会議②

扉を開けると二手に別れ向かい合わせとなっている段の席。

由伸さんに教えて貰っていたが

左側が支部長やそこら辺の人たちの座る場所。

右側が招待された魔法少女達の座る場所のようだ。

各支部長達の座る席に比べて、魔法少女達の座る席は招待制であるのと基本魔女しか招かれないのでとても少ないように見えた。


電さんは今日は学校なので行かない、と言っており基本的に魔女しか招かれないのを考えると、今日はどれくらいの席が埋まるのだろうかと疑問を浮かべる。

今回は例外として私も招かれてはいるが、聞く限り普通の魔法少女が招かれる事はあまり無いようだ。


「それじゃあ、私は左側だから分かれようか。」

「ですね。」


座る席の問題で私と由伸さんは二手にわかれた。

とりあえず今は自分の座る場所を探そう、自分の魔法少女が書かれている席があるらしいし。

そうして私は自分の席を探していた。


先程から少し、対面にある支部長側の席から奇異の目で見られているのは私の気のせいではないのだろう、何せ今回の議題はカタストロフ関連なのだからそこに必然的に私の話は関わってくる。


「リヴィアじゃないか!さっきぶりだね。」


またも響く先程聞いた声。

魔法少女側の席から聞こえた椿さんの呼び掛けに私は少し視線を逸らす。


「どうも、よろしくお願いします。」

「お堅い感じだね、もっとフランクでいいんだ、少なくとも私は。

ほら、椿って呼んでくれてもいいんだよ?」


椿さんは常にこのようなスタイルなのだろうか、軽薄そうな立ち振る舞いとそれでも隠しきれないオーラとでも言うべき椿さんの存在感は、まさに魔女という名を受けるに足る人物であるように私を思わせる。

よく見ると先程はつけていなかった刀の柄と鞘が腰に付けられているのがわかった。


にしても距離の詰め方が凄い人だ、根っからの光属性感がある。


「こーら椿、リヴィアちゃんが困ってるじゃないか。」

「わかったよ姉さん。…叱られてしまっては仕方がない。」


椿さんのすぐ後ろから現れたのはもう1人の魔女であろう人物だった。

姉さん、と言っていたところを見ると椿さんの姉なのだろうか?

変身後は多少なりとも見た目が変化するが、まぁ何となく似ていなくも無いような気がする。


姉さんと呼ばれた人物は和服に黒髪の大和撫子といった様相の椿さんとは全く違い、言うなれば道化師のような、フェイスペイントは無いが先の二つに別れた白黒の帽子とそこから少しはみ出た茶髪、目に毒過ぎない程の色鮮やかなまだら模様の服装。


全体的に独特という他ない姿だった。

それが椿さんを窘めているのだからその様子はさながら道化のようで滑稽でもあった。


「ははーん、君が噂に聞くリヴィアだね?

妹が済まないね、私はランキング7位 幸運の魔女フォルトゥナさ!」


そう言った彼女は大袈裟に、しかし恭しく頭を下げる。

ロールプレイにしては出来すぎているそれは彼女の本来の気質なのだろうか?

