過去の一幕
それは約100年前の出来事
「サイト、あとどれ位で予知終わりそう?」
少し冷たくて暗い部屋の真ん中
変身した状態で、置かれた水晶に手を当て続け、3日間にわたり能力の行使を続けていた彼女は魔法少女 サイトだ。
「後、本当に少しなの。多分3分もしない。」
それを隣で見守るのもまた魔法少女の1人。
彼女はサイトの友人で、サイトがどうしても嫌な予感がするから大掛かりな予知魔法を使用する、その為何かが起こらないように私を守って欲しい。
との事で今この状態になっている。
お守りを任された彼女は魔法少女サリス。
彼女の姿はまるで絹のような真っ白い髪と、年齢詐欺にも見える程の小さい背丈は小学生と自身を偽っても押し通せるレベルであった。
「やっと、見えてきたよ、サリス」
「本当?」
サイトは予知に関しては魔法少女の中でもトップクラスの才能を誇り、今迄も複数の事件を先に予知して政府の手助けをしていた。
そのサイトが、普段なら政府に相談すれば何とか出来るという感覚の元連絡を取っていただろうに、サリスの元へ電話をかけて「私のことを見張っていて欲しい」だなんて言うものだから、サリスも嫌な予感がしてサイトについているのだ。
そして案の定のこと水晶を通して未来を、世界を見通したサイトはその表情を青く染めた。
「サイト!大丈夫!?」
「あ゛ぁ
さ、サリスちゃん…」
らしくない声音でサイトは恐る恐る水晶から手を離し、涙をポロポロと流しながらサリスへと抱きついた。
余りにも突然の事ではあったが、サリスは何となくこうなるのだろうな、と予想していた。
だからサイトが落ち着けるようにと、言葉をかけた。
「大丈夫だよ、大丈夫だから。私がいるから。
何を見たのか、私に教えてくれない?
多分、大事な事なんでしょう?」
サリスはいつもの明るい友人らしくないサイトを見て、嫌な予感は拭い切れることが無かったが、それでも何か嫌なものを見たらしいサイトを胸の中でなだめ続けた。
サイトが泣き止んだのはそれから10分後のこと。
ようやく普通に言葉を喋れるようになったサイトは、恐怖を隠しきれないながらも必死に自身が見た予知、世界、光景をサリスへと伝えようとした。
「私が見えたビジョン、それはとある4体の魔獣。終の四獣と呼ばれる存在だったの。」
「終の、四獣?」
「うん、その姿が何となく見えただけで今までに存在していた魔獣とは一線を画する強さを持った魔獣だって、到底敵わない存在だって理解したの。」
「…勘弁して欲しい。半年前だってSランクの魔獣が出現する事を予知して、対応が上手くいなずにランカーである魔女が1人死んだんだ。
なのに、一線を画す?しかも4匹だって?」
どうやら、既にサリスの声はサイトには届いていないらしかった。
そのまま言葉を少しずつ紡ぐサイト。
しかし、やはり内容を語り出すとその震えは再びやってきて、どうしようにも止まることはなかった。
でも、彼女は必死に、本当に必死にサリスへと伝えたのだ。
「終の四獣、一体目は、ハルマゲドン。」
終の四獣と呼ばれる存在の1匹目の名前を語った時点でその異様さを、サリスは直ぐに理解した。
今までは例えどれほど強い魔獣でも、それがSランクの魔獣であっても、サイトから魔獣の名前を聞くことなんて無かった。
そもそも魔獣に名前など無いのだから。
だからこそより一層不気味さが加速する。
そして名前を言い終えるとサイトは取り憑かれたように見えた景色を、世界を言葉に移し替えてゆく。
「ラッパ、黙示録のラッパ吹き。
神の使いが私達を、世界を殺す。」
魔獣には色々なタイプがいるが、特に強いのは神話型、特に神様やその他に類する存在なのだ。
日本にしか魔獣は存在しないというのに、平気で海外の神話に登場する怪物達が日本に顕るのだ。本当にふざけている。
黙示録のラッパ吹き、確か7人の天使が順にラッパを吹いていき、それに応じて天災が起こる、などと言うものだっただろうか。
「2体目に、ラグナロク」
「天使ってだけでも相当なのに、ラグナロクときたか…」
「災禍が全てを焼き払い、世界は灰に帰る。」
要するに世界の終末、神々と怪物の戦争を模した魔獣がラグナロクであった。
どのような能力なのか、それすらも分からないのだが、2体目の時点で既に要政府報告と言う程の内容だろう。
しかしサイトは止まらなかった。
まるで自身が感じた恐怖の全てをサリスに押し付けるように、逃げてしまいたいとでも言うかのように、続ける。
「3体目は、カタストロフ。」
「これまた大層な名前だ。」
自分の言葉がサイトに聞こえていない事を察しながらもサリスは相槌を挟んだ。
「破滅そのものの名を冠する王
彼の者が与えるは破壊の概念そのものであり、それは崩壊の体現者。」
「4体もそのレベルの奴がいたら、どうしようも無くない?」
どうやら3体目は何かを模したものでも何でもなく、破壊の概念そのものが魔獣となった存在らしい。
ラグナロクやハルマゲドンと比較するとマシなように思えたサリスであったが、サイトはどうやら違うらしく、先の2体の時のは比較にならないほど冷や汗を垂らしてカチカチと歯を震わせているようだった。
そしてようやく最後の一体について、話をしようとした所だった。
「違う、違うの。
4体目は、それら全てをも消し去る本当のバケモノ。
名前は 、オブ――――
突然世界にノイズが走った。
「あれ、なんだっけ、私…何してたんだっけ?」
「サイトが予知してくれた魔獣、終の三獣についてサイトが説明してくれようとして、3体目の説明が終わった所で気を失ったんだよ。
3日間も部屋にこもって予知をしていたんだから、そりゃこうもなるよ。
私が政府の人を呼んで話しておくから、サイトは休んでなさい。」
「うん、ありがとう。」
そう、先程サイトは私に終の三獣というものの存在を説明をしてくれていたのだ。
その終わりに、気を張りつめすぎていたのだろう、サイトは突然ふらついてそのまま倒れ込んでしまった。
サイトが眠りについたタイミングで、彼女を起こさないようにとそっと部屋を出たサリスは先程受けた話について相談したい、と政府の人間を呼びつけた。
事が終わった後、目を覚ましたサイトの顔色は随分と良くなっていた。
§
そうして世界は回っていくのだ。
誰しもが何か大事なモノを失ったままに。
ぐるぐると、歯車のように回り続ける。
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