議会はバトる、されど進まず

あれよあれよという間に決定してしまっていた私達の模擬試合。

花房はなぶさ氏曰く 「終の三獣を1人で倒す事が可能なら、魔女の2人や3人は同時に相手する事が可能だろう」

という物。

全くもって大正解ではあるのだが、相性の問題でハルマゲドンやラグナロクに勝利したというケースは考えなかったのだろうか、もしくはここ100年で魔法少女の質が飛躍的に上昇している事は考えなかったのか等は私の心の中に秘められている多少の嘆きだ。


まぁこういうパターンも由伸さんとの準備時に、力を見せてみろと言われる可能性を考慮しておく必要があるとの事で起こりうるかもしれない事の1つとして脳内にメモはしてあるのだが、まぁ何とも厄介な話である。


そうして私が連れられてきたのは訓練用の電子空間を生成するポッドが30個程置かれている部屋であった。

なんと、驚くべきことにポッドの前に置かれた掌方の端末に手を置くことによって、魔力を吸収しその本人の能力や生体データ諸々をポット内部に送信。

そうして電子空間で模擬戦闘を行えるようになる、という代物であるらしい。


しかも何とこれは電さんの協力の元作成された機械なのだ。

機械方面に長けた能力である事は理解していたが、魔法少女の魔力を吸収して同じ存在のデータを作り上げるとは、電脳の魔女と言う名を拝借するだけはあるのだろう。


戦闘は先程私達が居た会議室で中継されるらしく、この部屋に来たのは誘導役の由伸さんと戦闘を行うリヴィアと椿、フォルトゥナ姉妹の計4人であった。

私は促されるままに手形と魔力を認証させて準備を行う。


「こちらは準備が出来ました。」


「あぁ、私達もだ。

しかし、大丈夫か?私達二人を相手にする等、正直なところフォルトゥナはランク詐欺もいい所だ。」

「お気遣いありがとうございます、ですが大丈夫です。」


「ちょっとちょっと、ランク詐欺って酷いなぁ、私のランキングが7位なのは私の幸運がラッキーナンバーから私を引き剥がすのが許せないだけさ!

正しくこれは運命なのだから!それじゃお先」

「姉さん!」


言い終わるなり彼女はまたしても唐突に、ポッドの中へと消えていく。

それに続き椿さんもフォルトゥナさんの横のポッドの中へと駆け込む。

なんともペースの掴めない相手だ。まぁ心配することは無いだろう、私の能力はたとえ勝てなくとも、


「それじゃあリヴィア君、頑張ってくれたまえ。」


由伸さんの声を聞き届け私の目の前にあるポッドの中へと入っていく。

ポッド内部には椅子のような物があり、そこに座ると……


「どうやら接続は成功したようだね。」


目の前には先程分かれた姉妹が立っており、場所もトレーニング室から広大な砂漠へと姿を変えていた。

これが戦闘訓練用の電子空間か、これが100年前にもあったらもっと強くなれていた魔法少女も多かっただろうか。


「それじゃ設定は、痛みは通常通りで試合の終了条件は片方の陣営の完全な死亡を確認時に設定しておこうか。これでもいいかな?」

「はい、問題ないです。」


どうやら勝利条件等も設定可能な訓練らしいのだ。やはり100年後の技術は凄い、電さんがメインなのだろうけど。

普通の魔法少女との対人戦はあまり行った事が無かったので慢心は無しで行こう。


設定の表示がされているウィンドウをスラスラと操る椿さんの横では、ピースをしながらニマニマとこちらを眺めているフォルトゥナさんがいる。

どうにも慣れないタイプではあるが、あぁいう輩こそ最もくわせものである事が多い。それは先程のランク詐欺という言葉にも現れているだろう。


「それじゃあ始めさせてもらうよ。」


椿さんが開始のボタンを押す。


私たちの目の前に大きくカウントダウンの文字が入る。


3

2

1


START!


開始と同時に言葉を紡いだのはリヴィアだった。

『我は忘却を望む』


その一言と共に、椿とフォルトゥナはリヴィアの姿を見失った。


§


椿は困惑を隠せなかった。

先程まで居たはずのリヴィアは目の前から姿を完全に消し去り、まるで最初から存在しなかったかのように静けさが訪れる。


しかしただそれだけでは無い。

椿とて魔女のトップスリーであり、透明化という特殊能力を持った魔獣との戦闘経験もあったが、それでもこの状況は異常だった。


……気配も殺気も、感じない?


