第24話 メスオーガが色気づいて困ってます(その2)
これは、あの洞窟での不毛な闇魔法修行が始まるよりも、数日ほど前の自警団詰め所での出来事である。
「ルーク、町の周りにいたゴブリンども、全部ぶっ倒してきたぞ」
「お疲れ様、リッカさん」
この青年ルークは、以前突然変異種のサイクロプス討伐をアリアに依頼した自警団員であり、その後魔女の館を傷つけたリッカを捕らえた人物でもある。
そして今現在リッカは、その器物損壊の罪を許してもらうために、自警団の仕事を色々と手伝っているわけだが……
「さあ、次はどんな魔物だ? ドラゴンでもキマイラでも、どーんと…」
「いや、さすがにそんな強い魔物はここじゃ出ないから」
「そう…なのか?」
「まあこの前一回だけ、突然変異種のサイクロプスが出たことはあったんだけど」
「へ…へぇ……」
リッカは思いっきり目をそらした。
なぜならそのサイクロプスが町の近くまでやって来てしまったのは、全てリッカのせいだからである。
「ま、それなら仕方ないか。ちょっと物足りないけど、明日もゴブリン退治…」
「そのことなんだけどリッカさん…」
「なに?」
「町の安全のためにゴブリンを退治してくれるのはありがたいんだけど、ほとんどリッカさん一人で倒しきっちゃうから、冒険者ギルドのほうから、仕事を奪わないでくれ…って声が上がってて……」
そう、この町のギルドを拠点にしている冒険者の主な仕事は、町周辺のゴブリン退治である。
ゆえにそれをリッカ一人で狩られてしまっては、冒険者たちは収入源を失ってしまう。
もちろん冒険者ギルドで受けられるクエストはゴブリン退治だけではないが、一般人でも倒せるようなスライムを狩ったところで、報酬はせいぜい子供の小遣い程度。
薬草などの採取クエストもあるが、冒険者の多くは戦いで稼ぎたくて冒険者になった者がほとんどなため、そういう地味なクエストは人気がない。
また、ゴブリンよりも強い魔物を狩りに行く…という手もあるが、その場合町からそこそこ遠出をする必要があるうえ、そもそもこの町を拠点にしているような冒険者はそれほど強くない者が多いため、結構な危険が伴う。
ゆえに、手ごろな強さで安定して狩れるゴブリンを奪われることは、この町にいる新米や低ランク冒険者にとっては死活問題なのである。
「というわけでリッカさん、ゴブリン退治に関しては、基本は冒険者の人たちに任せて、自警団としては彼らの手が行き届かなかったものを始末する…という形で…」
「うぅっ、めんどくさいぃ……」
脳筋リッカとしては倒す魔物をいちいち選ぶよりも、片っ端から全部ぶっ倒したほうが楽…という考えなようである。
「けど、ルークがそう言うなら…」
「ありがとう、リッカさん」
以外にも、リッカはルークの言葉に対しては割と従順である。
それは、リッカが器物損壊の罪を犯した存在で、それを許してもらうためにここにいるから…ではなく、ただ単純に、リッカがルークに惚れているから…である。
一見色恋沙汰にはあまり興味のなさそうなリッカがなぜルークに惚れているのか。
それは……
「おー、メスオーガ、今日もゴブリンばんばんぶっ倒してきたか?」
「メスオーガって言うなっ!」
「でもお前、みんなからそう呼ばれてんだろ」
「ぐぬぬぬぬ……」
リッカは剣聖としての圧倒的な強さと、所かまわず決闘をしたがるその脳筋な性格から、以前いた町の冒険者ギルドではメスオーガと呼ばれていた。
異世界のあだ名で例えるならば、メスゴリラ的なものといっていいだろう。
そしてそのリッカのメスオーガというあだ名は、その町からアリアタウンにやってきた冒険者によって、この町の冒険者たちの間に広まり、今ではこの自警団の中でも浸透しているのである。
「よっ、メスオーガちゃん」
「だからやめろ」
リッカがいくらこのあだ名をやめろと言っても、もう冒険者ギルドと自警団の中では完全にこのあだ名が定着してしまい、ほとんど皆このあだ名で呼んでいる。
ごく一部の者を除いて……。
「ルーク、あいつらひどい!」
「そうですね。リッカさんはオーガとは似ても似つきませんからね」
「だろ、ふふん」
リッカはルークからオーガに似ていないと言われて、とてもご満悦な様子である。
そう、リッカはあまりにも周りの男たちからメスオーガ扱いされ過ぎた結果、自分のことをメスオーガ扱いしない好青年には簡単に好意を抱いてしまう、ちょろすぎな女剣士となっていたのである。
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