第28話 教会に住めなくて困ってます(後編)
そして伝説の大魔女アリアは教会へとやって来た。
聖女セラとこの教会を救うために。
「お姉様が来てくれたので、これでもう何もかも解決ですね」
「師匠の手にかかれば、全てが闇に染まる」
「あなたたちは、わたくしのことを一体何だと思ってますの?」
「どんな魔法でも使いこなす最強の魔女です!」
「偉大なる闇の使徒」
ユヅキとセラの中でアリアの格がどんどん上がりまくっていることに、アリアはかなり困惑している様子。
そんなに大したことしていないのに、どうしてこんなことになっているの?…と。
しかしそれはともかくとして、今回アリアが頼まれたのは、この光属性的な場所である教会を、セラにとって住み心地の良い場所にすること。
つまり強い魔物や危険人物などと戦う必要もないので、比較的アリアは気が楽な様子である。
「では始めますけど、本当にいいんですの?神父様。これからこの教会を、かなり変えてしまうことになりますけど」
「構いませんじゃ。これも聖女様のためですから」
「はい、遠慮なくやっちゃってください」
カルロもソフィアも全く躊躇する様子がないため、アリアはさっそくこの教会の建物を変えるための魔法を発動させるのであった。
「えいっ!」
まずは土のマナをかき集めた箒を地面に叩きつけ、教会の周囲の土をいくつも隆起させていく。
するとその隆起した土の先端部分はどれも教会の窓ガラスと同じ形になって、教会の窓の枠にぴったりとはまっていく。
そして…
「えい」
もう一回アリアが箒を地面に叩きつけると、窓にはまっている部分以外の土が崩れ落ち、この教会の窓のみが土を固めた板で保護されている状態となった。
「さすがです、お姉様」
「師匠、すごい」
「まあ、これくらいは容易いことですわ」
師から教わった豊富な魔法の知識と、日ごろの魔法の練習成果によって、魔力が全くないのにもかかわらず魔力を操る繊細な技術だけはいつの間にかかなり洗練されている、それがアリアという人間である。
「ではあとは、これを巻き上げるだけですわ。……はあっ!」
アリアは風のマナをかき集めた箒を使い、そこそこ大きな竜巻を発生させた。
その竜巻は用意しておいた黒い塗料を巻き上げると、その塗料を霧状にして教会の屋根や壁に吹き付けていく。
「塗り残しはありませんわね。あとはもう一度風の魔法で乾かして、それから窓を覆っている土を落とせば完了ですわ」
あっという間に、真っ黒な教会の完成である。
「黒い教会、すごく闇っぽくていい。でも…」
黒くなったこの教会の外観はセラに好評であるものの、まだ中のほうは聖なるものが色々と置かれていて、光属性に満ちている。
ゆえにセラは教会の中に足を踏み入れられない。
「大丈夫ですわ、セラ。これを用意してきましたから」
巨大な魔神像。ただし魔神っぽいデザインなだけで、本物の魔神をかたどったわけではない。
黒くてぼろぼろなカーテン。あくまでぼろぼろ風なデザインというだけで、本当にぼろいわけではない。
血で赤い魔法陣が描かれたような絨毯。ちなみに赤いのはあくまで染料の色であって血ではないし、魔法陣も魔法的効力はないただの模様。
様々なドクロの置物。もちろん本物の生き物の頭蓋骨ではなく、ただの悪趣味な民芸品である。
「すごい、さすが師匠!」
闇っぽい不気味な品々の数々に、セラは大喜びである。
「けれどお姉様、よくこんなものをすぐに用意できましたね。これそろえるの、結構なお金かかったんじゃないですか?」
「問題ありませんわ。ただの不用品の再利用ですもの」
これらの品は全て、アリアが自身の魔女らしさを演出するために買い集めたものである。
だが集めた後になって、さすがにこれは目に見える場所には置きたくない…と思い、使っていない部屋に押し込められていたもの。
ゆえに正真正銘不用品なのである。
その後、教会の中にあった聖なるもの、光属性っぽいものは全てカルロやソフィアの私室に移されて、聖堂や住居部分の共有スペースには、アリアが持ってきた不気味な品々が置かれることとなったのである。
「暗黒の館、セラ、大満足!」
「それでは聖女様、これからはここに住んでいただけますかな?」
「うん」
「これで一安心ですじゃ」
「これからよろしくお願いしますね、聖女様」
こうしてセラは当面の間この教会に住むこととなり、ひとまずは丸く収まったのである。
そして…
「では、わたくしはこれで…」
「じゃあ、私も宿に帰りますね」
用の済んだアリアと共に、ユヅキものこの教会から出ていこうとしたのだが、そんなユヅキをソフィアが引き留めた。
「あの、勇者様。もしよろしければ、勇者様もこの町に滞在中は、ぜひうちに泊まっていってください。部屋はまだ余っていますし、勇者様も一緒のほうが、聖女様も安心されると思います」
「うむ、それが良いですじゃ。旅の資金の節約にもなりますしの」
ソフィアもカルロも、あくまで厚意でそう言ってくれているわけだが、正直ユヅキにとって、この二人の提案はありがた迷惑なのであった。
なぜなら今のこの教会は、もうどこからどう見てもホラーハウスとしか言えないような状態になっていて、そしてユヅキはホラー系が大の苦手なのである。
「いえ、あの…そのっ、大変ありがたいご提案ですけど、やっぱり色々と迷惑をかけちゃうかもしれませんし、私は…」
「いえ、お気になさらず」
「どうぞ泊まっていってくだされ」
ユヅキ、一刻も早くここから立ち去りたくても、人のいい二人が帰らせてくれない。
そして…
「ユヅキ、行っちゃうの?」
セラはユヅキの服の袖をつかんで、上目遣いでユヅキの顔を見上げた。
さすがにユヅキも、こんなセラの手を振りほどくことはできない。
「わ…わかりました! 私もここにお世話になりますっ!」
ユヅキ、ホラーハウスに滞在決定。
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