魔法少女と言えど、ただの少女であるはずの人間からは殺気や気配は当然漏れ出るものであり、それが普通の人間なのである。

だがしかし目の前から突如消え去った少女から、それは一切感じられなかった

どころか辺り一体が砂の地面であったにもかかわらず、足跡1つ無いのだ。

椿は腰に着けていた刀に手を添えて抜き出し、相手が出現した瞬間に対応出来るようにする。

辺り一帯を警戒しろ、瞬きすら許されない、リヴィアは恐くステルスタイプの魔法少女


「椿!跳べ」


背後からかかる至って簡潔なその声に椿は咄嗟に対応し地面を強く蹴り上げ、そしてそれと共に現在の状況に椿は驚愕する。


既に地面を離れている椿が足元を見やると、その下にはナイフを振り切り、少し驚いている少女の姿が見えた。

そして椿はこの一瞬で確信する。

間違いなくリヴィアは強い、慢心して勝てる要素は絶対にないと。


「見切られるのは初ですね、初見殺し技の成果がとは。」


そう言ったリヴィアに対し椿は跳んでいる状態で刀を振り下ろし袈裟斬りにしようとするが、バックステップでそれを躱される。


ランキング3位に上り詰めるほどの実力を持ち、大半がそれを避ける事すら難しい椿の一太刀を、事もなさげに回避した目の前の少女は100年前に魔女を名乗っていたらしいが、間違いなくそれ相応の実力がある事を椿は理解した。


『我は忘却を望む』


またしてもリヴィアの姿が消失する。

先程の攻撃はフォルトゥナが居なければ数秒で椿は首を狩られていただろう。

これ程までの理不尽を叩きつけてくる魔法少女は、魔女を含めても殆ど居なかったはずである。


「姉さん、仕掛けは?」

「さぁね?私もわかんないよ。

さっきのも何となくの勘だから、私の幸運に感謝して咽び泣くが良い、ねっ!」


そう言うとフォルトゥナは突如ブリッジの体勢になり、直前までフォルトゥナの首があった場所には横薙ぎのナイフがあった。

そのままフォルトゥナは後方ブリッジの要領で片足を上げ、リヴィアの顎を下からかち上げようとするが、リヴィアはまたしても詠唱を開始する。


『我は

「やらせるか!」


リヴィアの目下にはフォルトゥナの足が、背後からは椿の振るう刀が迫っており挟み撃ちの状況であったが、そんなものは知るかとでも言うようにリヴィアは詠唱を完成させる。


忘却を望む』


そのまま椿は刀を振り切るが、そこには何の感触も残っていなかった。


「ははっ、まるで本当に透明人間だな。」

「あっぶない!私の綺麗なおみ足がスパッと行く所だったじゃないか!」

「その時はその時だよ、姉さん。

何より私とお揃いだ。」


椿は先程リヴィアに軽く切られた右足をぷらぷらとフォルトゥナの前に掲げる。

そんなおふざけを挟みつつも椿の思考は研ぎ澄まされていく。

そして少し椿の雰囲気が変わる。


「こちらも本気で行かせてもらおうか。」

落椿おちつばき


詠唱を終えると椿の体に少し変化が現れ、首筋をぐるりと囲むような赤い一閃の紋様が浮かび上がり、刀も銀色の無骨なデザインから、魔獣には存在しないはずの血を啜ったような純粋な紅色の刀へと変化を遂げる。

そしてトレードマークであった和服は所々が点々と赤色に染まり、まるでそれは地に堕ちた椿の花のようであった。


「いやー、それホントかっこいいよね。私もそんな感じにフォルムチェンジ的なのをして見たいものだよ、ソレじゃ私も相乗りでございまーす。」

我が羽ばたきは台風を起こしうるのかバタフライエフェクト


今度は私の番だ、と言わんばかりにフォルトゥナも詠唱を行う。

しかし見た目の変化は椿程どころか一切変わっていない。


「ほら、椿が先にそれやっちゃうと私のがなんかしょぼくなっちゃうでしょう!」


そう言って文句をぶつけるかのようにフォルトゥナは足元に落ちている石を拾い椿へ投げるためにかがみ込む。

そしてその頭上には姿


「ははっ、私ってばラッキーガールなんだよねぇ。どうだい?凄いだろ?」


しゃがみながらも上を見ているフォルトゥナは、煽りのためと言わんばかりにニコニコとリヴィアの顔を見つめ語りかける。

それに対しリヴィアはまたしても詠唱を開始し姿をくらました。


「にしてもあれ、やばいねー。」

「姉さんがそれを言う時は本当にまずい時だから、勘弁して欲しいな。」


椿、フォルトゥナ姉妹の脳内に浮かんでいた言葉は奇しくも2人とも同様に「千日手」であった。

フォルトゥナの幸運のおかげで攻撃を避けられはするだろうが、こちらから攻撃を与えることは回避と同様に幸運でしか不可能であり、有効打を与えられるかすら分からずじまいである。

リヴィアの魔力量が尽きればそれが最もであるが、序盤からぽんぽんと使用しているのを見ると相当に燃費がいいようなのだ。


しかしそれに対し、一方的に観測可能な空間から眺めているリヴィアに千日手というワードは浮かんでいただろうか。


その答えは否だった。

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