第10話 勇者パーティーに勧誘されて困ってます(その3)
ユヅキが町へと向かってから約一時間後。
アリアは再び草花に語りかけながら、ご機嫌な様子で花壇の手入れをしていたのだが…
「た…助けてください、アリアさんっ!」
「っ!」
そんなアリアのもとに、ユヅキは血相を変えて戻って来たのである。
「あなた、そんなにも慌てて、いったいどう…」
「アリアさんっ、あの人何なんですかっ? 私が勇者だって名乗ったら、いきなり剣を構えて決闘だ…って言ってきて!」
「あー……」
アリアは思い出した。
リッカが戦いたい相手の中には、魔王だけではなく勇者も含まれていたということを。
「あんな大きな剣を片手で軽々振り回して、決闘だー、決闘だー…って、こっちの話には全く耳を傾けてくれないし、怖すぎます、あの人」
アリアには、ユヅキの今の気持ちが痛いほどよくわかった。
なぜなら自分も同じ状況の経験者だから。
ただアリアには、一つ腑に落ちない点があった。
自分は魔力0な偽りの魔女でしかないが、ユヅキは勇者の力を持つ正真正銘の勇者であるということ。
「でもあなたも勇者なのだから、十分に強いのでしょう。それならそこまで怯えずとも…」
「いえ、私は弱いです」
「え?」
「召喚された際に私たちが得た勇者の力というのは、レベルアップの力。魔物を倒すことでレベルが上がっていって、それでステータスが上昇したり、色々なスキルが覚えられたりっていう能力です」
「……?」
この世界の人間にはレベルとかステータスとかいう概念はないので、アリアにはユヅキの言っていることの意味がいまいちよくわからない。
「つまりですね、魔物をたくさん倒すことで身体能力や魔力が上昇したり、新しい魔法や剣技とかを覚えられたり…みたいな感じです」
「なるほど…。それで今のあなたはどのくらいなのかしら?」
「私はまだスライム五体しか倒していないので、レベルは2です。全然強くなってません」
レベル2勇者の強さは、元々の身体能力が微妙に強化された程度。
元々の身体能力が大したことないユヅキの場合、はっきり言って一般人とほとんど変わりないのである。
そんなユヅキの力では、魔王どころかスライム以外の魔物に挑むことすら無謀に等しい。
だからこそユヅキは、自身のレベルを上げるために強い仲間を求めていたのだが、どうやらユヅキと同じ考えの者がもう一人いたようである。
「おー、お前が伝説の大魔女ってやつか? なんか思ったよりガキっぽいな。まあ、顔は悪くねえが」
そう言いながらこの場に現れたのは、そこそこガタイのいい体で目つきの悪い、ド派手な髪色の男。
「ジョー…さん。どうしてここに?」
「どうしてって、使えそうな魔女とやらがいるからに決まってんだろ。つーかお前も来てたのかよ、クソ真面目女」
ユヅキと面識のあるガラの悪い男。
そう、このジョーという男こそが、例の危険な勇者なのである。
「おー、なんだぁ、ずいぶんとにらみつけてくるじゃねえか、クソ真面目女。今からオレ様とやろうってのか、ああん?」
「っ……」
「まあ、無理だろうなぁ、てめえごときじゃ。どんなに粋がったところでザコはザコ。今からでも、ジョー様のメス奴隷にしてくださいぃ…って頭下げりゃあ、オレ様にケンカ売ったことは許してやってもかまわねえぜ。あひゃひゃひゃひゃっ!」
ユヅキを思いっきり見下しながらあざけ笑うこの男を見て、アリアは思った。
確かにこれは、力を持たせていい人間ではない…と。
「さて、魔女さんよお」
「何かしら?」
「オレ様は五人の勇者の中で最も強い男。いずれ魔王をぶっ殺してこの世界を物にする偉大な存在だ。当然お前は、このオレ様に力を貸すよなぁ?」
自分が何よりも強いと信じてやまないジョーは、自信満々な態度でアリアにそう言い放った。
だがそんなジョーを見てアリアは思った。
この人、確かにそこそこ体格はよくて乱暴者そうだけど、突然変異種のサイクロプスやリッカと比べると、なんか強さは微妙な感じがする…と。
「あなた、本当にそんなに強いのかしら?」
「はあ?」
「わたくし、思うのだけれど、見下している相手に怒鳴り散らしているだけのあなたよりも、一国の王に面と向かって抗議できるおばさんのほうがはるかに強い気がしますわ」
確かにおばさん勇者の胆力は侮れない。
「おいおいおい、正気で言ってんのか? あんなうるせえだけなババァのどこが強いってんだよ。びびりまくってるもやし野郎も、よぼよぼジジイも、そしてスライム倒すのがやっとのそこの女も、全部全部ただのクソザコ勇者だ! ゴブリンを軽々ぶった斬れる、このオレ様の敵じゃねえ!」
ジョーは勇者の力を手にしてしまったことで、盛大にイキりまくっている。
だがゴブリンを倒した程度でイキりまくっているジョーの発言で、アリアは確信した。
やっぱりこの人、そんなに大したことなかった…と。
そこでアリアは、ある提案をジョーに告げる。
「わたくしの力を借りたいのでしたら、こういうのはいかがでしょう」
「何だ?」
「決闘をしてあなたが勝てば、何でもあなたの言うことを聞いて差し上げますわ。けれどあなたが負けたときは、二度とわたくしの前に姿を現さないでください」
「ほう、このオレ様に決闘を申し込むとはいい度胸じゃねえか。その話のった!」
そして決闘を承諾したジョーは、すぐさま剣を構えてアリアに向けた。
「最強であるこのオレ様に挑んだこと、今逆ら後悔してももう遅いぞ。ふははははははっ!」
「あ…アリアさんっ、大丈夫なんですか?」
もう完全に勝った気でいるジョーと、そんなジョーに少し怯えている様子のユヅキ。
だが怯えるユヅキに対して、アリアは落ち着いた様子で告げる。
「問題ありませんわ。決闘であの人が勝てば…とは言いましたけど、わたくしが相手をするとは一言も言ってませんもの」
「えっ? それってどういう……」
「ほら、やってきましたわ。ちょうどいい決闘のお相手が」
「おーい、ユヅキーっ、決闘しよーっ!」
「あわわわわわっ! あ…あの人はっ!」
決闘好きな剣聖、襲来。
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