異世界に迷い込んで得た唯一の精製スキル。使い道がわからん......

鮎田 凪

異世界サバイバル編

第1話 ここどこ!?

「ありがとうございましたー」


 定型分と化して本来の意味など失った言葉を発する。

 俺は一条直也いちじょうなおや。21歳、フリーター。

 大卒が当たり前という風習が常識と化した現代社会では深夜のコンビニアルバイトくらいしかできる仕事がない。


 午前5時、仕事を終えて六畳一間の部屋に帰って薄い和布団にくるまる。

 明日も夕方に起きて、深夜に寝巻きでアイスを買いにくる幸せなカップルを眺めるのだ。


「あー!人生万歳!!」


 やるせない気持ちを誤魔化す様に叫んでから俺は眠りについた。

 この薄い布団をありがたく思うことになるとは知らずに。



 ******



 もう6月だというのに程よく乾いた空気が気持ちよく、少し気分を良くしながら目を開く。


「はっ!寝坊か!?」


 辺りが真っ暗であることに気づき飛び起きると次第にが溢れてくる。

 鼻腔をくすぐる草の匂いと少なくとも東京では聞いたことのない種類の鳥のさえずり。

 そして、暗さに慣れてきた目に映る4メートルはありそうなが目に入ったからだ。


「う、うわぁぁぁああ!」


 反射的に叫びながら走る。

 木々が狭い感覚で密集し、背の低い草も生い茂っていたためなかなか速度が出ない。

 冷静に身を隠していたら見つからずに済んだのかもしれないが今は走るしかないのだ。

 あんな獣に襲われればひとたまりもないのだから。


「はぁ、はぁ」


 20分ほど走り回ったころ、イノシシは興味をなくしたようにどこかへ行ってしまった。

 助かったのだ。

 しかし、どうしたものだろうか。

 今あるのは実家から持ってきて使い潰した布団(イノシシに踏まれて汚い)と薄手のジャージ一式(走り回って汚い)だけである。


「でもいちばんヤバいのは感染症だよなぁ」


 足を見ると先の追いかけっこで足がズタズタに切れていた。

 そう。俺は今、裸足なのだ。

 明るくなり始めた空が木々の葉の隙間から見える。


「とりあえずアドレナリンが切れる前に水を探さなきゃな......」


 緊張の糸が切れたのか急に喉が渇き始めた。

 布団を小さく折り畳み、ズボンの腰紐で縛り上げて担ぐ。

 そして俺は水辺を求めて歩き出した。


 誰が何のために俺をこんな森に連れてきたのかは見当もつかないがひとつだけ言いたい。


「初っ端サバイバルっておかしいだろ!!」

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