協力者の魔女がなんか変
渡された通信機器によって助かったことにデパートへのルートは一切のミスもなく最短で辿り着く事が出来た。
移動は私の忘却と全力ダッシュにより済ませたのだが、やはりこれらは少し相性が悪いようで、私の忘却された空間においては私だけが相手の声を聞くことが出来るので、返事をする事が出来ないのだ。そしてそれを使っている間は通信機器に付けられているGPSの位置表示すらも消失する。
だから今現在オペレーターを務めてくれている石原さんは私の返事もない状態で、きちんとわたしがルート通りに進んでいるのかも分からない中、淡々と必要な情報を教えてくれていた。
そしてその中に、たまたまデパートの付近で協力してくれる魔法少女、しかも魔女が見つかったという情報も含まれていた。
しかし何故付近の魔法少女達に応援を頼んだ時に彼女は反応しなかったのだろうかという疑問
それは今私が目の当たりにしている光景に答えがあったのだ。
多少息を切らしながら、閉鎖兼警察に包囲されているデパートの隣にある駐車場へと向かうと彼女は居た。
年にして20歳程度だろうその若さに加え、美しく輝く金髪と整った顔。
100人が見れば80人は2度見するであろうクオリティの造形をしていた。
まるでそれはゲームのキャラクターのようだ。
服に関しても特に言うべき点が無く正に普通の一般人女性と言うべき装い。
そして
サボテ〇ダーのポーズをしながら体を地面に半分埋めていた。
私もよく意味が分からないのだが、サボテ〇ダーのポーズを取りながら地面に埋まっていたのだ
└|∵ |┐
そう、下半身が埋まっているのでこういう感じだ。
そして彼女は私を見るなり
「やっと、やっと助けが来たよ!
ちょっとスタックしちゃったから助けてくれない?」
そう言い放った。
彼女はランキング4位 不具合の魔女 エラ と名乗り、私が埋まっている場所から左に4m辺りを殴って欲しい、と言った。
状況を理解する事は出来ないが、魔法少女にはそこら辺でツッコミをしていたらキリがないのだ。
だから言われた通りにそこを軽く殴りつけてみると、驚いた事に人を、エラさんを殴った感覚が確かにあったかと思えば埋まっていたはずのエラさんが目の前にいたのだ。
「ったた、痛い、けど助かった!
無理矢理出ようと思ったら出来るんだけど、建物が壊れちゃうからさ、」
未だに状況を理解できず、さらにその光景を見て目をぱちぱちとさせる私に彼女は説明する。
自身の能力は文字通りに「バグ」であると。
「今日ね、管理局の本部で会議があったらしいのよ。
ちょっと面倒で、でもその会議に出る魔法少女の子が面白そうな情報を持ってたって聞いたから顔くらいは見ておきたいなって、だからこのデパートで時間潰してそろそろかなって思ったら、なんとテロ組織の襲撃。
だから変身して技使おうとしたら、ミスってこうなっちゃった。」
最後、さすがに端折り過ぎではないだろうか?
まぁ私の能力にしろそうなのだけれど、魔法少女の力に物理現象や整合性を求める方が間違いなのだ。
そして今先程エラさんが話していた会議に出る魔法少女とは私の事だろう。
まぁこれも奇妙な縁という物になるのかもしれないなと思いつつ今からどうするかを話す。
「とりあえず、現状がどのようなものかは把握していますよね?」
「ん?あぁ、もちろんもちろん。
私も通信端末はあるし、じゃないと応援要請に応えられないしね。」
現在の目的は三つある。
人質を全て、ダメージなく救出する事とデパートをの奪還。
そして敵の無力化だ。
流石に私でも同じほどの年齢であろう少女を殺すのは心が痛むだろう、ということらしい。
実際のところやれと言われたらやるのだが、内心は極力やりたくないので助かる。
「うーん、私がまたスタックしたら助けて貰えるように、着いてきてくれるよね?
