第30話 笑顔が光属性で困ってます(後編)

「いいですか、ソフィアさん。自分の表情の属性を変えるために一番重要なことは、ただ表情を変えようとするのではなく、どのような人物を演じたいのかを明確にイメージして、その人になりきることですわ」

「つまり、アリア様の姿をイメージして…」

「いえ、必ずしもわたくしを真似る必要はありませんわ。あなたが演じやすい属性の人でいいんですの。セラは光属性でさえなければ大丈夫なのでしょう」

「確かにそうですね」


 そう、これは光属性すぎる笑顔でセラに怯えられないための特訓である。

 

「それにしても、さすがは伝説の大魔女であるアリア様。明確で的確なご指導、ありがとうございます」

「別に、大したことは言ってませんわ」


 演じたい人物を明確にイメージしてなりきる。

 それは、ただ普段からアリアがやっているだけのことである。


「では、わたしはどんな人を演じましょうか。うーん…」

「とりあえずは、身近な人で演じやすそうな人を真似てみては」

「身近にいる人…ですか。おじいちゃんを真似るのはさすがに無理だし、じゃあ勇者様? でも勇者様の表情って、なんだか特徴がつかみづらいような…」

「まあ、ある程度は特徴がはっきりしているほうが、真似はしやすいかもしれないですわね」


 そこで、ソフィアが最初に真似をする対象として選んだ人物は、今や町でも割と有名なあの人であった。


「あ…あははははっ、決闘だーっ!」


 ソフィアはリッカを真似してみたようだが、あまりにも無理があり過ぎて思いっきり顔が引きつっている。


「いくらキャラがわかりやすくても、自分からほど遠すぎる人はやめたほうが賢明ですわ。特にあの人は…」

「そ…そう…ですね……」


 その後ソフィアは、知り合いも架空の人も含めて色々と演じるのを試してみた結果、出来る魔女を演じているときのアリアほど冷たい表情ではないが、わりとそれなりにすました感じの、風属性スマイル…とでもいうべきものへとたどり着いた。


「ふふっ、こんな感じでいかがなな?」

「ええ、キャラを演じるのには口調を変えるのも大事。なかなかに自然に演じられていますわよ」

「そうか、それはよかった。ふっ……」




 一方そのころ、教会では……。


「ええっと、ソフィアさんが光属性、カルロさんが土属性、お姉様が氷属性ってことは、リッカさんの笑顔は火属性スマイル…あたりなのかな?」

「うん。剣士の人の笑顔、暑苦しい」


 何もそこまではっきり言わなくても…と思ったものの、セラの言葉にものすごく同意してしまうユヅキであった。


「じゃあ、闇属性スマイルの人って誰かいたりしますか?」

「シャルル」

「あー……」


 なんだかものすごく納得してしまうと同時に、シャルルが聖女の世話係的な役目についていたのは、光に満ちた聖都の教会本部で、その光属性を中和するためだったのでは…と思うユヅキであった。


「ちなみにセラちゃん、私は何属性ですか?」

「ユヅキは無属性」

「無…?」

「無」

「……………」


 どう反応したらいいのか、非常に困るユヅキであった。

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