第20話 無意味な闇魔法修行が始まって困ってます(その2)
暗い洞窟の中で、アリアは箒の魔導具をくるくると回しながら構えた。
もちろん箒を回していたのはかっこつけるためではなく、この暗い空間に存在する闇のマナをかき集めるためである。
そして箒にためられた闇のマナを使い、アリアは闇魔法を発動させた。
「はぁっ!」
アリアが発動させた闇魔法、それは、闇をまき散らし敵の目をくらますという魔法である。
「これが闇魔法ですわ」
「闇魔法、かっこいい! さすが師匠!」
別に大した魔法ではないのだが、ただ闇というだけでセラは大喜びである。
だがその一方で…
「お姉様、この魔法のどこが危険なのですか?」
アリアは闇魔法が危険だからという理由でこの洞窟に二人を連れてきていたため、ユヅキは当然の疑問を口にしてしまった。
はたしてアリアは、これにどう受け答えをするのか?
「危険なのはこの魔法ではなくて、別の魔法ですわ」
まあ、妥当な回答である。
だがその答えが、より一層アリアを窮地に陥れることとなる。
「つまりそれは、闇の攻撃魔法とか…ですか?」
「闇の攻撃魔法、見たい!」
他の魔法などという言葉を口にしてしまったため、二人は闇の攻撃魔法に強い興味を抱いてしまったのである。
「お姉様の風と土の魔法は大賢者様以上だそうですから、きっと闇の攻撃魔法もすごいに違いないです」
「わくわく」
二人からの期待値が上がり過ぎて、アリアはものすごく肩が重い。
なぜならアリアは、闇の攻撃魔法を使ったことがまだ一度もないからである。
アリアは師から魔法の知識は一通り教わっているため、この箒の力があれば闇の攻撃魔法も使えないわけではない。
だが闇の攻撃魔法とは、相手に直接ダメージを与える風や土の魔法とは違い、精神攻撃系の魔法。
つまり魔法をかける対象がいなければ、そもそも発動自体不可能な魔法であるため、アリアは闇の攻撃魔法をまだ一度も試せていない。
だからアリアは、ぶっつけ本番で使わなければならないこの魔法が、うまくいくかどうか心配なのである。
「師匠、まだ?」
「せかさないで、セラ。闇の攻撃魔法は精神攻撃。かける対象が見つかるまでは、使えな…」
「セラにかける?」
「冗談…ですわよね」
セラは割と本気なようである。
「ともかく、ちょうどいい魔物が見つかるまでは、おとなしく待っていてください」
そして何も出なければ、今日の修行はここで終わり…とするつもりなようである。
だが……
「お姉様、あそこにスライムが…」
ユヅキが手ごろな魔物を見つけてしまった。
これではもう、アリアは闇の攻撃魔法を見せないわけにはいかない。
「師匠、闇の攻撃機魔法!」
「わ…わかりましたから、せかさないでください」
こうしてもう逃げられなくなったアリアは、出来るだけ不自然にならないように、杖を大きく振り回しながら構える。
そしてその杖をスライムに向けて…
「はっ!」
アリアは闇の攻撃魔法をスライムに対して発動させた。
すると、大量の闇が小さなスライムの体に吸い込まれていった模様。
「これが、闇の攻撃魔法…」
「師匠、すごい…。さすが、闇の使徒」
「……とまあ、闇の攻撃魔法はこんな感じですわ」
だがしかし…
「あの、お姉様…」
「何かしら?ユヅキさん」
「あのスライム、特に何ともないようですけど」
そう、先ほど魔法発動時に結構派手なエフェクトが出たものの、その魔法を受けたスライムは何のダメージも受けていない様子。
だが、それにはちゃんと理由がある。
スライムはほとんど知性がない魔物であるため、精神攻撃がほぼ無意味だからである。
しかしアリアは、そのことに気づかずテンパっている。
「いや、あのっ…それは…そのっ…」
「もしかして、スライムは知能が低いから、あまり精神攻撃が効かない…とか…」
どうやら、先にその事実に気づいたのはユヅキだった模様。
「そう、その通りですわ!」
そしてアリアは思いっきりそれに乗っかった。
「ともかく、これでわたくしのお手本は終了ですわ。ここからは、セラの修行…」
「セラ、ちゃんと魔法が効いてるとこ、見たい」
「いや、でも、それにはある程度知性のある魔物がいないと…。この洞窟にいるのはスライムくらいですし…」
「じゃあ、外に探しに行く!」
それはアリアとしては非常に困る。
なぜなら、この洞窟から一歩外に出てしまえば、もう闇のマナをかき集めることが出来なくなり、闇魔法が使えなくなってしまうからである。
「行こ、師匠!」
「で…でも……」
アリア、絶体絶命のピンチ……かと思われたが…
「お姉様、洞窟の奥のほうから、何か音が聞こえてきます。なんだか、武器とかを振り回しているみたいな音が…」
「そうですの。それはちょうどいいですわね。この辺りで武器を振り回す魔物といえばゴブリンくらいですし、闇魔法の試し撃ちにはうってつけですわ」
アリア、なんとか洞窟から出ることは回避。
だが果たして、その洞窟の奥にいるという存在は、本当にゴブリンなのであろうか。
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