2つの条件
「学校、ですか。」
「あぁ、そうだ。何も知識を学んでこい、という話だけでは無い。
だってそうだ、君の中には杜氏君という意識も存在するのだから勉学における教養はある程度揃っているだろう?」
「まぁ、そうですね。」
確かに私は勉強が出来ないという訳でもない。寧ろ私の今の肉体年齢、16歳程度の勉強なら楽々と言っていいほどの自信がある。
となるとその理由は
「世間に対しての知識、ですか?
まぁずっと実質的監禁を受けていた訳ではありますが、そこまで常識知らずという訳でもありませんよ?私は」
そこに使う時間があるならば1人でも多くの人間を救い、1匹でも多くの魔獣を討伐するのがより性に合っていると思えるのは私の本来の思考からか、それとも政府から受けた教育により根元に張り付いているものなのか。
「それもあるにはあるのだが、何より私はリヴィア君に普通の学生としての生活を送って欲しいんだ。
君は些か戦いすぎている。」
「ですが、私は言いましたよね。
もうすぐカタストロフが来る予感がすると。
どうしようもない気持ち悪さと違和感がそれを告げているんです。
だから私は強くならないといけない。」
そう、本当に漠然と。
別に恐怖という訳では無いのだ。
だが私の第六感であろうモノがそれを教えている感覚がある。
昔からしばしばその感覚は私に存在した。
それはラグナロクやハルマゲドンが出現する前、私があれらを討伐した頃はただただそれを気のせいだと認識していたが。
やはり何かが違うのだ。
「どうしてもかね?」
「どうしても、です。」
「…ならば仕方があるまい。
だが100年前の政府と同じように君を魔獣討伐の時にだけ駆り出して良いように扱うことは絶対にないと誓おう。」
由伸さんはやはり根っからの善人なようで、おそらくは電さんにも同じような事を言って学校に行かせたのだろうなと思う。
「条件を付ける事が可能なら行きます。」
流石に私とてこれ程までの善意を踏みにじる図々しさは持ち合わせていないのだ。
だがそれでも、条件を付けなければ私には安心できなかった。
「いいだろう、聞かせてくれたまえ。」
「1つは授業中何時でも抜け出す事を可能として欲しい。理由は魔獣が出てきてもすぐに対応できるように、です。
もう2つ目は、実質的にカタストロフの出現が確定した時点で私は学校へ行くのを辞めることです。」
少し、私の中で立てられていた仮説を話そう。
ラグナロクにしろハルマゲドンにしろカタストロフにしろ、出現する半年前から日本全体の魔獣のスペックが強化されていたのだ。
3度も続くならそれは偶然ではないだろう。
政府の人間は直接戦う事が無かったので気が付かなかったし、当時の私はそこに気が回るほどの意識を持っていなかった。
「今はまだ見て取れませんが、終の三獣が現れる前に少しづつ兆候があるようなんです。」
ガタッと机が動き、こちらに身を乗り出した由伸さんは驚いた表情をしていた。確かに会議室で話さなかった事だし、私がカタストロフが出現する予感がすると言ったそのタイミングで何故それを話さなかったんだ、と言われれば単純に私がそれを忘れていたからだ。
「済まない、少し取り乱してしまった。」
椅子に元の格好で座り直した由伸さんに私は話を続ける。
「別に今すぐに、という話ではありません。
ですが、今思い返してみれば終の三獣が出現する半年前から、発生する魔獣が特殊な能力を持っていたケースが多かったな、と。」
「つまり、魔獣のスペックが全体的に上昇した時点でカタストロフが現れることが確定すると、そういうことかね?」
「まぁ、私が戦った魔獣達がそうであっただけの可能性も否定出来ませんが。」
たまたま私が特殊能力を持った魔獣と連戦した可能性も無くはないのだろう。
当時の政府がそれについて何か声明を発表していれば何か変わったのだろうが、あれらは私を頼みにしてそもそも終の三獣など存在しなかった事にしようとしていたのだ。
たまたまハルマゲドンとラグナロクの討伐を死亡者1人出さずに成功させたのだから。
そんな腐った政府がわざわざ討伐した魔獣のデータなど取っているはずもなかった。
「という事ですので、それらが確認された時点で私は学校を退学する。
それを条件の2つ目として置かせてください。」
「承知した。
それにしても、明日の会議は荒れるだろうな。それでなのだが…扱き使わないなどと言っておきながら本当に申し訳ない、明日に管理局本部で開かれる会議に、君も出席してくれないかね。」
「それでカタストロフを討伐するのが楽になるなら、是非とも。」
今の時代にカタストロフに対抗できうる魔法少女がどれくらい存在するのか、少し知って置きたいのは勿論のこと、私が居ない場所で先程のカタストロフの話について語っても信じられないのが関の山なのだから。
「感謝する、学校に関しては準備が出来次第伝えよう。
それでは、もう寝ようか。」
随分と私達は話し込んでしまっていたようで、時計は既に1時を過ぎていた。
風呂の場所を教えられ風呂に入り、少し私の杜氏の部分が許さなくはあったのだが服がないので電さんの寝間着を借りて、あまり使っていない部屋をどうぞ使ってくれと由伸さんに言われ至れり尽くせりの状態で私は床に着いた。
魔法少女は生物兵器だ
そう野次を飛ばす団体が存在した。
それもそうだろう、世間もそれ程知らないただの少女が一般人を軽く撲殺できるフィジカルと特別な能力を得るのだ。
それに増長して好き勝手に振る舞うようになる魔法少女も過去には存在したし、政府に魔法少女になったことを報告せずに1人で行動している危険な魔法少女も存在する。
確かに1人で行動するのは自由だが、報告をしないのは少し勝手が違う。政府の知らない力を持った存在が現れるのだから。
魔法少女は生物兵器だ
どれだけ世間に貢献し、人々を癒す力を持っていた者がいたとしてもそれは心までは癒さない。
魔獣という存在を唯一討伐する事が可能であったとしても、その際に出る街への被害は確かに存在するのだから。
魔法少女は日本の目覚ましい経済発展に関係しているが、裏を返せばそれだけの力を持った者を政府は止める事が出来ないのだ。
いつ反乱分子になるかすら分からない、爆弾でしかないのだから。
信用の上で今の関係ギリギリ成り立っていて、少し均衡が崩れれば日本はたちまち崩壊するだろう。
久々に、少し懐かしい夢を見た。
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