第17話 光の者が闇大好きで困ってます(前編)

 前回までのあらすじ。

 聖女の付き添いとしてやってきた神官のシャルルは、勇者ジョーがどん底に落ちる様を誰よりも近くで眺めるために、勇者ジョーの旅についていってしまった。

 聖女セラをアリアタウンに残したまま。


「アリアお姉様、聖女様が完全に置いてきぼり状態なんですが、これどうするべきだと思いますか?」

「とりあえず、町の教会にでも連れて行けばいいんじゃないかしら」


 こうしてアリアとユヅキは、シャルルに置いて行かれた聖女のセラを、アリアタウンの教会に連れて行こうとしたのだが…


「不要」


 それは聖女に拒否されてしまった。


「フフフフフッ……」


 聖女セラはなぜか不敵な笑みを浮かべている。

 そこで、聖女のこの様子を奇妙に思ったユヅキが聖女に尋ねた。


「聖女様、急にどうしたんですか?」


 すると、シャルルがいたときはずっと物静かにたたずんでいるだけだった聖女が、とてもうれしそうに語りだしたのである。


「セラは光の牢獄から解放された。もう二度と、かごの中の鳥には戻らない」


 このセラの口にした牢獄という言葉で、アリアとユヅキはあることを頭に思い浮かべた。

 聖都の教会本部では、聖女は監禁されてひどい扱いを受けていたのでは…と。


「あなた、教会本部ではどういう扱いをされてましたの?」

「聖女様は、大人の人たちにひどいこととかされてなかったですか?」


 しかし二人のこの問いに、聖女は首をかしげている。


「???」


 どうやら監禁されてひどい扱いを受けていたわけではないようである。

 ではなぜ、聖女セラは牢獄などという言葉を口にしたのか?

 答えはただ単に、教会という場所がセラにとって居心地の悪い場所だったから…というだけである。


「聖都は…教会は…光に満ちている。でもセラは、光…苦手。光…まぶしい」

「お姉様、神聖魔法って光の魔法ですよね」

「ええ、そうですわね」


 聖女であるセラは、最上位の光魔法の使い手であるにもかかわらず、光が苦手であった。


「セラは光より闇がいい。闇は落ち着く。闇はセラの心を癒す。セラは闇と共にある」

「お姉様、聖女様が闇大好きでいいんですか?」

「そんなこと、わたくしに聞かれても困りますわ」


 こうしてアリアとユヅキの二人が、光を嫌悪し闇を求める聖女セラの扱いに困っていると、そんなセラがアリアの服をつかんできたのである。


「闇の衣、素敵…」

「これは闇の衣などではなくて、ただの一般的な魔女の服ですわ」

「魔女…。闇の使徒……」

「いえ、わたくしは闇の使徒などではなくて…」

「セラ、魔女の弟子になる」

「……え?」


 闇大好きな聖女のセラが、勝手にアリアに弟子入りしてしまった。


「わ…わたくしは、弟子入りなど認める気は…」

「セラ、師匠の下で立派な闇の使徒になる!」

「ですから、わたくしは闇の使徒などではありませんわ!」

「闇~♪、闇~♪」


 セラはとてもうれしそうな顔で謎の鼻歌を歌っていて、アリアの言葉が全く耳に入っていない模様。


「お姉様、この聖女様には何を言っても無駄な気が…」

「ああっ、どうしてこんなことにぃ……」


 はたしてアリアは、この窮地を切り抜けることが出来るのであろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る