考えたくもない話

なんというか、驚いた。

今考えて見れば、マギという組織の根幹を担う転移役が居た時点で察せなかった私の頭の悪さにも驚きだが、あのレベルの魔法少女がトップをやっているテロ組織だったとは思いもしなかったのだ。


石原さんに連絡してみたところ、私が倒した赤髪、竹中 火憐がテロ組織 マギ のリーダー格だったらしく、あれで組織は壊滅らしいのだ。


「めちゃくちゃ驚いてるとこ悪いけど、リヴィアちゃんが強いだけだからね?

実際政府に付いてた魔法少女で被害者も出てるし下手な強さを持ってただけでは焼け石に水レベルの強さしてたんだよ?

まぁたしかに私達魔女が居たら雑に捻れるレベルなんだけどさ。」


私はあからさまな反応を取りすぎていたらしく、エラさんにマギというグループがどれほど政府に厄介がられていたのかを説明していた。


「それもそうですね、先程も転移しようとしていた奴をキャッチしていた訳ですし。」

「凄いでしょ!私!褒めてくれたっていいんだよ?」


そうして私達がデパートを出たのは夕方の5時頃、エラさんとは別れて私は支部の方へと帰って行った。


帰る途中にエラさんが地面に沈んだかと思ったら30人のエラさんが地面から生えてきた話しは、まぁ今度することにしよう。

アレは多分、ギャグ漫画の住人なのだ。


「ご苦労様だ、リヴィア君。」

「お疲れ様〜、今日も随分と濃い一日を過ごしてらっしゃる様子で。」


帰ってきた私を出迎えたのは横に電さんを連れた由伸さんだった。

電さんは今日は変身もしていないらしく、普段通りの姿で由伸さんにピッタリとくっついていた。


デパートでの1件はきちんと政府によって処理されるらしく、その過程で私が特に何か事情聴取をされることも無くなったようだ。

今日は随分と長かったように感じるが、一旦この魔法少女の姿を解除しておこう。


『解放』


忘却の世界から抜け出す詠唱が『解除』で魔法少女の姿を解除するのが『解放』とはこれ如何に、と思わなくも無いが、理論も何も分かっていない魔法少女の変身に文句を言っても仕方がない。


その言葉を唱えるとリヴィアの美しかった水色の髪は色が抜け落ちて白色へ、まるでお姫様のように綺麗だった白いワンピースは解けて元の衣服へと戻っている。

私はリヴィアから只の形無 葵に戻ったのだ。


「労いの言葉ありがとうございます。

何か必要な報告等はありますか?」

「特には無いな。

それじゃあ葵君、電と一緒に先に家へ帰っていてくれないか?」

「わかりました。」


§


形無 葵と浅葱 電を帰らせた後浅葱 由伸は副支部長 石原の元へと向かっていた。


「どうかね?石原君、今回の件で捕縛された人達の様子は。」

「基本この手の未登録魔法少女が行う能力犯罪は死刑が妥当なところです。勿論ランキング50位の魔法少女を殺されている以上、リーダーの竹中火憐は死刑以外有り得ません。」


2人は今回のデパート襲撃時、リヴィアによって制圧されたテロ組織マギのグループについて話しているようだった。


「竹中火憐は、と言ったな?とすると例の転移役かね?」

「はい。どうやら彼女は自身の親族を人質に例の襲撃に組み込まれていたようで、人殺しに加担しているとはいえ情状酌量の余地はある、何より他者を含めて転移する能力は貴重すぎるんです。」


そう、由伸が心配していたのはその事だった。

今現在リヴィアによって齎された情報により何時どこに終の三獣が現れるか正確に分からない以上、戦力としての魔法少女は勿論サポートとしての転移持ち魔法少女は居れば居るだけ安泰だったのだ。


今現在魔法少女な日本に5000人いるが転移に近い能力や転移を持つ魔法少女は100名もおらず、他者を含む転移となればその数は両手で数えられる量になってくる。


それがただの犯罪によって、その能力が潰えてしまうのは余りにも惜しすぎる。


恐らくそれ以外の魔法少女や構成員の全ては死刑となるのだろう。

しかしそれでも、転移持ちを確保出来るのはこの国にとって有難い事なのだった。


「そうだな。現状において転移持ちは喉から手が出るほど欲しいと言わざるを得ない。元犯罪者を拾ってでも、それを有効活用して国を守るのが私達の使命と言うなら、私はそれに従おう。」

「それとついでで、リヴィアさんの事なんですけど…」


すると石原はもう1つの話、リヴィアに関しての話を切り出してきた。


「あの人100年前の常識でやっているのか、それとも杜氏として生きてきた頃が相当に修羅だったのかは分からないんですが、結構ヤバいですよ。」


その内容はリヴィアの態度や行動だった。

一日2日程度しか接していない由伸の目線からしてもリヴィアは、前世の記憶によるものもあるのだろうが下手な大人よりも物腰が丁寧で冷静な人間だと判断していた。

しかしどうやら石原の目線によるとそれは違ったらしいのだ。


「確かに100年前だって魔法少女による犯罪はかなり重めの罰則だったですけど、多分あの人相当な数の犯罪を犯した魔法少女殺してますよ。」


勿論昔だって基本的には犯罪を犯した魔法少女はその場で殺さずに今回のように捕縛するのが当たり前だったのだ。


彼の語った考察によると

リヴィアに敵の奇襲を頼んだ所、それは慣れていないと言ったはずなのに、無線機から聞こえてくる限りではとても慣れた動きだったようで、そこだけを見れば確かに彼女の能力があるからこそのものだと取ることも出来るのだが、彼女は「このような無力化は慣れていない」と言ったらしいのだ。


つまり、予想の域を過ぎないのだが、彼女は100年前政府に飼われていた頃、恐らく犯罪を犯した魔法少女の処理も任されていたのだ。

どうしてそこまでの事をしていたかもしれないリヴィアの情報が全くないのだ、と言われればやはりリヴィアの情報を探った時に異様なまでに記録が残っていなかった事に付随するのだろう。


そして今更になって由伸は気がついた。

魔法少女との戦闘経験があったからこそ当たり前のようにあの訓練用のポッドでリヴィア君は戦えていたのだろう、と。


魔法少女になれると言っても、前世含めたかだか40代程度の人間が、虚をついてフォルトゥナの首を落とすなど普通の精神状態なら不可能だろう。

普通の人間は他者の首を忌避感なく落とす事や自分の腕を切って囮にする事など不可能だ。

例えそれを電子空間だと認識していても、だ。


「それは、あまり考えたくない話だ。」

「ですね。」


彼は、彼女は何処まで酷い人生を送ってきたのだろうか?

それは今を生きる由伸には一切理解出来る事の無い問いだった。


100年前にあったであろう腐ったような政府に苛立ちを覚えるも、それは結局のところ今は存在しなく、やり場のない苛立ちを捨てるべき場所などは存在していなかった。

だからこそ彼は誓った。


ただの自己満足かもしれないが、それでもせめてリヴィア君を、形無葵という普通の少女としてこの時代では生きさせてあげたいと。

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