そうだ、君のランキングは?」
少しエラさんは考える素振りをして言う。
「勿論ついて行くつもりです。
ランキングは、まだありません。」
「なるほろ?つまり私のサポ要員って訳だ。」
今の言葉的に多分私は戦力外として見られているのだろう。
この人は会議に出ていないから私のことを知らないし、そもそも自身が魔女であるということを自覚しているなら、たかだか1つの組織を潰すのくらい訳ないのだ。
それが、人質にダメージを与えないとなると少し話が変わってくる訳だが。
「まぁ、そんなところです。」
「OK。とりあえず君の能力を聞いておいていい?」
「時間が無いので大雑把に、透明人間になれる的な能力です。
襲撃に向いています。」
ほえー、とその返答を聞き流すエラさん。
実際荒事の大半は魔女1人で事足りるのだからそれは仕方ないけど、今回は少し違うのだ。
「でもあれだね、今回は人質ノーダメのクリアだからだいぶ向いてるじゃんか。」
エラさんの言うとおり、まぁデパート内部にどれだけテロ組織の相手がいるかどうかは考慮しなければならないとはいえ私の能力は間違いなくこういう状況に対して特攻的な力を持っているだろう。
ラッキーラッキーと言葉を発するエラさんにそろそろ建物へ入ろうと促す。
「それで、デパートにはどうやって入りますか?
警察が包囲しているせいで多分どこも警戒されていますが。」
「そうだったそうだった、それじゃ行こっか。手、繋いで?」
そうすると脈絡も無しに手を繋ぐのを強制される。
そしてエラさんは私と手を繋いだままに何回かジャンプと屈伸を繰り返した。
何をしようとしているのか、と聞こうとした瞬間に
「よし、行けた。」
光景は切り替わっており、どうやらデパート内のトイレらしい。
私達が居た駐車場とデパートは数百メートルは離れていたはずだが、まぁそれも彼女の能力と言うなら特に何かを聞く必要も無いだろう。
「良かったー、壁に埋まったりとかしないで」
!?
少しギョッとしてしまったが、まぁこれも仕方がないことだろう。
なのだけど……
「すみません、さっきからその頭の上に出てる白いモヤモヤみたいなの、何でしょうか?」
「あぁ、これ?
さっき瞬間移動する時に出たパーティクルが消えないんだよね。私にもよく分からない。」
そう、たまにいるのだ。こういう魔法少女。
自身の中で完全に確立された謎の物理法則や現象ごと能力として使ってくるタイプ。
私も間違いなくその類ではあるが、この人も相当なものだろう。
今だってほら、女子トイレの扉の隅に向かって歩き続けて首をグルングルンと回している。
エラさんが持っている美貌の全てをマイナス評価にたたき落とす程の奇行ではあるが、勿論その行動には理由があったらしい。
「うん、わかった。敵はデパート内に38人、うち魔法少女は20名。
人質は家電量販店のエリアに全員集められてるね。」
どうやら索敵をしていたようなのだ。
ツッコミを入れたいのだが、本当にツッコミを入れたいところなのだが、今は人質を助ける事が優先順位が高いので大人しくエラさんに着いて回る事にする。
「それじゃ、着いてきてね。
あと私は攻撃受けないけど君は気をつけて、自分のことは絶対に守るんだよ。」
この言葉だけを聞いていたなら、私はこの人を頼れる魔法少女だろうと思っていたのだろうが、何せコレなのだ。
「わかりました。」
そうして女子トイレを出て、人質が集められている家電量販店へと向かう。
どうやらそこには政府に登録を行っていない魔法少女10名と銃を持ったテロ組織の構成員達がいるらしい。
「という事ですが、よろしいですか?石原さん。」
『むしろ此方から先に人質を助ける手段を取っておいてくれと頼むところだった。』
私は小声で、私とエラさんの会話を拾っていたオペレーターこと石原さんに話しかける。
ここからはバレないように通信を完全に遮断するという話を伝えてから再度エラさんへ向き直す。
「私の能力は隠密向きなので、初撃は任せてください。3人程度なら確実に飛ばせます。」
「ランキングが無いというのに、大した自身だ。危なかったら速効で手出すよ?」
やはりこういう時は魔法少女らしく、一般人は絶対に助けるという意思表示を行うエラさんであった。
だから私はそれを見て詠唱する。
『我は忘却を望む』
「ほえー、本当に消えた。
家電量販店はここから真下の場所にあるよ。」
そう教えられて、私は近くにあった止まっているエスカレーターを歩きで下っていく。
エラさんは私が襲撃を成功させる、もしくは失敗させた瞬間に先程のような瞬間移動でその場へ飛んでくると言っていたので、今の場所に残るらしかった。
それで、エラさん。
Tポーズの姿勢で床に埋まらないでください、なんかクルクル回り始めたんですけど、本当にあれは何なのでしょうか。
というか下半身が埋まっているのに、家電量販店がある下から見えていないんでしょうか?
随分と、癖の強い方と協力する事になってしまいました。
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