第26話 メスオーガが色気づいて困ってます(その4)

「って、結局あたし痩せられないじゃん!」

「まあ、そういうことですわね」


 リッカはどうしようもない現実を知ってしまった模様。

 そしてそんなリッカはアリアの姿を見て、ふとあることに気付く。


「何ですの、そんなじっと見て…」

「すらっとした体で、上品ぶってるしゃべり方……」


 リッカは脳筋ではあるが、今日は珍しく頭がさえていたようである。


「お前かーっ!」

「何がですの?」


 リッカはアリアのことを指さしながら叫んだが、アリアは何でリッカが叫んでいるのかさっぱりわかっていない様子。

 だがこのリッカの言動で、ある程度のことを察してしまった者もいた模様。


「ねえ、セラちゃん」

「なに?ユヅキ」

「これってつまり、リッカさんの好きな人がお姉様のことを好きだってことに、リッカさんが気づいちゃったってことですよね」

「そうだと思う」

「お姉様は何も気づいていないみたいですけど、これ言ったほうがいいのかな? でも言ったら言ったで、それはまた面倒なことになりそうな気が…」

「どろどろでぐちゃぐちゃ、それもまた闇が深くていいと思う」


 セラはとりあえず闇っぽければ何でも肯定するのである。


「ともかく…だ、アリア、あたしと……×××を賭けて決闘だ!」


 リッカはここで再びアリアに決闘を申し込んだ……が、肝心な部分がアリアの耳には聞こえていない。


「何を賭けると言ったんですの? はっきり聞こえなかったのですけど」

「それは…ほら、ええっと…その……」


 リッカ、ここで恥ずかしがって、ルークの名前をまともに口に出せない。


「だから何ですの?」

「ル…ルークだよ! ルークを賭けてあたしと決闘だ!」


 リッカ、ついにルークの名前を出して、アリアに決闘を申し込んだ……が…


「ルーク…さん? いったい誰のことですの?」


 アリアはあの自警団の青年の名前を聞いていないため、ルークが誰のことだかさっぱりわからない。

 そして…


「というか、勝手に他人を賭けの対象にするだとか、あなたはいったい何を考えているんですの? その方の許可は取ってますの?」

「いや、それは…」

「そもそも、何でわたくしはそんな知りもしない人を賭けた決闘を申し込まれているんですの?」

「だから、その…」

「結局ルークさんって、いったい誰なんですの? リッカさんとはどういうご関係で?」

「ああっ、ううっ……」


 何も知らず何も気づいていないアリアに質問攻めにされて、リッカはもう完全に顔が真っ赤になっている。

 そしてそんなリッカの姿を見ていたたまれなくなったユヅキは、とりあえず自分が理解していることをアリアに話すことにしたのである。


「……というわけです、お姉様」

「なるほど、そういうことだったんですのね」


 やっとリッカの事情を理解したアリアは、少しほっとした様子である。

 それは、完全にただの頭のおかしいバトルジャンキーだと思っていた人にも、乙女らしい一面があることを知ったから。


「リッカさん」

「なに?」

「わたくしは今のところ恋愛には興味ありませんので、ご安心ください。あなたの思い人を奪ったりなどはいたしませんわ」


 これで全て丸く収まった…と、アリアは思った。

 しかし…


「今のところっていつまで? 何年の何月何日までは安心なの?」


 リッカはとてもめんどくさかった。

 そして、今の時点で何年何月何日なんてはっきり言えるわけないし、そもそもそれをはっきり言ったところでリッカがおとなしくなるとも思えなかったので、アリアはリッカにある提案をするのであった。


「ではこうしましょう。わたくしが、あなたの恋に協力して差し上げますわ」

「えっ、ほんと?」


 単純思考なリッカ、あっさりアリアの言葉を信じ込む。

 そしてそんなリッカの様子を見たアリアは、これならもっといけるかも…と、ある条件を加えるのであった。


「ただし、今後二度とわたくしたちに決闘を申し込まないこと。あとうちの物を壊さないことと、うちにいきなり飛び込んでこないこと。それと、ユヅキさんを危険な場所に連れて行かないこと。これらの条件を全てのんでくださるのでしたら、わたくしはいくらでも協力いたしますわ」

「……………」


 リッカは何とも言い難い顔をしている。

 これにはさすがにアリアも、色々と条件を増やし過ぎたのかな?…と思ったが、どうやらそうでもなかったようである。


「決闘できない…だって? アリアと戦いたかったのにぃ…。それにレベルがいっぱい上がったユヅキと戦うのは、もっともっと楽しみだったのにぃ…。でもこの条件さえ飲めば、ああっ……」


 リッカは相当迷っている様子。

 だがこれはつまり、もう一押しすれば条件をのませられるということである。


「勇者との決闘ならジョーさんがいるじゃないですか」

「あの弱い勇者?」

「はい。確かにこの前は弱かったですけど、ユヅキさんより速いペースでレベルは上がっているでしょうから、次はいい勝負になるかもしれないですわ」

「そっか。あいつがとてつもなく強い勇者になる可能性もあるんだよな」


 だがジョーはいずれどん底に落ちることが確定している。

 ジョーに同行しているシャルルの性格を考える限り、ジョーがとてつもなく強くなる前にどん底に落ちることは避けられないのである。


 しかしリッカはそんなこと全く知らないため、勇者との決闘はジョーでいいや…と、条件をのむことにしたようである。


「わかった、その条件のもう。その代わり…ええっと…」

「ええ、全力で協力いたしますわ」


 こうしてこの件は丸く収まり、アリアとユヅキは脳筋の剣聖から決闘を挑まれ続ける…という厄介な状況から脱することが出来たのである。




 そしてその後、リッカは何かとこの魔女の館にやって来ては、アリアにルークとの話を聞かせるようになったのだが……


「それでさ、今日はルークに言われた通り、冒険者たちにも獲物を残しつつ、ほどほどにゴブリンをぶっ倒してやったんだよ。そしたらルークがめっちゃほめてくれた。えへへ…。これってものすごくいい感じだよな?」

「えっとぉ……まあ、そうなんじゃないかしら」

「やったー!」


 アリアは思った。

 これ、恋する乙女じゃなくって、ペットのわんこの反応だ…と。

 リッカ、メスオーガから雌犬にクラスチェンジ…か?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る