

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