長続きしないもの。

無数の交渉と契約を行い、その数光に弾き飛ばされる光景を私達は10分ほど眺めていたのだが、遂にヒナタさんが折れたようで


「もう、諦め、ますわ。」


と、息も絶え絶えという様子だった。

最終的にヒナタさんが私の能力につけた値段は3兆円。

聞いているだけで私が少しフラついてしまいそうになるレベルにはお金のインフレと言うものを体感出来た気がしなくも無い。

そうして暫くの問答を経て、ようやく能力の購入を諦めたヒナタさんと分かれた。


「次にあった時は絶対にその能力を購入してさしあげますわ!!!!」

「はい、頑張ってください…」


とは言っておきながらも、心の中では多分お金の問題では無いと思っている。

だってヒナタさんの説明なら私の能力の購入に失敗するはずもないし、他の魔法少女の能力購入時に失敗した時はあのような弾き方もされなかったらしいのだ。


しかしまぁ、まるで台風のような人だった。


その後、今日の由伸さんの業務は殆どが石原さんに振られているらしく、午前の会議で今日は終了らしいので、私は変身を解除して由伸さんと一緒にご飯を食べに行くことになった。


「形無君の食べたいものを言うといい、こちらで用意させてもらおう。」

「有難いですけれど、特に要望は無いです。」


由伸さんが外食を私に勧め、好みの食べ物を聞いてくるのだが、別に私には好き嫌いが無くこだわりもそこまで無いので無難なチェーン店で食事を済ませる事にした。

互いに特に喋る事も無しに黙々と食べている。


平日の昼間、ビジュアル的には白髪で高校生付近に見える私と40歳の由伸さんが一緒に食事をとっている光景は、世間からすればどう見えるのだろうか?

まぁ考えるだけ無駄だろう。


「リヴィア君、私は何かがあった時のために支部の方に戻っておくが、君はどうするかね?」


私より一足先に食事を済ませた由伸さんが言う。

業務に関しては一切問題がないようにしているが、何かが起きたら早く対処できるようにしたい、という事と

電さんの学校が終わると、基本的に家ではなく先に支部の方に寄るかららしい。


やっぱりこの人、電さんが大好きなんじゃ…


「と言っても、先に由伸さんの家に帰ってひとりでダラダラするのもなんですし私も一緒に行きますよ。」


今日家を出る時に実は家の鍵のスペアを由伸さんから貰っていたので、これで私は完全に由伸さんの家を拠点とする事が出来たのだけれど、やはり人の家なので申し訳なさはある。


「それでは支部の方に行こうか。」

「ですね。」


§


そして以下略につき現在の居場所は練馬支部。

都会とはいえ結局は魔法少女自体の数が少ないので中は閑散としている。


この時代になって初めに来た建築物であったのだが、再度見直してもそこまで未来的な建築という風では無いのが少し驚いた点だった。

もちろん規模は少し小さな区役所くらいのサイズ感なのだが、それにしては中は空いている。


勿論緊急時に避難場所として機能するという側面もあるにはあるのだろう。

そんな私は今は形無 葵としてこの建物に訪れていた。


にしても常に変身と解除を繰り返すのは少し面倒なものだ。

やはり平穏というものは良い。

静かで、心が落ち着く。私が働かなくとも問題がないと言うのが特に大事だ。


だから誰もが変身しなくても安全に、安心出来るように、私は戦うのだ。


しかし残念ながら平穏とは長くは続かないもので、更にはそれはまやかしである事が多かったりする。

今回もそのうちの一つだったのだろう。


「支部長!!!」


奥から走りながら石原さんが寄ってくる。

そういえばこの人自分の事をただのオペレーター呼ばわりしていたけれど、普通に副支部長だから偉いし、由伸さんが居ない時に何かあったらそれは石原さんに飛んで来るのか。


「どうしたんだ、石原君。」

「浅葱支部長、来てくれていたんですね。

それが、例の「マギ」というテロ組織が練馬区にあるデパートを占領しているらしいんです。」


私の知らない組織名が飛んできた。

それもそうだろう、そもそも私はまだこの時代に来て1日目だ。

にしても、テロ組織がデパートを占領とは何事だろうか?


「マギとは何でしょうか?」

「未登録の魔法少女がメンバーに構成されているテロ組織の一つだ。最近動きが活発だったとはいえ、何故こんなタイミングで…」


由伸さんが顔に手を当ててため息を着く。


「それで石原君、被害と現状はどうだね?」

「被害者はいませんが、デパートが広く電気系統をメインに扱う魔法少女が居たようで、デパートは締め切られて人質が350人ほど。

目的としては身代金を要求しているようです。」


成程、魔法少女が組織の構成員にいるのか。

誰もが心の中では理解しているとは思うが、所詮魔法少女もただの一般人が強大な力を手にしたに過ぎない。

それを他者を助けるために使う人もいれば、秘匿して自身のためだけに使うような者だっている。

今回はたまたまそういうタイプの魔法少女が居たという話なのだろう。


今の反応を聞いている限り、100年前と変わらずに、カメラでは魔法少女の認識阻害を抜けられないし相手の魔法少女がどのような力を持っているかも分からず下手に仕掛けられないという基本的に負けという時代から変化していないのらしい。


「今現在それに対応可能な練馬区内の魔法少女はどれくらいいるかね?」

「それが、今は平日の2時ですから20歳以下は学校が終わっていないのがほとんどで30までの魔法少女も社会人か、それほどランクが高くなく安定して勝てるかどうかは…」


となると、まぁそうなりますよね。

石原さんと由伸さんが示し合わせたように私の方向を見る。


「ゴホンッ、頼めるかね?」

「由伸さんも見たとは思いますが、その手の隠密行動は大得意です。任せてください。」


依頼された任務がB級の梟の次はテロリストの制圧、今の私はなんだか少し不運が重なっている気がしなくもない。


「助かる、応援はもちろん遅らせてもらおう。侵入方法はこちらで用意させてもらうからオペレーターとの会話が可能な端末を君に渡しておこう。」


そう言って小型のイヤホンと丸い、恐らくはマイクであろう物を渡される。

平穏の日々はそう長くは続かないのはよく理解していることだ。


「変貌せよ。」


そうして私はただの形無 葵 から 魔法少女リヴィアへと変化する。

場所を伝えられた私は大体の位置を理解した後に練馬支部を出た。


「それじゃあ、行ってきます。」

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