No.0
「よーし、これでおっけー!」
明かりもない部屋で1人不健康そうにパソコンを触っている少女がようやく仕事を終えたようで、長時間座っていた体を自由にグッと伸ばす。
「いやー、こう言う時の開放感がたまんないよー!ね、支部長!」
誰もいない部屋で声をあげる少女。
するとその部屋の扉が開き、後ろからカツカツと音を響かせ中肉中背の男が少女のすぐ横にまで歩みを進めて来た。
「随分と時間がかかっていたようだが、頼んでいた情報は見つける事は出来たのかね?」
「まぁね〜。まるで誰にも見せたくないかのように奥底に、本当に奥底に埋まっていたよ。
はいそれあーげる!」
パソコンをカタカタと鳴らし画面を見つめていた緑髪の少女は少し歳を取っている中肉中背の男へと先程まで集めていたデータをまとめたメモリを爪で弾き男へと投げ渡す。
「落としたらどうするんだ!
だが礼は言わせてもらう、ありがとう。」
「感謝の言葉とかあんまし興味無いからチョコ買ってきてくれない?甘いもの食べたくなっちゃった。」
そんな少女の言葉に男は何とも言えぬ感情になり、そしてその感情は次第に諦めと呆れに変化する。
もう何度も繰り返してきたような流れではあるが未だにこの少女の気分屋加減には全くと言っていい程について行くことが出来ない。
そう考えていた男は渋々と言った様相で
「あぁ、わかった。
ミルクチョコレートでいいな。」
と、もう既にこちらに目すら向けていない相手へと返事を返す。
「さっすがー!支部長わかってるー!」
まるで、と言うより本当に親しんだ仲である彼らのやり取りはいっそ中睦まじい祖父と孫との仲を彷彿とさせるものだ。
「だがすまないね、買ってくるのは少し待っていてくれるだろうか?もうすぐ調べてもらっていた子がここに来るんだ。」
「え!ほんと!?すごいじゃん!
私も一緒に見に行っていい?てか行くね!」
「……、もう好きなようにすると良い。
ただし迷惑はかけないで欲しい。
私は石原君のところに行きこの情報を見させてもらうとする、時間が来たら君を呼びに来よう。」
そうして男は部屋から退出して行った。
§
部屋に残されたのは私とパソコンだけ。
にしても支部長は大丈夫かな?
急に私に「魔法少女リヴィアについて調べてくれ」とかハチャメチャ真剣そうな表情で言い出してその魔法少女に関して、何か些細なデータでもあればその全てを保存して欲しい、だなんて。
まぁ確かに私としてもあんな情報を見ちゃえば切羽詰まったあの様子も分からなくもないかなー。
「にしても、政府の機密ファイルにしか情報が存在しなかった、だなんて。
徹底してるね〜。
しかも加筆されているとは言え情報が作成されたのは100年以上前、私は化石掘り師じゃないっての!」
私は魔法少女としての魔獣として戦う力は殆ど持っておらず、ただ私が持っているその能力は十分なほどにこの施設
「魔法少女管理局 練馬支部」
においては効力を発揮していた。
私の能力は目的の情報を、好きなだけ、絶対に探し出す能力。
例えそれが個人の電波から隔離された数十年前の型落ちpcの内部に存在していようが、存在している限り私の能力の対象内なのである。
そしてそれは私の能力のうちの一つでしかない。
ある意味グレーゾーンどころかそもそも能力を使うのがアウトであり無法とも言えるこの能力を使うことによってぐんぐんと昇進して行った支部長と、引き換えだとは言っているが私を養ってくれているこの状況。
私の場合政府雇われだし、立場的にも対魔獣でなくとも能力を使用する事を許可されているわけだけど
まさに私と支部長の関係はウィンウィンと言える物であり、その絆は下手な友人関係よりも強固なものなのだ!!!
「だけど、本当にえげつないネタ持ってきたよねぇ。」
私が情報を抜き取ったそのファイル名は
「最強の魔法少女」
そしてその内容はかつて孤児であり、魔法少女の才能があった形無葵という少女を国の機関で育て魔法少女のデータとして登録せずに都合のいいものとして魔獣の処理をさせている、という内容だった。
ランキングは存在しないが、それでも強さだけならランキング最上位に君臨する事をゆうに可能とするその圧倒的な能力。
その実力はほぼ誰にも知られること無く
終の三獣のうち2匹
「ハルマゲドン」「ラグナロク」
を民間人の被害も出さずに討伐。
勿論民間の人間はそれを知る事もなく、内実は隠蔽されたままだ。
私も昔軽く調べてその2匹が何者かによって討伐されていた事は知っており、深く関わることはよそうと考え、支部長にも頼まれていなかったのでそれ以上は調べるのを止めていたが、ここに来てそこに繋がってしまうとは。
自身の不運を嘆きつつも、心の中では少しこれから起こるかもしれない色々な出来事に期待をふくらませている自分に呆れる。
ファイルを読み進めて行くと私は文章の最後に辿り着いた。
そしてそこには
今までと同じく「終の三獣のうち2体を1人で討伐できているのだろうから」と慢心して「カタストロフ」にリヴィアを向かわせた事。
しかもそれをC級の魔獣の殲滅と称し、出現するのがわかっていたのにも関わらずその事をリヴィア告げず向かわせた。
そして彼女はカタストロフに敗れ死亡した事。
カタストロフが現状どこにいるかすら分からず、恐くまたカタストロフが出現すれば世界が滅ぶ事。
そしてリヴィアが死んでから50年、ついに政府に所属している魔法少女の中でリヴィアに匹敵するほどの能力を持った魔法少女は出現しなかった事。
そういう情報がつらつらと書かれていた。
「結局、これが加筆され終えてから50年間の間にリヴィアちゃん以上の魔法少女が出現したかも分からないし、案外政府もリヴィアちゃんの事忘れてたりするんじゃないかなぁ。」
にしても
本人はそれを嫌っているらしいけど、
本来なら魔法少女ランキング10位以上で魔女を名乗る事を許されるのにさぁ。
管理局上層部から魔女を名乗る事を許された魔法少女。
ランキングNo.0「忘却の魔女 リヴィア」ねぇ……
面白そうじゃん!
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