第19話 無意味な闇魔法修行が始まって困ってます(その1)

 ここはアリアタウンにあるとある宿屋のユヅキが泊まっている部屋。

 だが今日はユヅキの他にもう一人、この部屋に泊まっている者がいる。


「聖女様、起きてください。もう朝ですよ」

「すぅ……」


 アリアに弟子入りしたセラは、そのまま魔女の館に居つこうとしたが、さすがにそれはアリアに全力で拒否されたため、こうしてユヅキと同じ宿に泊まっている。


「聖女様っ」

「ん……。その…呼び方…嫌い…。光…っぽい…」

「じゃあ、セラちゃん…でいいですか」

「うん…。もしくは、闇の使徒セラ…でも可」

「呼びません。いいからそろそろ起きてください、セラちゃん。もう結構日も昇ってきてますよ」

「太陽…昇ってる…。光…まぶしい…。じゃ、おやすみなさい…」

「ちょっとぉっ!」


 聖女になってからは規則正しい生活を余儀なくされていたが、闇大好きなセラは元々夜型であったため、再び夜型に戻ろうとしているようである。


「セラちゃん、今日はお姉様から闇の魔法教わるんでしたよね。早く行かないと教えてくれなくなっちゃいますよ」

「そうだった。師匠から闇魔法、教わる!」


 闇魔法を教わりたい闇大好きなセラは、勢いよくベッドから飛び出した。

 そして、これまで聖女として着ていた真っ白なドレスではなく、この町の服屋で買った黒いゴスロリドレスに身を包んだ。


「闇の衣、いい感じ」


 ちなみに、セラのお金はシャルルが管理していたため、そのシャルルがいなくなって現在の所持金はゼロ。

 ゆえにこの服の購入代金は、ユヅキが国王から受け取っていた勇者の旅の資金で立て替えている。


「それじゃ、お姉様の所に向かいましょうか」

「うん」




 そして二人は魔女の館へとやって来た。


「おはようございます、お姉様」

「師匠、闇魔法!」

「はぁ……」


 アリアは二人の到着にため息をついている。

 なぜなら昨日、アリアはセラを魔女の館に泊まらせらないために、闇魔法は明日教えますわ…と言ってなんとかセラを帰らせたものの、出来れば一晩たったらこのことは忘れてほしかったからである。


 だがこうしてセラがやって来てしまった以上、アリアはセラに闇魔法を教えるしかない。

 魔力皆無な偽りの魔女が、闇魔法を覚えられない光魔法の使い手に教える…という、思いっきり無意味な闇魔法修行であったとしても。


「では、修行の場所に向かいますわよ」

「うん」

「修行の…場所?」




 こうしてアリアたちは、魔女の館のすぐそばにある小さな洞窟へとやって来た。


「闇の領域、落ち着く…」


 やはりセラは暗い場所が好みなようである。


「ところでお姉様、どうしてこんなところまでやって来たんですか? 魔法の修行なら、お庭でも十分では?」


 そうユヅキに問われてアリアは答える。


「闇魔法は危険な魔法ですので、他に被害が及ばないようにするためですわ」


 もちろんただの口らから出まかせである。

 アリアがこの場にやってきた理由は、ここでなければ闇のマナを箒で集めることが出来ないからである。


 アリアが事前に試してみたところ、闇のマナは一時的に暗くしたような場所にはほとんど存在せず、闇のマナが十分に存在するのは常に暗い場所のみである。


 一応魔女の館にも、扉がほとんど閉め切ったままになっている暗い部屋は存在するが、決して広くはないそんな部屋で闇魔法の修行をするのはあまりに不自然すぎるため、こうして近くの洞窟にやってきた次第である。


「それではセラ、闇魔法の修行、始めますわよ」

「お願いします、アリア師匠!」


 何度も言うが、これは普通に魔法を使うことができない魔力0の人間が、闇と相性が悪すぎる聖女に闇魔法を教えるという、全くもって無意味な修行である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る