第18話 光の者が闇大好きで困ってます(後編)
魔女の館へと帰ってきたアリア。
だがそこには、ずっとアリアにくっついてきた聖女セラの姿があった。
「師匠、セラに闇の修行を」
「はぁ……」
セラはこれっぽっちもアリアから離れる気がない様子である。
そこでアリアは、あの後一緒にこの場に戻って来ていたユヅキにある提案を告げた。
「ユヅキさん、あなた、勇者パーティーの仲間を探していましたよね。聖女とかどうかしら」
「押し付けようとしないでください」
だがその案はすぐさま却下された。
「教会に黙って聖女様を連れまわしたら、あとでどんな大変なことになるか分かったものじゃないです」
そう、きっと面倒なことになるのは確実である。
あとそれと、光が苦手な聖女では、どれだけ強力な神聖魔法の力を持っていたとしても、気軽に魔法を使うことが出来ず、大した戦力にならない可能性がある。
「というわけですので、聖女様のことは師匠であるお姉様にお任せします」
「うっ……」
このままセラがここに居ついてしまっては、アリアは素に戻って落ち着ける時間が完全に失われてしまう。
「師匠、闇の修行…まだ? セラも闇の魔法…使いたい」
「闇の…魔法…。あなた、闇の魔法を覚えたくて、わたくしに弟子入りしたんですの」
「うん」
そう、闇大好きなセラがアリアに弟子入りした一番の目的は、闇っぽい格好をしている魔女から闇の魔法を教わることである。
だがそれがわかったことで、アリアはこの場を切り抜ける言葉を一つ思いついた模様。
「残念ですがセラ、あなたには闇の魔法を修得することは不可能ですわ」
「えっ? ど…どうして?」
「属性魔法というものは、火と氷や光と闇のような、相反する属性の魔法を同時に修得することが非常に困難ですの。そして聖女であるあなたは、神聖魔法…つまりは光魔法の使い手。今から闇の魔法を覚えることは不可能に近いですわ」
「そ…そんなっ……」
セラはこの事実に大きなショックを受けている。
だがこの話を聞いていたもう一人の人物、ユヅキの頭の中では、今ある一つの疑問が生まれていたのであった。
「でもお姉様は、風と土の魔法使ってますよね」
あの箒の魔導具で集めやすいマナが風と土のマナであるため、アリアは主にこの二つの属性魔法をあの箒で使っていたのだが、本来風と土は相反する属性。
普通に魔法を覚える場合、同時に修得することはまず不可能なのである。
「お姉様はいったいどうやって、相反する風と土の魔法を修得したんですか?」
アリア、絶体絶命。
このままでは、自分は魔導具の箒で魔法を使っているだけの、魔女ではないただの人間だということがばれてしまう。
そこでアリアは、ひとまずこう答えることにした。
「魔女の秘術ですわ」
完全にただの口から出まかせであり、相反する属性魔法を同時に修得する秘術などというものは、現時点ではどこにも存在していない。
だが、伝説の魔女扱いされているアリアがこれを言えば、誰でも簡単に信じてしまうものである。
「そんなすごい秘術があるんですか?お姉様」
「その秘術で、セラも闇の魔法…覚える」
結局その場をごまかすためについた嘘のおかげで、セラに闇魔法をあきらめさせることはできなくなってしまった。
というわけで、魔法の使えない偽りの魔女が、闇魔法を覚えられない聖女に闇魔法を教えるという、不毛な闇魔法修行編へと続く。
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