札束ビンタ系お嬢様

唐突に現れたお嬢様ことヒナタさんは魔法少女のランキング一位を名乗った。

私の横についていた由伸さんに目をやると頷いたので、どうやら本当のことらしい。


話を聞いてみると「自分に魔女という名前は似合わない、お嬢様と呼びなさい」と言う謎の圧をかけて、しかもそれを管理局側が通してしまったらしいのだ。

なので彼女に魔女としての名前は無いらしい。

椿さんにフォルトゥナさん、そして電さんと今のところ3人の魔女と会話を交わしているが、これほど癖の強い人物は余りいないだろう。


そして本題の能力を買わせてくれ、という話に戻る。

彼女の能力は他者の能力を買う力。

と言っても買ったとしても他人の能力は無くなる訳ではなく、劣化コピーとして取得するらしい。

劣化コピーとなった能力はだいたいその効果の2分の1だけを引き出せるようになるらしいが、実際それだけでもほぼ最強クラスだろう。

そして制約も存在しており、両者合意の上でないと売買が行えないらしい。


彼女は自身が強いと思った能力を全て集めて完璧の名に相応しい「お嬢様」になる計画を立てているらしいのだ。

そうして先程の戦いによって目をつけられたのが私ということだった。

確かに私の能力自体、私自身でも最大限度の効果を発揮出来ない上で終の三獣を討伐出来るだけの効果があるのだ。

私の能力を買えば実質的な劣化コピーどころか普通のコピーと言っても差支えがないほどだろう。


言い値で買うと言った理由にはどうやら彼女は財閥の令嬢らしく、しかも魔法少女管理局のメイン的な資金源になっている会社の令嬢らしい。

つまり彼女は才能にも生まれた場所にも恵まれた、天が二物を与えたという珍しいパターンなのだろう。


道理でお嬢様という呼び名のゴリ押しが通る訳だ。

しかし言い値で買う、と言っても正直私はカタストロフが討伐出来るなら私の能力などいくらでも安売りしてやっていいのだ。


「何円でもいいですよ。100円でも、50円でも。」


それが本心なのだから。

いや、少し待とう。

私は一応由伸さんの世話になっている身なのだから、彼にも勿論お金を入れなければならないだろう。

しかし魔獣を倒せば金は管理局から出されるのだ。100年前はそもそも管理局側に付いていたから報酬金も無かったが、フリーになった今なら口座さえ作ってしまえばお金など幾らでも稼げるのだ。

