ようこそ「魔法少女管理局 練馬支部」へ

「ここが私が基本的にお世話になっている魔法少女管理局、その練馬支部です!」


車の中で会話をして少しだけ打ち解けたのだろう、私とバレットさんの心の距離はほんのちょっと近づいていた。


「じゃあ入りましょう、っとその前に『解放』」


横にいたバレットさんが変身を解いたようだった。


「魔獣以外においての能力の使用は法律上違法ですしね、それでは私も、『解放』」


そうしてバレットさんは銃器を持った制服の魔法少女から、黒色の髪は愛も変わらずに女子高生特有の活発さを感じさせながらもメガネをかけた文学少女のような儚さを醸し出す可愛らしい姿へと変化した。


そして私は味気ない白髪と血まみれの衣服へと変化する。


そんな私の姿を見て一瞬ギョッとしていたバレットさんだが何とか気を取り直して、私を連れて管理局へと入っていった。


「バレットです!帰ってきました!

石原さんいますかー!」


受付に来た瞬間にバレットさんはそう叫ぶ。リテラシーはどこへ行ったのだろうか?それともこの時代は名前と魔法少女の名義が全て紐づいていて調べればバレるのだろうか?

私のいた時代なら人によって魔法少女であるかどうかを公開しているかは変わっていたのだが。


「花音ちゃん、ここには今、人がいないとはいえあんまり素の見た目で魔法少女名を言うのは良くないぞ。」

「そ、そうでした。ごめんなさい……」


好青年とでも形容すれば良いのだろうか、杜氏であった頃なら血の涙を流しながら恨み節を吐くレベルのイケメンが建物の奥の方からスタスタと歩いてきていた。


「で、そっちがリヴィアさ……ん!?」


どうやらオペレーターさんこと石原さんは私の衣服に付着した血液の量に驚いていたようであった。

全部乾燥しきっているとはいえども、すごくバイオレンスな赤黒い花が私の服を模様付けしているのだ。それが最もな反応だろう。


「大丈夫です、これ全部傷では無いので。

ですが確かに気持ち悪さはあるので少し着替えたいですね。」


まぁこれは間違いなく本音だ。誰が好き好んでドラキュラ伯爵が喜んで貰い受けそうな服を着用するのだろうか。


なんだ、バレットさんも石原さんもそんな顔で私を見ないでいただきたい。


「そちらはオペレーターさんの石原さんでよかったでしょうか?」

「あ、あぁ。君はリヴィアさんでいいのかな?」

「はい、そうです。」


軽く挨拶をし終えると石原さんは無線機で誰かと連絡を取っていたようで


「リヴィアさん、着替えとお風呂を用意しておきますので是非どうぞ。

話し合いの場の準備をさせていただくのでゆっくりでいいですからね。」

「それは、親切にどうもありがとうございます。」


お風呂は葵・杜氏としても大好きなので遠慮なく入らせて頂こう。

とりあえず風呂に入ったら軽めの情報整理でも自分の中でしておこうか。


「それじゃあ花音ちゃん、リヴィアさんを案内してくれるか?」

「わかりました。」


どうやら花音さんが私をお風呂場まで連れて行ってくれるらしい。

車への案内であったりお風呂場への案内であったり……出会ってから花音さんには案内させてばっかりな気がしてきたな。


「私も少し疲れてましたし、親睦も兼ねて一緒にお風呂入って良いですか?」


……少し、マズったな。


私の今の精神状態は自身の認識を形無 葵だとしてはいるものの、年数的にも杜氏であった頃の記憶の方が長くメインは杜氏 真次であるのだ。

それを考えると自分の精神が男寄りであるのを理解しながら女子高生と一緒に風呂に入る、というのはほぼ犯罪みたいなものだろう。


「ごめんなさい。

せめて私が入った後、もしくは花音さんが入った後に私が入りますから一緒は勘弁して欲しいです。理由は後で重ねて説明しますから。」

「……分かりました、ごめんなさい。

先入ってください。」


なんか今空気の抜けた風船くらいに萎んでいく花音さんと耳が垂れている犬の幻覚が見えた気がした。

気のせいだろう。


服はどうすればいいかなど諸々説明を受けた後、私はようやくお風呂へとありついた。


そして30分後


私は浴衣を着ていた。


「リヴィアさん、可愛い。」


着替えが浴衣しか用意されていなかったのだ、何となく旅館のような感覚を思い出したがここは魔法少女管理局、立派な公認の施設だ。


テンションが上がっている花音さんを抑えつつ私たちは石原さんが待っている場所へと移動する。


どうやら会議室と呼ばれる場所に全員が集合しているようで、私は花音さんにその場所へと案内して貰った。

その部屋で座っていたのは

先程見た石原さんと

中肉中背のおじさん、中々の渋さだ。

そしてその横でこちらを興味深そうに見つめている緑髪の少女、おそらくは魔法少女だろう。


「私達も席に着きましょう、リヴィアさん。」


何故か好感度ポイントがそこそこ上昇してそうな花音さんを横目に私は前にいる3人に注意を向ける。

そうすると、真ん中に座っていた渋いおじさんがその口を開いた。


「キミがリヴィア君だね?

先のB級魔獣討伐の件、感謝する。」

「いえ、大したことではありませんから。」


どうやらあの時トランシーバーで喋っていた推定お偉いさんの声のようだった。


「私はここの管理局の支部長の浅葱あさぎ 由伸よしのぶだ。」


そうして彼は続けざまに言う。


「ようこそ「魔法少女管理局 練馬支部」へ」

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