魔法少女に常識は通用しない
家電量販店にギュウギュウに詰められ、拘束されて押し黙っている人質たちと、その出口の2箇所に5人づつ配置されている未登録の魔法少女達。
石原さんからは無力化を頼まれているため、殺すことも下手に出来ない。
それが本当に厄介で仕方がない。
話に聞くにはこのテロ組織 マギ には転移持ちの魔法少女がいるらしく、そのため毎回ギリギリの所で逃げられているらしい。
しかも恐らくは指定した人間だけ、数十人分は楽に運べると推定されている。
だから初撃で仕留めるのはその転移持ちにする事にした。
家電量販店の入口の1箇所にいる魔法少女5人と銃を持った構成員達がトランシーバーで別の場所に配置されたメンバーと会話をしているようで
デパートの中央に魔法少女が10名と銃持ちが18名
家電量販店に魔法少女10と銃持ち10が2箇所に5人ずつ。
という風に分けられているらしい。
「金の受け渡しは既に指定してある。
そこで襲撃されたら人質ごと転移する事も相手に伝えてあるから、ろくな動きは出来ねぇだろうが、ヘマはすんじゃねぇぞ。」
今までの会話を聞いているところ、目の前にいる赤い髪の魔法少女がリーダーらしく、年齢は20後半のように見える。
そしてその横にいる、中学生ほどの水色髪の方が転移持ちらしい。
残り3人の魔法少女はまだ若いようで、少し緊張しているようだ。
正直2箇所に人質を殺せる人員が配置されている時点で私からしたらキツイ訳ではあるが、片方を制圧すればもう片方はエラさんに任せられるだろう。
『解除』
その声とともに固まっている5人の銃持ちの足の健を切りつけて、状況が理解出来ていない魔法少女の1人を蹴り飛ばして棒立ちしている残りの2人の魔法少女にぶつける。
「ガハッ!!!」
「ぐあっ!」
銃持ちの構成員たちや魔法少女達が痛みや衝撃で声を上げているが、無力化は無力化だ。
今回はラッキーなことに魔法少女全員の意識を飛ばせたらしい。
壁が凹む程度の衝撃を食らっただけでのびている魔法少女を見る限り、素の身体スペックと能力に頼りきっているタイプだったのだろう。
「誰だっ!」
「止まってください。」
私はそのまま水色髪の首にナイフを押し当てた。
「ひっ、」
「静かにしてください。
転移の詠唱を開始した瞬間に首を落としますよ。」
いつでも殺せる事をアピールして赤髪に静止を呼びかける。
流石に嘘だが、人質ごと持っていかれたら面倒なので脅すだけはしてみる。
何より今回の作戦は無力化なのだから。
なんだかまるで私が凶悪犯のようではないか。
今のやり取りや魔法少女が吹き飛ばされて壁にめり込んだ事による衝撃で建物が揺れ、人質の啜り泣く声が聞こえてきた。
拘束されている全員が少しざわつき始める。
赤髪の声とその状況に反応したもう1箇所に配置されている魔法少女と銃持ち達もこちらへと駆け寄って来ようとするが
上からT字ポーズで回転しながら降ってきたエラさんにその大半が吹き飛ばされる。
しかも一切体が触れてもいないのに、だ。
「アタリハンテイ力学様々だね!」
そのままエラさんが地面に降り立ったと思えば、着地した瞬間に横に落ちてきた。
そしてそのまま窓を貫通して消えていった。
魔法少女に常識は通用しないのだ。
でもこれは、ちょっとないだろう。
「……それで、大半は制圧しましたが貴女はどうしますか?
あちら側にいる銃持ちで私や人質を撃たせますか?」
なんともしまらない。
がそのまま私は赤髪に話しかける。
正直なところ、デパートの中心に居るメンバーが集まってこられると人質が危ないのでこの脅しは賭けではあるのだ。
勿論今のエラさんの移動で中心のメンバーを倒しに行った事も考えられるが、多分逆方向なので無いだろう。
「よし帰ってきた。
って、人質とか中々エグいことするね、君。」
気がつけば私の横にエラさんがいた。
しかしなんだか、頭がズレている。
悪口とかでも何でもなく、首の上にあるはずの頭が離れており、首から20cm程右上の場所から声が聞こえてくる。
ツッコミは無しだ。
「エラさん、デパート中央のメンバーたちの制圧に行ってくれませんか?
