会議①

少し懐かしくも嫌な夢を見た私の精神状態に比べて今朝の調子は皮肉にもすこぶる良いものだった。


私は意識をボーっとさせながらも部屋を出て顔を洗いに洗面所へと向かう。

今は何時だろうか、明るくはなっているものの季節は11月なのでとても冷え込んでいる。

個人的には冬という季節は虫もおらず、寒くはあるものの幾らでも対策のしようがあるので好きな季節でもあった。

少し歩いていると洗面所からは人の気配が伺えて、どうやら先客がいたようだ。


「葵ちゃんじゃん!おはよ〜

今から起こしに行こうと思ってた所だったんだけどナイスタイミング!」

「おはようございます。」


洗面所にいたのは電さんだったらしく顔を洗い終えたようだった。

聞くと今は7時頃のようで、リビングの方で由伸さんが朝食を作ってくれているらしい。


「それじゃ、待ってるね〜」


その一言を言い残し電さんはリビングへと向かっていった。

私もまだ少し眠気が残っているので洗面所へ、冷水を顔に浴びて意識を完全にハッキリとさせ鏡を見る。

奥に映ったのは絶妙に無表情で白髪の少女だった、案外政府の所に居た時は自分を鏡で見ることはしなかったので、よくよく見ると私は結構可愛らしい見た目をしていた。


「じゃない、早く行かないと。」


いらない考えに気を逸らしていたが由伸さんも電さんも私を待っているのか、それか既にご飯を食べているのだろう。

とりあえず早く行かないと。


少し早足で廊下を歩きリビングへと向かう。

…浅葱家は少し、東京にしては少し広いようでまぁなんとも羨ましい限りだ。部屋も私に分けてくれるほど余らせていたのだろうか?

そうして私は扉を開けた。


「おはようございます。」


そこにはテーブルを囲むように置かれていた3席の椅子とその内の二つに座っていた浅葱家族がいた。

そのテーブルの上には3人分の白米、味噌汁、焼き鮭が置かれており正に和食、と言った様相であった。


「おはよ〜!」

「おはよう、葵君。

用意は出来ているから座ってくれたまえ。」


由伸さんの私の呼び方がリヴィア君から葵君に変化していた。

確かに通常時の姿で魔法少女名を呼ばれて実際の姿がバレるというのはよくある事故なのでそれを心掛けているのだろう。


「すごい、家庭って感じがします。」


私がそう言いながら席に着くと由伸さんが苦そうな顔をしながら少し俯いた。


私が実質的な監禁生活を受けていた事を考えると、それに対して先程のワードはだいぶ自分で踏んでおきながらも由伸さんからすると普通の家庭を知らぬ形無 葵という風に映ってしまったのだろう。


「申し訳ありません、ちょっと言葉選びが悪かったようです。」

「気にしないでくれたまえ!

それじゃ皆でご飯を頂こうか。」

「「「いただきます。」」」


食事を終えた後、電さんは学校に行き、私と由伸さん準備をして管理局の本部へと向かっていた。

自動運転で浅葱宅の前に待機していた車に乗り込んで、私は由伸さんと会話をしていた。


「練馬支部の方は空けてても大丈夫なんですか?」

「副支部長である石原くんがいるんだ。

彼がいれば何かアクシデントが起きても大半は対応してくれるだろう。」


それもそうだろう、でなければ昨日の会議室に石原さんは呼ばれていないはずだ。

由伸さんは石原さんのことを大層信用しているようで、彼に任せれば大抵の事は大丈夫だ、と断言していた。


昨日見た石原さんの姿はかなり若く見えたが、あぁ見えてそこそこやる方なのだろうか?

そうして軽く会話を交わしつつ私は100年後の街並みを眺めていた。

と言ってもそんなに目新しいものは存在せずに案外、外の光景は変わらず私の知っているものだった。

もしくは私があまり外に出せて貰えていなかったからあの時代の外の光景をあまり知らないだけなのかもしれない。

だが今は過ぎたこと、そもそも私の能力があればあの場所などすぐに抜け出せたしそれは私が選んだことなのだから。


「さて、着いたぞ葵君。」


車に乗せられること数十分、私達は管理局本部へと辿り着いた。

見た事のある場所だ。

だが今はそれを言っても情報量を増やすだけで何のメリットにもならないだろう。

私はそう判断して由伸さんと共に車から降りる。


事前説明ではこの会議は複数の県から集まってきた支部長と招待を受けたランカーの魔女が今後の魔獣対策をどうするか、近況報告を兼ねて行うらしい。


「変身、しておいた方がいいですか?」

「あぁ、頼もう。」


昨日ぶりの変身だろう。

大半の魔法少女の変身はそこまで内在している魔力量を使わず、能力を使用せず変身しているだけならほぼノーコストで動ける。

そうなると大半の魔法少女になれる人間は常に魔法少女になっておけばいいじゃないか、と言えばそういう訳には行かず、やはり力を持つと天狗になる者もいるので極力認められた条件下でないと変身するのは避けた方が良い。


「変貌せよ。」


そうして私は褪せた色の髪を水色へと染めた。

私のように変身した後に髪色と輪郭等が変化する魔法少女は少なくない。寧ろ殆ど変化しない魔法少女もいるにはいるが、ご都合展開のように認識阻害がかかるので余程親しい人にでも見られたりしない限りは大丈夫だ。


「それじゃあ行こうかね。」

「はい」


その相槌と共に私達は目の前の建物へと入って行く。


由伸さんが受付で会話をしているのを少し遠くから眺めておく。

そうしていると私は横から声をかけられた。


「やぁ。その姿、君も魔法少女かな?」


横にいた女性はおそらく20歳前後の若さに見えた。

顔立ちはすらっとしていてかなりのイケメン寄りのタイプだが君「も」と言っていたため十中八九は彼女も魔法少女なのだろう。


「はい、魔法少女リヴィアと申します」


和服のような、少し古風なスタイルを取る彼女は「君がリヴィアか!」と少し驚いたリアクションを取った後に自身を「椿つばき」と名乗った。

それが本名なのか魔法少女名なのか私には分からないけれど。

そうすると受付から戻ってきた由伸さんが おや、と言った様子で椿さんへと話しかけた。


「椿くんでは無いか。」

「あ、浅葱支部長じゃないですか!お久しぶりです、あの時はどうもありがとうございました。」


どうやら由伸さんと椿さんは旧知の仲だったようで親しげに話していた。

和服の状態から見るにおそらくは既に変身済みであろう椿さんに対して由伸さんが「椿くん」と言っているので魔法少女名なのだという事がわかった。


それにしても椿さんは思ったより高身長で、身長が目測で175cmはありそうな由伸さんより少し小さいくらいで、170cmはありそうだった。

私もアレくらい身長があればリーチも伸びて少し羨ましくもある。


「それでは、また会議で会おう。」

「はい。」


話を終えたようで由伸さんは再度私の方を向き直し、椿さんはヒラヒラとこちらへ手を振る。


「彼女はランキング3位天剣の魔女 椿だ。」

「魔法なのに剣ってなんかアレですね。」


私の言った言葉に由伸さんは少し固まって、まぁそういう事もあるだろう。という表情をした。そもそも私自身魔法少女などと言ってる割にメイン武器がナイフなので人のことを言えたものでは無いのであるが。


「さて、私達も行こうか。」


そう言って由伸さんは私を連れ会議室へと入っていった。

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