第25話 メスオーガが色気づいて困ってます(その3)

 そしてこれは、アリアが洞窟に向かった日の朝の出来事。


「おれはやっぱ、こう胸がボンっとでかくて、ウエストがきゅってしまってる、大人の魅力あるセクシーな…」

「はいはい、お前はいつもそれ言ってるな。オレはもっと幼い感じのほうが…」

「……………」

「何だ」

「犯罪には手を染めるなよ」

「わかっているさ。合法じゃないのには手は出さない」


 どうやら自警団の詰め所では、若い団員二人が好みの女性のタイプについて語り合っていた模様。

 そしてその二人は、近くにいたルークにも声をかけてきた。


「なあルーク、お前はどうなんだ? お前みたいなやつでも、やっぱセクシーなおねえさんの魅力には逆らえないよな?」

「いやいや、女の子はあどけない表情や幼い体つきこそが至高」

「さあルーク、お前はどっちだ?」

「君はどういうタイプが好きなんだ?」

「え…えーと……」


 ルークは基本的にこういう話は苦手であるため、普段はあまりこういう話をしている場には近づかないようにしているのだが、どうやら今日は逃げられそうにない様子。

 そこで、何か言わなきゃ放してくれないと感じたルークは、とりあえず今頭に思い浮かんだ女性の特徴を述べることにした。


「すらっとした感じの、上品な人…かな」

「なーんだ、お前は巨乳派じゃねえのかよ」

「つるぺた派の同志よ!」

「は…ははははは……」


 ちなみにこのときルークが頭に思い浮かべていた女性とは、アリアのことである。

 ルークは別にアリアに対して恋愛感情を抱いているわけではないのだが、現状ルークの中で最も高感度の高い若い女性がアリアであったため、ルークはそう答えたにすぎない。

 だがこのとき、先ほどのルークの言葉を耳にしていた者が、まだ他にもいたのである。


「すらっと…した?」


 割と筋肉質な女が、自分の手足の太さを気にしている。

 そう、先ほどのルークたちの話を聞いていたのは、ついさっきここにやって来たばかりの、ちょろい剣聖リッカであった。


「くっ…」


 自分の体形がルークの好みとは違うと知ってしまったリッカは、すぐさまこの場から走り去っていった。



 そんなリッカが向かっていった場所は、例のあの洞窟。

 思考が単純なリッカは、誰にも見つからないであろうこの場所で、剣を思いっきりぶんぶん振り回すことで、少しでも痩せよう…と考えたようである。


 なお、ルークは体形のこと以外にも、上品な人…とか言っていたはずだが、それはリッカにはどうしようもないことなので、その部分は一切聞かなかったことにした模様。




 そして話は元の時間に戻る。

 リッカはここまでの経緯を、こんな話別に聞きたいと思ってもいないセラに対して、くどくどと語り尽くした。

 その結果……


「剣士の人、頭悪い?」


 セラの率直な感想が帰ってきてしまったのである。


「あ…あたしは頭悪くなんてないぞ! あたしは色々と考えてだな、少しでも細くなるために目いっぱい運動を…」

「腕、ムキムキ。脚、ムキムキ。お腹、ムキムキ。おっぱい、ぽよんぽよん。これで運動しても、おっぱいしぼむだけだと思う」

「なにぃっ!」


 そう、リッカは身長が高めで筋肉質だから重いのであって、脂肪は胸以外にはあまりついていない。


 つまり減量のための運動を行えば、消費されるのは胸部の脂肪であり、他の部分は大して細くならない。

 むしろより一層筋肉が鍛えられて、さらに太く重くなる可能性が高い。


「そ…そんなっ…。それじゃああたしは、いったいどうしたらいいんだ?」

「知らない」


 闇以外のことに大して興味のないセラに聞いても、返ってくるのは所詮そんな答えである。

 そこでリッカは、話を聞く対象を別の者に変えることにした。


「ユヅキ! あたしはいったい、どうしたらすらっとした体になれるんだ? 運動するだけじゃだめなのか?」

「え…えっと、脂肪や炭水化物を消費し尽くしたうえで、さらに運動し続ければ、筋肉が体を動かすためのエネルギーとして分解されて、体も細くなるんじゃないかと」

「……どういうこと?」


 リッカは脳筋であるため、もっと簡単にわかりやすく説明しないと伝わらないのである。


「つまり、食べずに運動し続ければ、いつかは痩せます」

「おおーっ!」

「けれど筋肉が減るわけですから、当然剣士としては弱くなると思いますけどね」

「だめじゃん!」


 そう、スマートな体と強い肉体、それを両立することはとても難しいのである。


「ああっ、あたしはどうしたら? 細いすらっとしか体にはなりたいけど、最強をあきらめたくはないし、ああっ!」


 リッカはどちらも諦められずに相当悩んでいる様子。

 だがはっきり言って、この悩みは無用なものであった。


「リッカさん、悩む必要などありませんわ」

「どうしてだ?アリア」

「それは、あなたが食事をとらずに運動し続けることなど不可能だからですわ。まだ熟していない青い果物を平気な顔で食べてしまうようなあなたですもの。空腹が限界に達したら、スライムやゴブリンを食らってでもお腹を満たそうとするはずですわ」

「あー、そっかー。そういや、そうだったなー」


 ちなみに、豚肉に近いオーク肉とは違い、ゴブリン肉が食材として扱われることはまずない。

 スライムは何かの食材に使えないかと研究している者はいるらしいが、生ですするような者はほぼいない。


 ゆえに、アリアが半分冗談で言ったことなのに、本当に食べた経験があるような反応を見せたリッカに対して、三人は結構ひいていた。

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