第4話 書庫の無礼者

 リギアとアイロードが別れてすぐの頃。


 レディミア捜索を託されたアイロードは、先程までいた部屋から大廊下へ、一目散に飛び出した。


 部屋からは僅かに、剣と壁がぶつかり合う音が聞こえ、リギアが騒ぎを引き起こしているのがわかる。


 気になるアイロードだったが、今は彼に託すのが最善の手段だった。


「こっちは任せてくれ、リギア」


 アイロードは一人呟く。


 彼がすべきことはレディミアの捜索のみ。


 何も難しくはなかった。彼女の特徴は、幼馴染というだけあってよく理解している。彼女が何処へ行くことが多く、何を好む人物であるまでも。

 

 そこから考えられるポイントは三つ。


 彼女は本を読むのが好きだ。なので、図書室にいる可能性は高い。


 彼女は花を見るのが好きだ。だから、中庭の庭園にいる可能性もあるだろう。


 可能性的には一番少ないが、彼女はリギアが好きだ。ブラコンと言うのが的確だろうか。だから、リギアの部屋にいる可能性も捨てきれない。


 その三箇所を順に探せば、彼女は居る筈だ。


 そう考え、アイロードは最初に図書室へと向かった。


「ここに居てくれれば、助かるが」


 結果としては残念なものだった。


 現実は甘くない。レディミアさえ居なければ、図書室の中には己の兄が佇んでおり、アイロードの行手を阻んだ。


「やっぱり、来ると思ったわ」


 笑顔でこちらを待っていたのは他でもない、アイロードの兄・ファーラルだった。


「なんでお前がここに居るんだよ、ファーラル。お前、そこまで読書好きじゃないだろうに」


 アイロードは単調だった。


 今すぐにでもこの場を離れたい彼にとって、ファーラルは痛手である。


 ファーラルの厄介さは弟であるアイロードが一番よく知っている。なぜなら、何年も虐められてきたからだ。


「君とリギア様を確保するよう、レブノ様に頼まれてしもうたんですわ。だからさあ、ちょっと来てくれんか?」


「断る」


 ヘラヘラと頼むファーラルに、アイロードはキッパリと断った。


「そうか、じゃあ実力行使に出ようか。昔のように虐めたるわ」


 そう言うと、ファーラルはアイロードの目掛けて丸い物体を投げつけた。


 一見すれば何か分からない物体で、アイロードも初見のものだった。しかし、彼の本能が告げる。これはマズイと。


「────ッ!!」


 瞬時に、後ろへ撤退する。


 と、同時に物体は強烈な光を放ち爆発する。


「……危ないな」


 煙がはけ、全貌が顕になった図書室の内部は、もはや見る影もなく大破していた。


 間違いなく威力は膨大。もろに被弾した時には命はないだろう。


「相変わらず、趣味の悪い兄だよ」


「どうもありがとうッッ!!!」


 ファーラルはお礼と言わんばかりに、大量の爆弾を投げた。その数は軽く見積もっても二十個。


 一個ですら部屋を大破させられる威力であるのに、それを二十個以上。ファーラルは自爆覚悟で止めに来ていると見える。


 レブノへの忠誠心は並ならないことを理解したアイロードだったが、このままでは彼も死んでしまう。


 流石に、ここで兄もろとも心中するつもりはない。


 まだ取っておきたかったが、アイロードは隠し球を使うことにした。命より価値のあるものなんて、無いのだから。


「【セパレート】」


「何!?」


 アイロード考案魔法【セパレート】。


 リギアの【虚空】よりも全然単純な構造であるが、技量の求められている魔法の一種。


 簡単に説明すると、仕組みは磁力と同じ。


 アイロードの体に魔力Nを纏わせ、対象の物質全てに魔力Nを纏わせる。これで、自分に不利益なものを弾き飛ばすことができる。


 一応自分の体に魔力障壁を作ることで、自身に加わる負荷を無くすことができ、反発は己には来ない。


 そう言う仕組み。


 そして、それを補助する魔法もまた存在する。それが【クリング】だ。


 大まかな仕組みは【離】と同様。


 違う点は纏わせる魔力のみ。


 さっきは同じものだけだったが、こっちは対象一つに魔力Nをもう一つに魔力Sを纏わせ、引き合わせるというものだ。


 【離】と【合】の仕組みは簡単。しかし、難しいのは別の魔力を生み出すという行為。それが基本的には、出来ないからこそ難しいのだ。


 説明終了。


 アイロードの発言がトリガーとなり、【離】は発動する。


 己に魔力Nを纏わせ、迫り来る爆弾たちも魔力Nを纏わせる。すると、当たり前だがアイロードと爆弾は反発した。


 だが、これだけでは周囲に爆弾が散乱しただけで爆発は逃れられない。


 そこで使えるのが……


「……【クリング】」


 ファーラルに魔力Sを纏わせ、一直線に爆弾を彼の体に引き付けさせる。


 強力に引き合った彼と爆弾は、そう簡単には剥がれない。


 あとはアイロードが回避するのみ。


「じゃあな、ファーラル」


 別れを告げ、アイロードは廊下へと走り出した。


「おい、待てくれんか、アイロード!!これどないするんよ!?このままだと俺が……!?俺だけが死ぬのかよ!?嘘だ……待ってくれよアイロード!!」


 テンポよく進んだお陰で、イマイチ状況を理解できていないファーラルは喚き散らかす。


 それをガン無視し、アイロードはレディミア捜索を再開する。


 彼の背後で巨大な爆発音が響き渡る。しかし、彼は一度も振り返らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る