第2話 火起こしと家族

「うまーーー!!」


 美味い。雄叫びを上げるほどには美味い。

 目が覚めた場所から太陽と反対側、西にまっすぐ1時間ほど歩きそろそろ休憩するべきかと考え始めたころに幅2メートルほどの小川を見つけた。

 本来、煮沸などすべきなのだろうがのどの渇きには耐えられなかった。

 幸いにも水は透き通ってきれいに見えるので大丈夫だろう。


「それにしても、ひとりはキツいなぁ」


 そうなのだ。

 この状況で森にひとりというのは精神的にキツい。

 身辺を整えたら早急に人里を探すべきだろう。


 水辺には様々な動物が集まるので危ないと何かで見た記憶がある。

 ここから近くて身を隠せる場所を探さなければ......

 川を少し上ったところに滝を見つけた。

 そのそばの岩壁に沿って歩くことにした。

 単純に植物が少なく、歩きやすかったのだ。



 ******



「よっしゃー!!」

 川から20分ほどのところに洞窟(というより洞穴に近い)を見つけたのだ。

 歩いてきた岩壁にできた洞窟は直径4メートルほどの半円で中に入ると入り口の倍ほどの空間が広がっていた。


「寝床よし!水よし!あとは......火だな」


 火があれば活動時間が大幅に伸びるし獣除けにもなるだろう。

 俺は近くの枝を折り、草をかき集めた。

 枝を一本弓なりにして布団を縛っていた紐で両端をつなぎまっすぐな枝と組み合わせる。いわゆる弓切り式火起こしだ。




 ******



 2時間かかった。

 なにがって?火起こしだよ!

 草が乾燥しきっていないのもあるだろうが、ここまで大変だとは思わなかった。

 そのとき肩に軽い衝撃を受ける。


「雨か......」


 せっかく点いた火を消さないように洞窟に避難する。


「しばらく止まなそうだな」


 少し休もうと目をつむると、強い眠気に襲われる。

 むりやり誤魔化して歩き回っていたが、さすがに限界が来たようだ。



 ******



 何かに頬をつつかれる。

 湿っていてやわらかい。

 まだ疲れがとり切れておらず寝ていたいが火が消えると困るのでむりやり起きる。


「!?」


 半ばトラウマになっていた にびっくりしてのけぞる。

 しかし目が覚めて頭が回るようになるとあるに気づく。


「小さい、、、?」


 そう。そのは以前追いかけてきたヤツより小さく、1メートルほどしかなかった。


「おまえ、ひとりぼっちなのか?」

「フギィ」


 イノシシが体をすり寄せてくる。

 こいつも成長すれば前のヤツみたく大きく、力強くなるのだろうが孤独には勝てなかった。


「じゃあ名前!ウリでどうかな」

「キュウ!」

「よろしくな」


 心底センスのない名前だと思うが動物に言葉は通じない。

 本人も気に入っている様だし許してほしい。

 孤独を紛らわす家族ができて食料をどうにかしないとと考えていたその時だった。


「グルルヴヴゥ......」


 雨の降る外からうなり声をあげて近づいてきたのは全長およそ3メートル、鋭い牙と爪、漆黒の毛皮を携えている。


「......!」

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