それにしても


「姉妹さんですか、お二人共ランカーになっているという事でよろしいのでしょうか?」

「いぇすいぇす、凄いでしょ?」


本当に、数千人いるうちの魔法少女から10名だけしか選ばれないそれに姉妹揃って選ばれているらしいのは、間違いなく実力から来るものだろう。

椿さんとフォルトゥナさんの2人と喋っていると魔法少女側の席に座っていたもうひとりがこちらへと声を掛けた。


「御三方、お話をするのは良いですがもうそろそろ会議が始まりますので席にお座り下さいな。 リヴィアさんはそちらです。」


透き通るような声で私達に着席を促したその人は長いブロンドヘアと美しい目、何よりその声が特徴的な、魔法少女であった。


そんな彼女を少し目に留めて、私は流されるままに自分の名前が書かれた場所へと着席し、そのまま会議が開始されるのを待った。

どうやら会議は手元に置かれている端末で進行されるようで、魔法少女席と支部長席を分けた通路の一番奥に着席している取締役的存在が司会を行うようだった。


どうやらこの端末が取締役が表示したモニター画面をホログラムで表示してくれるらしく、座っている人達全員の目前に資料等が表示されるようになっているらしい。

100年後の技術は凄かった。

少しザワつく会議場と付近から聞こえる数人ほどの魔女達の声


『本日はお忙しいところ、お集まりいただき、ありがとうございます。開始時刻となりましたので、早速始めさせていただきます。』


それらがこの瞬間に全て静まり返り、こうして会議は始まった。


『資料は手元の端末から、順に

1つ目が魔法少女リヴィアについて

2つ目が終の三獣の一匹 カタストロフについて

3つ目がそれらの今後の対処となっております。

司会は魔法少女管理局 代表取締役

春本 雄一郎 が務めさせて頂きます。』


ホログラム端末は横長で、左側の八割を資料が占めており、右下の1割が取締役の春本さんとなっている。

右上の1割で資料等の操作が可能なようだ。

春本さんは取締役のビジュアルにマッチしていて、厳かと言った言葉が似合う60代くらいの男性だった。

だが彼が話す言葉は案外に軽快なものだ。


『ではまず最初に、魔法少女リヴィアについてです。皆さん、説明資料の1枚目をご覧下さい。そしてリヴィアさんはこちらで皆様のホログラム端末に顔を出力させていただきます。』


右下に映る春本さんが何か軽く操作を行うと、春本さんの映っていた画面は今現在端末を覗き込んでいる私を映し出す。


『よし、映っていますね。

急ではありますがそちらにも音声を繋いでいますので、リヴィアさん、軽く挨拶を頼めますか?』


どうやら私はここで挨拶をしなければならないらしい。

少なくとも杜氏であった頃にこのような事は経験していたような気もするが、まぁ何にせよ心は落ち着かないものだ。

やはりここは少し大人らしい振る舞いをすべきだろう、と息巻く私。


「春本 雄一郎様よりご紹介にあずかりました、魔法少女リヴィアと申します。

何卒よろしくお願いいたします。」

『はい、こちらこそ是非ともよろしくお願いいたします。』


どうやら初動はミスが無かったようだ。

杜氏であっった頃の感覚に感謝しつつ春本さんが再度会議の進行をスタートする。


『それでは、1枚目から。

こちらがリヴィアさんの情報となっております。』


そうして春本さんが説明し出した話や資料には私が終の三獣のうちの2匹を討伐した事や忘却の魔女として扱われていたこと、国に拾われて戸籍も与えられず学校にも行かせて貰えていなかった事や、勿論100年前から飛んできたという事も含まれていた。


支部長側の席を見ると、やはり私を奇異の目で見る者は数多く、言葉には出ていないが私に対しての恐怖心やそれに近い物も感じ取れた。

私からしてもそうである、実質的な人権をも与えられず文字通り飼い殺しにされた、しかも終の三獣と呼ばれる魔獣のうち2匹を討伐している政府に恨みしか無さそうな魔法少女をこの場に連れてきているのであるから、それは全くもって仕方の無い事なのだ。


そうして会議は30分の時間を使って1枚目の資料説明や、それに伴う私に対しての事実確認を終えようとしていた。


しかしそこに1人異を唱える者がいた。


ホログラムで顔を映し出された彼は花房はなぶさ 広大こうだいと言い、茨城にある魔法少女管理局の支部長だったようだ。


彼いわく終焉の日程の被害をもたらした終の三獣 カタストロフと同等の力を持つ魔獣を 1人で討伐出来るはずがない、という話であった。

そこにタイムスリップの話も加わり、今の状況では一切の信憑性が無いため、どうにか信用する方法を与えて欲しいという旨だ。


そうして、気がつけば私対フォルトゥナさん、椿さん姉妹の模擬試合が決定していた。

本当にどうしてこうなってしまったのだろうか

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