今ここでわざわざお金を手に入れなくてもここからコツコツと魔獣を倒していけば私一人程度迷惑には絶対にならない量のお金を由伸さんに渡せるだろう。


「100円、ですって?……ませんわ。」

「…はい?」


何か気に触ってしまったのだろうか、ヒナタさんはぷるぷると震えてこちらを睨む。

何をしたかは分からないがとりあえず謝った方がいいだろう。

そうして私は謝罪をしようとするが


「ぜんっぜん美しく有りませんわ!」


ヒナタさんが吠えた。

続けざまにヒナタさんはまくし立てる。


「ワタクシは自身をより磨きあげるために能力を集めているというのに、リヴィアさんが自身の能力をその程度の価値と評するなら、

その能力は買うに値しませんわ!!!」


私の能力を安値で提示したのが彼女の気に触ったようだ。

確かに自身が見込んだ力を持っている存在が、自身を過小評価して安く売り出しているのはあまり気分がいい事では無いだろう。

彼女には失礼な事をしてしまった。


「気に触ることを言ってしまったのなら申し訳ありません、配慮が足りませんでした。

私自身カタストロフを倒せるなら、この能力など幾らでも売ってやろうと思っていましたので。」

「成程ですわ、そちらの事も確かに考えるべきでしたの。けれど、やはりその安値は納得いきませんわ。」


となるとやはりどちらも納得のいくラインでの取引となるのだろうが、私は本当に幾らでもいい。

だから


「由伸さん、私の能力の価値を決めていただけませんか?」

「なっ、何故だね?」

「私は今後由伸さんの家で長期間お世話になりますので、それに相応しい代金をこの取引で選んで頂けたらいいな、と。」


おっと、珍しく由伸さんが動揺している。


私の中で着々と冷静沈着な大人のイメージが定着していた由伸さんのこのような表情は貴重だ。大事に脳内に保管しておこう。

ネタ抜きに話そう、私が由伸さんの家でお世話になる事を考えると金銭はあればあるだけ私の元リーマンとしての精神が安定するのだ。


もちろん報酬金も渡すとはいえ、最初の方は何もお金を渡さずに家に泊めてもらう事になる。

流石にそれは私の精神が耐えられない。

だから私が居る分の宿代を由伸さんに決めてもらおう、という魂胆だ。


「あら、リヴィア様がそうおっしゃるなら私はそれでもいいですわよ?」

「本当に良いのかね、それで…」


しかし、まぁ察してはいたのだが由伸さんも電さんが居るし自身もそこそこ稼いでいるのでお金には困っていないらしいのだ。


「ならば、私がリヴィア君の力を過小評価する事は無い。だから安値など提示せず、3億でどうかね?」

「あら!本当に?」


話を聞いていると由伸さんがヒナタさんに対して、私の能力を3億円で売りつけようとしていた。

いやいや、流石にそれは無いだろう。


私の心の中にいる杜氏という小心者がとんでもない悲鳴をあげているのを聞き届ける。

だって3億だ。

3億あればなんだって出来るだろう。

私の能力にそこまでの価値を見出してもらえるのはさすがにふっかけすぎだ。


「よ、由伸さん。」

「何かね?」

「流石に高すぎませんか?」

「いや、一切高くない。

私は君の能力を詳しくは知らないが、間違いなくそれ相応の力があると分かっている。」


何せ、と由伸さんは付け加えた

話によると私がカタストロフと戦ったあの時の兵庫県はほぼ壊滅状態だったらしく、復興費用には12兆8000億円。

それとほぼ同レベルのハルマゲドン達終の三獣がほぼ被害なく討伐されている事を考えるとむしろ安すぎるほどだ、と語った。


それを聞くと確かに理解出来ない事もないのだが、何せインフレがすぎる。

しかし実際聞くと被害総額なども考えた場合、私の能力ひとつに3億円など本当に安いものなのだろう。


「本当に3億円でよろしいの?リヴィアさんもそれでよろしいかしら?」

「はい、由伸さんがそれで了承するなら私も問題ないです。」


数百億までなら出せたのだけれど、まぁいいでしょう

という呟き声が聞こえてきた気がしたのは私の気のせいのはずだ。

最近色々なことが起こって私も疲れているのだろう。

軽く目の涙点付近も揉みほぐし、体を伸ばす。


「なら、交渉は成立ですの。まずは最初に能力を頂きますわね?」

『トレード:1』


そう言ってヒナタさんは能力を使用したらしく、私の肩に触れる。

なんだか体の奥が少しむず痒いような感覚に陥り、何かが私から抜けていくような気がする。

すると私の周囲が光り出し、その光がヒナタさんに吸い込まれていった。

なんともまぁ幻想的な光景だった。

やはり魔法少女という名だけあって、これは魔法の類なのだろう。


もうそろそろ終わるかな、と見ていると私から出ていった光がヒナタさんに触れようとしていた。

しかしその瞬間、突如として光が真っ黒に染まりヒナタさんを弾いた。


「キャっ!」

「ヒナタ君!!!」

「大丈夫ですか!?」


突然にしてひなたさんを弾いた黒い光は再度私の中へと戻って行った。

その結果を見て私と由伸さんは弾き飛ばされたヒナタさんの元へと駆け寄る。

能力の発動失敗にしてはあまりにも不吉なそれは、契約の失敗だったのだろうか?


「なん、ですの?今のは」


どうやらヒナタさんすらもさっき起こった出来事が何なのかを理解出来ていなかったらしい。

能力の暴発などでもないだろう、そもそも聞いている限りヒナタさんの能力を買う力はダメージを受けるようなものでも攻撃を行うようなものでも無いのだから。


「今のは、何があったんですか?」

「分かりませんわ、今まで一度もあんな事、なった事はありませんの。」


となると私の能力がどこかいけなかったのだろうか?

私自身感覚的には交渉が成立し、体から何かが抜けていくのを感じたため、確かにそれは成功していたはずなのだ。

誰も状況を理解出来て居なかった中で、ヒナタさんはポカンとした表情で言う。


「お金が足りませんでしたの?」


その後、今度は100億円を条件にトレードを試みたが、またしてもヒナタさんは


「きゃっ!」


と言う声を上げながら私から出てきた光に弾き飛ばされていた。

しかしヒナタさんはめげることなく、取引を続けようとした。


「次は、1000億円ですの…」


多分、そう言う問題では無いだろう。

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