第21話 無意味な闇魔法修行が始まって困ってます(その3)

 アリアたちは、ゴブリン相手に闇の攻撃魔法を試すべく、武器を振り回す音を頼りに洞窟の奥へと向かっていく。

 だがある程度奥まで進んできたところで、三人は違和感を覚えた。


「これ、ゴブリンが棍棒を振り回す音なのかしら?」

「音、結構大きい」


 アリアとセラがそう口にすると、ユヅキはあることを思い出して、思いっきり青ざめた顔になってしまった。


「こ…この音、オーガじゃないでしょうか。前にリッカさんに連れていかれた山で、オーガにも何度か遭遇しましたけど、そのオーガの武器を振る音が…こんな感じだったような……」


 そう、この洞窟の奥から聞こえてくる音は、どう考えても小さな棍棒を振り回す音ではなく、もっと巨大な武器を振り回している音なのである。

 つまりこの奥にいる魔物は、ただのゴブリンなどではなく、もっと巨大な魔物である可能性が非常に高い。


「お…お姉様っ、大丈夫ですよね? お姉様がいれば、オーガくらい簡単にやっつけられますよね?」

「え…ええ、当然ですわ」


 アリアは出来る魔女を演じているため、余裕たっぷりにそう答えるが…実際には全くもって自信がなく、内心相当焦っている。


 なぜならこの洞窟内では風のマナが少ないため、箒を振り回しても風より闇のマナが優先的に集められてしまい、風の魔法が使えない。

 土の魔法も、この洞窟が崩れてしまう危険性を考えると、あまり大掛かりなものは使えない。

 そして闇の攻撃魔法は、さっきスライムに一回試しただけで、それがオーガに効果あるのかどうかはまだわからない。


 つまり今のアリアは、あの箒の魔導具を持っていたとしても、それでオーガクラスの強敵とまともに戦えるかどうかは、全くもって未知数の状態なのである。


「さ…さあ、魔物のもとへ向かいますわよ」

「はい、師匠!」


 こうしてアリアはオーガらしき魔物に内心怯えながらも、二人を引き連れてどんどん奥へと向かっていく。

 するとあるところで、向こうがこちらの足音に気づいたのか、武器を振り回す音がぴたっと止まった。


「お…お姉様っ、これもう、オーガに気づかれちゃってますよね」

「大丈夫ですわ、ユヅキさん。このわたくしの魔法は、オーガごときに敗れるものではありませんもの」


 口ではそう言っているが、実際にはこれっぽちも自信はなく、アリアは結構大量の冷や汗を流している。


「オーガ対師匠の闇魔法、わくわく」


 そしてついに、そのオーガらしき魔物が動き出す。


「お姉様っ、足音がっ!」

「わかっていますわ。……はぁっ!」


 アリアは箒を振り回して闇のマナをかき集めると、すぐさま闇をまき散らす目くらましの魔法を放った。


「二人とも、下がってください。この闇から出てきたところを狙いますわ」

「は…はいっ!」

「うん」


 こうしてアリアは二人とともに少し後ろに下がり、箒を振り回して十分に闇のマナをかき集めてから、魔物が飛び出してくるのを待ち構える。

 そして……


「来ましたわ、ええいっ!」


 闇から何かが飛び出してくるのと同時に、アリアは闇の攻撃魔法をそれに向けて発動させた……が…


「だーれが、オーガだーっ!」


 闇から飛び出してきたのはオーガではなく、巨大な剣を振りかぶった女剣士、脳筋な剣聖のリッカであった。


「リッカさん?」

「誰?」


 しかし、闇から飛び出してきたのが魔物ではないということに、今更ユヅキやセラが気付いてももう遅い。

 なぜならすでに、アリアの闇魔法はリッカに向けて放たれてしまっているのだから。


「うっ、な…なにっ?」


 アリアの放った闇の攻撃魔法によって、リッカの体に大量の闇が吸い込まれていく。

 そしてその直後、リッカの体の動きがぴたっと止まった。


「……………」

「リ…リッカさん、大丈夫…ですの?」

「……………」


 アリアが声をかけても、リッカからは全く反応がない……と思いきや…


「ぎやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 リッカは突然とんでもなく大きな悲鳴をあげた。

 それは、アリアたちの鼓膜が破れてしまいそうになるほどの大きな声で、この洞窟中に響き渡る。

 そして、リッカの叫び声が止まると同時に、リッカはばたんと倒れこんだのであった。

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