第22話 無意味な闇魔法修行が始まって困ってます(その4)

 洞窟の奥にいるオーガだと思われていたものの正体は、巨大な剣を振り回していたリッカであった。

 そしてそのリッカはアリアが放った闇の攻撃魔法を受けて、気を失ってしまった模様。


「この人、誰?」


 リッカのことをよく知らないセラがそう口にすると、その問いにユヅキが答える。


「この人は剣聖のリッカさんです」

「剣…聖? つまり師匠は、剣聖より強い。師匠の闇魔法、最強! 闇は偉大」


 どうやらセラは、アリアの闇魔法のすごさが証明されたことがうれしいらしく、きらきらと目を輝かせている。

 だがその一方で当のアリアはというと…


「だ…大丈夫ですか?リッカさん! リッカさん、リッカさんっ!」


 闇魔法に倒れてしまったリッカがピクリとも動かないことに、かなり動揺している様子である。


「今すぐに回復薬を…いや、精神攻撃で倒れたんだから気付け薬のほうがいいのかな? でも今は薬持ってきてないし、リッカさんをうちまで運ぶのも大変そうだし、かといってリッカさんをここに放置して薬取りに戻るのも……ああっ!」


 これまで箒の魔法で魔物を倒したことはあれど、人に対して攻撃魔法を放ったことがなかったアリアは、この状況に動揺しまくって、もはや出来る魔女を演じることも忘れてしまっている模様。


「ええっと、ええっと」

「お姉様、落ち着いてください!」

「ユ…ユヅキさん…」

「たぶん、リッカさんのことは大丈夫だと思います」

「ほんと?ほんと? ……あっ、いえ、本当ですの?」

「はい」


 あれだけ慌てふためいた後で、今更急に落ち着いた口調に戻して出来る魔女を演じてももう遅い気もするのだが、ここにいる二人はアリアを盲信している二人なので、あまり問題なかったのかもしれない。


「確かに私たちは今、リッカさんを助けられるような薬は持っていません。けれどこの場には、聖女であるセラちゃんがいます」

「そ…そうでしたわね。今はこんな格好ですけど、セラは聖女でしたわね」


 闇の衣に身を包みし真っ黒なゴスロリ聖女セラ。


「というわけでセラちゃん、リッカさんを神聖魔法で助けてください」

「お願いいたしますわ、セラ」


 だが二人にそう言われたセラは、少々嫌そうな顔をしている…が、この場が暗かったり、今が緊急事態であるため、二人はセラのその表情に気づかない。


「さあセラちゃん!」

「神聖魔法を!」

「うぅっ……」


 こうしてセラは二人にせがまれて、少々嫌々ながらも神聖魔法を発動させるのであった。


「ん……」


 セラは倒れているリッカの前で、手を組んで祈るようなしぐさを見せた。

 すると突然まばゆい光がリッカの体に降り注いできたのである。


「こ…これが、聖女の神聖魔法?」

「ものすごく神々しい光…ですわね」


 通常魔法を発動させるためには、その魔法に関する知識と、魔力を自在に操れる技術、そして神聖魔法の場合はさらに、神への信仰心も必要とされる。

 だがセラは、そのどれも持ち合わせてはいない。


 聖女であるセラは神に最も愛されし者。

 ゆえにセラがちょっと祈りをささげるだけで、知識も技術も強い信仰心もなくとも、その場の状況に応じた強力な神聖魔法が自動的に発動してしまうのである。


「……んっ、あれ? あたし何でこんなとこで倒れてたんだっけ?」

「リッカさん、気が付いた!」

「さすがですわ、セ…ラ?」


 セラが発動させた神聖魔法の力によって、リッカは意識を取り戻した。

 だがそれと同時に、セラはその場に倒れこんでしまった。


「うっ……」

「セラっ、どうしましたの?」

「神聖…魔法、危…険…。目が…焼ける……」


 だが本当に目が焼けたわけではない。

 セラは暗い場所を好む闇大好き人間であるがために、神聖魔法の神々しすぎる光を目にすると、ちょっと気分が悪くなってしまうだけなのである。


 だがそんなことを知らないアリアとユヅキは、本当にセラの目が焼けてしまったのかと思い、セラに神聖魔法を使わせてしまったことを激しく後悔した。


「わたくしは、なんて軽率なことを…。安易に神聖魔法なんて使わせるべきではありませんでしたわ」

「いえ、お姉様のせいじゃありません。セラちゃんの神聖魔法なら何とかなるって言っちゃったのは私ですから…」

「こんなことなら、リッカさんなんて放っておけばよかったですわ」

「そうですよね。リッカさんなら数日くらい放置しておいても平気そうですし」

「ねえ二人とも、状況はよくわかんないけど、なんかあたしの扱いひどくない?」


 アリアにしつこく決闘を申し込んだり、ユヅキを危険な魔物のいる山に強制連行したり…と、これまでの行動あっての当然の扱いと思われる。


「ともかく、急いでセラを連れて戻りましょう。セラはリッカさんと違って小柄ですから、わたくしたちだけでも運べるはずですわ」

「そうですね。重そうなリッカさんはどう考えても無理でしたけど、セラちゃんなら私たちだけで運べますね」

「ちょっと、あたしの体重が重いみたいな言い方やめて! 重いのは剣と鎧だけだから!」


 だがリッカが必死にそう訴えても、アリアとユヅキはもうここにはいない。

 さっさとセラを連れて洞窟の外へと向かった模様。


「おっ…おいぃぃっ!」



 こうしてこの日の闇魔法修行は、結局何の修行もしないまま終了することとなった。

 もっとも何か修業したところで、どうせ何の意味もないのではあるが。


 ちなみに倒れていたセラはというと、元々ちょっと気分が悪くなっただけで特に何の問題もなかったのだが、セラのことを心配したアリアから、とても苦いが何にでもよく効く魔女の秘薬を飲まされて、かなりつらい思いをしたそうな。


 そして最後に一つ残された疑問。

 なぜリッカがあんな所にいたのか…ということであるが、その件についてはまた後程……。

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