第31話 安く買い叩かれそうで困ってます(前編)
アリアは普段、ふもとの町からやってくる常連客にはかなり格安で魔女の秘薬を売っている。
これは、本当に薬を必要とする近隣の人間には、出来る限り良心的な価格で薬を分けてあげるように…という師の教えあってのものである。
だがアリアの師である魔女は、同時にこうも言っていた。
金儲けのために魔女の秘薬を求める輩からは、思いっきりふんだくってやれ…と。
そして今、一台の馬車が魔女の館へと向かってきている。
馬車に乗っている中年男の名はザイン。
商売のために魔女の秘薬を買い付けに来た行商人である。
「やー、アリアちゃん、こんにちはー!」
「お久しぶりですね、ザインさん」
本日のアリアは素のままであり、出来る魔女のキャラを演じてはいない。
なぜならザインはアリアの師がここにいたころから定期的にこの魔女の館を訪れているため、今更出来る魔女のキャラを演じても意味がないからである。
「さーてと、それじゃあアリアちゃん、さっそく商談始めちゃおっか」
「はい……」
普段、利益度外視で常連客に魔女の秘薬を売っているアリアにとって、この男に対しての薬の売上こそが、主な収入源となっているのである。
だがしかし、今のアリアは少々曇った顔をしている模様。
なぜならば、アリアの師がこの館を去って以降、ザインがここを訪れるのはこれで三度目になるのだが、過去二回とも、アリアの作った薬は師がいたころよりもかなり安い価格で買い叩かれてしまっているからである。
というわけで、今回こそはなんとか師がいたころと同等の価格で魔女の秘薬を売りたいアリアであるのだが…
「じゃあアリアちゃん、ポーションはこの前と同じ2000リィルでいいよね。それで三十本ほどもらおうか」
「いや、あの、それは……」
ポーションの一般的な価格は、普通のポーションで1200~1500リィル。
上級ポーションの場合は質によって2000~5000といったところなので、この2000リィルという価格は上級ポーションの最低価格ということとなる。
ちなみに魔女の秘薬として作られたポーションは、一般的な上級ポーションよりも回復効果が高いため、その価格も普通ならば5000を超える。
アリアの師がザインに売っていたときは8000リィルで取引されていた。
だがアリアの作ったポーションはたったの2000リィル。
品質的には師の作ったものと遜色ないのにもかかわらず、その価格はわずか四分の一である。
だから今度こそは…と、アリアもここで価格の交渉を始めた。
「ザインさん、わたしの作ったポーションは先生が作っていたものと同じくらいの回復効果がありますから、2000リィルというのはちょっと…」
「でもさー、一人前の魔女だったヴェルリアちゃんと違って、アリアちゃんはまだまだ半人前でしょ。半人前の魔女が作ったお薬じゃ、これ以上はちょっとねー」
「うっ……」
そう、たとえ薬の品質に一切問題がなくとも、アリアが自分を一人前の魔女だと証明できなければ、それを理由に薬の買取価格は値切られてしまうのである。
「じゃあアリアちゃん、おじさんの前で何かすごい魔法でも見せてよ。もしヴェルリアちゃんくらいすごい魔法が使えたら、ポーションの価格はもう少し考えてあげてもいいよ」
「え…えと、それは……」
アリアがザインから半人前扱いされている一番の理由は、やはりザインの前で一度も魔法を使ったことがないからである。
ゆえに師であるヴェルリアと比べて、かなり格下の魔女とみられている。
つまりアリアが自分を一人前の魔女と認めてもらうためには、ここでザインにすごい魔法を見せるほかないのだが、そのことに関して一つ大きな問題がある。
あの箒の魔導具は、元々ザインがここに持ってきたものであるため、ザインはあれがマナを集めて魔法を放つ魔導具だと知っている。
なのでもしあれでアリアがとてつもなく強力な魔法を見せられたとしても、なんだかんだザインに難癖をつけられて、ポーションの買取価格は上げてもらえない可能性が非常に高い。
「やっぱり使えないのかなー、アリアちゃん」
「うぅっ……」
アリア、惨敗。
ザインに対して、自分のことを一人前の魔女だと証明する手段が何も思いつかない。
まあ実際、魔法なんて一切使えない、半人前以下の偽りの魔女でしかないのだが。
「それじゃあ他のお薬も、みんなこの前と同じ値段でいいよね」
「は…はい……」
こうして結局他の薬も、師であるヴェルリアがいたころの四分の一程度の価格で買い叩かれてしまう…かに思われたのだが……
「こんにちは、お姉様」
「闇魔法、教わりに来た」
この商談の場に、勇者ユヅキと聖女セラがやって来てしまった。
はたしてこの二人の登場は、この商談にどんな影響を及ぼすのか。
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