第9話 勇者パーティーに勧誘されて困ってます(その2)

 ユヅキの口から聞かされた、魔王よりも危険かもしれない存在とは、勇者のことであった。

 だがアリアの目には、どう見ても目の前にいる人物が危険な存在には見えない。


「あなたの、いったいどこが危険なのかしら?」

「あ…いえ、危険なのは私じゃなくって、他の勇者です」

「勇者って、あなた一人ではないんですの?」

「はい。勇者召喚の儀式で五人召喚されたので、私の他にあと四人います」


 勇者は思ったよりたくさんいた模様。


「それで、その四人のうちの誰かが危険な存在ということ?」

「はい。あの人はとても横柄な感じで、力にものすごく酔ってて、もしあの人が勇者として力をつけて魔王を倒してしまったら…」

「勇者としての強力な力だけではなく、魔王を倒した英雄としての権力まで得てしまう…といったところかしら」

「そうです、その通りです! だからあの人よりも先に、私が魔王を倒さなくちゃいけないんです!」


 ユヅキはその横柄な勇者に先を越されてはならないと、かなり焦っている様子。

 だがアリアはそんなユヅキを見て、一つ疑問に思った。


「それ、あなた一人が背負う必要あるのかしら? 勇者はあと他に三人いるのだから、四人で手を組んでその一人をなんとかすればいいだけなのでは?」


 そう、四人とも同じく勇者の力を持つ者なら、四対一で危険な一人を押さえつければ、どうとでもなるはず。

 だがしかし…


「それは無理なんです」

「どうしてですの?」

「えっと、他の三人は、絶対に戦いなんてやりたくないって人と、早く元の世界に帰しなさいって王様に抗議し続けてるおばさんと、どう見ても戦いなんて無理そうなかなり高齢のおじいさんなので……」


 勇者召喚の儀によって選ばれる召喚対象は、勇者の力の受け皿に適した存在が選ばれるのであって、それ以外の性格とか年齢とか肉体的強さなどは一切考慮されないのである。


「だからもう、私がなんとかするしかないんです」

「あなた、苦労しそうな性格ね」


 こうして生真面目な性格の勇者ユヅキは、自分と同じ世界から来た人間がこの国を恐怖で支配してしまわないよう、重い宿命を自ら背負い込んでしまったのである。


「だからどうかお願いします、アリアさん! 私に力をっ…」

「いくら頼まれても無理なものは無理ですわ。冒険に適さないあなたとわたくしで組んだところで、ただ野垂れ死ぬのが落ちですわ」

「そんなぁっ……」


 結局アリアに断られてしまって、もうこの世が終わってしまったかのように絶望するユヅキであったが、そんなユヅキにアリアはあることを告げた。


「わたくしが旅に同行するのは無理ですけど、都合のいい人物になら、一人心当たりがありますわ」

「ほ…本当ですか?アリアさん!」

「ええ」


 そしてアリアはその人物のことをユヅキに教えた。


「まさかここの町に、剣聖なんていうすごい人も来てただなんて…」

「山にこもって魔物相手に修行してたような人ですから、危険な旅に連れていくにはうってつけ。彼女自身も魔王と戦いたいと言っていたことですし、断られることはないんじゃないかしら」

「教えてくれてありがとうございます、アリアさん。これで少しは、魔王討伐の旅に希望が見えてきた気がします」


 こうして勇者ユヅキは、剣聖リッカを仲間にするため町へと向かっていった。

 そしてそんなユヅキの後ろ姿の眺めながらアリアは…


「うん、丸く収まってよかったー」


 そうほっと一息ついていたのだが、このときのアリアはあることを失念していたのである。

 リッカが戦いたい相手は、魔王だけではなかったということを……。

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