第29話 笑顔が光属性で困ってます(前編)

 セラがアリアタウンにやって来てユヅキと共に宿屋に泊まるようになってからは、朝が弱いセラを起こすのはユヅキの役目だった。

 しかしセラもアリアタウンの教会に住むこととなったため、その役目はシスターのソフィアが引き継ぐことになったわけだが…


「聖女様…。あっ、この呼ばれ方はあまり好きじゃないと、勇者様がおっしゃってましたね。……では、セラ様、朝ですよ。起きてください、セラ様」

「う…んん…ん……ひっ!」


 ソフィアに起こされて目を覚ましたセラは、自分を起こしたソフィアの顔を間近で目にした途端、まるで恐ろしい化け物にでも遭遇したかのような反応を見せた。


「あ…あの、セラ…様? わたし、何かセラ様に粗相でも…」

「笑顔が…怖い」

「えが…お?」


 ソフィアはなぜ自分の笑顔が怖いと言われたのかが全くわからない。

 なぜならソフィアは、優しい笑顔が素敵なシスターとして評判の娘であり、自分の笑顔が怖いなどと言われたことは一度もなかったからである。


「あ…あの、セラ様、今わたしの顔、ひきつってたりとかしましたか? それとも何か顔におかしなものでも付いて…」

「笑顔が光属性すぎる」

「……え?」


 セラがソフィアの笑顔に怯えた理由、それは、ソフィアの慈愛に満ちた優しい笑顔が、あまりにもキラキラとまぶしい光属性すぎたからである。




 そしてソフィアはこの問題を解決するために、ある場所へとやって来た。

 そう、伝説の大魔女アリアが住む、魔女の館である。


「……というわけですので、セラ様に笑顔を怖いと言われないために、どうかアリア様、わたしにお力を」

「笑わなければいいんじゃないかしら」


 まあ、その通りである。


「けれどアリア様、聖女であるセラ様の前で無表情でいるのも、それはそれで失礼に当たりますので…」

「じゃあ、いったいあなたはどうしたいんですの?」

「笑顔の属性を変えられるようにしたいんです」

「え?」

「セラ様は、アリア様の笑顔は氷属性スマイルだとおっしゃってました。なのでわたしも、アリア様のようにクールにほほ笑むことが出来るよう、ご指導をお願いしたいんです」


 ソフィアがここにやって来たのは、何か困ったときは伝説の大魔女アリアお姉様に相談すれば万事解決…と、ユヅキが言っていたからであって、アリアが氷属性の表情を作っていると知っているわけではない。


 だが笑顔の属性を変えるだとか、その指導を願いたいとか言われては、アリアも自分の氷属性スマイルが作り物だとばれているのでは?…と、内心かなり焦っている。


「え…ええと、わたくしは生まれつきこういう表情なだけですので、指導を…などと言われても困りますわ」


 否。

 アリアも素の表情は割と光属性タイプなので、光属性の表情を別の属性へと変えるための指導役としては、むしろうってつけの存在といえる。


「でも、アリア様に断られてしまったら、わたしはもう…どうしたらいいか……」


 その落ち込んだ表情なら、セラも怖がったりはしないのだろうが、アリアも素は光属性タイプの人間であるため、こうして落ち込んでいるソフィアをこのまま追い返すことはできなかった模様。


「し…仕方ありませんわね。どうすれば表情の属性を変えられるかなんて全く知りませんけど、これもセラのためですし、少しくらいは手を貸してあげてもかまいませんわ」


 自分は表情の属性を変えていない。

 この氷属性の表情こそが自分の素の表情である…という体でソフィアの頼みを引き受けた結果、アリアはなんかめんどくさいツンデレキャラみたいになってしまった模様。


「ありがとうございます、アリア様」


 だがとりあえず、こうしてソフィアの表情の属性を変えるための特訓が始まるのであった。

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