あっちにいる人達に、ここに来られたら私は転移持ちの対応で手一杯なので人質が危ないんです。」
「はいはい、了解。
んじゃそっちは任せるよ?そこでこっちを睨んでる赤色の対応も頑張って〜」
そう言ってエラさんはスキップで移動しているが、人質たちの目線はエラさんの右上にある頭に釘付けだ。
しかし、コレで懸念点のデパート中央にいるメンバーも問題無いだろう。
「クソ、
そう言って赤髪が話しかけてくる。
どうやら私が人質に取っている人は水無月というらしい。
それにしてもテロのリーダーをしている人に性格が悪いと言われるとは、少し心外だ。
「でも、」
そう言って目の前の赤髪は私に全力で殴りかかってくる。
しかも私が水無月と呼ばれたこの水色髪の少女の首をいつでも取れる状況にいるにも関わらずだ。
「私だってランキング50位の魔法少女殺してんだ。1人で逃げ出すくらい訳無い。」
「そんな、火憐さ」
私が人質にしている水無月が泣き出した。
文脈的に切り捨てられることを悟ったからであろう。
私は水無月を投げ捨ててその拳に応戦する。
「キャあっ!」
50位のランカーを殺した、とは言っていたがその程度なら私を倒す事は到底不可能だろう。
確かに速度としてははやいが、椿さんに比べるとまるでスローモーションかのように感じるほどには、そこには差がある。
私の顔に迫っている拳に横から蹴りを入れてその軌道をそらした。
その間バランスを崩した体に続けざまに殴りを3発入れて、がら空きになった胴体に蹴りを入れて吹き飛ばす。
ナイフもいいが結局は肉弾も小回りが利いてやりやすかったりするのだ。
人質の居ない方向に蹴り飛ばされた赤髪、火憐と呼ばれた女はこちらへと怒りの表情を飛ばしてくる。
『焼きつくせ、思う
「やらせませんから。」
「がハァっ!」
小声で詠唱を開始しようとした赤髪の顔を殴り、そのまま倒れたその女の上に馬乗りになって1回、2回、3回と顔を殴る。
私の身体能力は椿さんには劣っているとはいえ、銃弾は目で追えるしそれを弾くだけのスペックは有している。
「がっ、あ゛ッ、」
正直この身体能力を超えられる魔法少女はひと握りであると自分でも自負しているほどなのだ。
だからたかだか50位程度の魔法少女を殺した力があるだけで、私を倒すのは容易では無い。
『私を連れて羽ばたいて』
しまった、
後ろから声が聞こえた。
どうやらそれは私が先程投げ捨てた水無月の詠唱だったらしいが、赤髪を完全に無力化する為に意識を飛ばそうと殴りつけていたが、そのせいで水無月の詠唱を許してしまった。
聞いていた話では詠唱は1分程度かかるはずだったのだが?
急いで私が馬乗りにしている赤髪を見るが、口から血を流しており、転移した様子はない。
人質達や、床に倒れ伏してのびている魔法少女と構成員たちに目をやっても、誰も減っていないようだ。
どうやら先程赤髪が水無月を裏切ろうとしたのを確認して、水無月もまた赤髪を裏切ったらしい。
「グゾぉ!フザゲんなぁ!」
そしてその状況を把握したらしい赤髪はどうやら自分が裏切られた事にご立腹らしいのだ。
自身は相手を裏切ろうとしていたのに、だ。
それにしてもマズった。
1番厄介な転移持ちを逃がしてしまった。
「うっわぁ、ちょっとビジュがゴア過ぎない?」
怨嗟の声を上げる赤髪を眺めて、ポケットに入れていた通信端末の電源をONにしようと自分のポケットをまさぐっていたら、制圧を終えたエラさんが戻ってきたらしかった。
しかも先程逃げ出したはずだった水無月を横に連れてである。
「お疲れ様です、エラさん。」
「ねぇ、もしかして君って相当やばい?」
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