第7話 称えられすぎて困ってます(後編)

 そしてアリアが町長に連れられてやってきたのは、この町の中央にある大きな広場。

 アリアがこの町にやってくるときは、基本的に商店街を回るだけなので、この中央広場の付近にやってくることはあまりない。


 だがそんなアリアにも、今日のこの広場の様子が普段と違うことは一目でわかった。

 なぜなら今この場には、かなり多くの町の人たちが集まってきているからである。


「おお、あれが魔女様か」

「この前見たときはもっと魔女らしい格好できりっとした目つきだったような気がするんだが、今日はずいぶんとかわいらしい格好だな」

「魔女様、今日うちの店にも来てくれたけど、とても笑顔の素敵な愛らしいお嬢さんだったわよ」

「いやいや、魔女様は何物も恐れないクールな人で、そんなにこにこ微笑むような人では…」

「でもあの格好からは、クールな感じなんて想像がつかないわ」

「確かに」

「でも今の表情は結構クールな感じだと思うんだが…」

「言われてみれば……」


 今のアリアの心境は、顔から火が出るほど恥ずかしい、早くこの場から立ち去りたい…である。

 アリアはこの場に来てしまったことをひどく後悔している。


 そこでアリアは、一刻も早く用事を済ませてここから離れるために、なぜ自分がここに連れてこられたのかを町長に訪ねるのであった。


「町長さん、どうしてわたくしをこの場に?」

「それはですね、魔女様、ぜひとも魔女様にご覧になっていただきたいものがあるからです」


 そう言いながら町長が手を向けた先には、大きな布をかぶせられた巨大な何かが存在していた。

 そして、その何かの近くにいた者が大きな布を取り払うと、その下から姿を現したのは、アリアの姿をかたどった巨大な石造であった。


「どうですか?魔女様。伝説の大魔女アリア様を称えるために、一流の彫刻家を呼んで作らせたこの像の出来は」

「……………」


 アリアは言葉も出ない。

 言葉も出ないほど恥ずかしいので、一刻も早く壊してもらいたい…と思ってはいるものの、一流の彫刻家に作らせるために町の税金をかなりの額つぎ込んでいると思われるため、壊して…などとは非常に言いづらい。


 こうしてアリアが何も言えないまま黙っていると、困っているアリアに追い打ちをかけるようなことを町長は口にした。


「えー、それでは本日より、この町は伝説の大魔女アリア様を称える町として、町の名前をアリアタウンと改めます!」

「おおぉぉぉぉっ!」

「わぁぁぁぁっ!」

「アリア様ぁぁぁっ!」


 この大発表に湧き上がる歓声。

 しかし当の本人であるアリアとしては、こんな恥ずかしいことは何としてもやめてもらいたい。

 そこでアリアは町長に告げた。


「町長さん、いくらなんでも、町の名前まで変えるのはやりすぎですわ。この町の名前に愛着を持っている方だって、少なからずいらっしゃるでしょうに」


 だがそう告げたアリアに町長は訪ねた。


「では魔女様、魔女様はこの町の名前をご存じですか?」

「……………」


 アリアは何も答えられない。

 実はこの町の元の名前は、これといって特徴があるわけでもないのに微妙に長くて覚えづらい名前なため、町の住民ですら正しい町の名前を覚えていな者のほうが多かったくらいなのである。


「魔女様も覚えていらっしゃらないでしょう」

「うっ……」

「そう、この町は誰にも名前を覚えてもらえないような町だったので、今更名前を変えたところで誰からも文句は出ません。というわけで今日からこの町は、アリアタウンという新しい町に生まれ変わります!」

「うおぉぉぉぉぉっ!」

「きゃあぁぁぁぁっ!」

「わぁぁぁぁぁっ!」


 伝説の大魔女を称える新たな町の誕生に、湧き上がる大歓声。

 もはやアリアにはこの名前の変更を止めるすべは存在しなかった。


「あっ、でもどうせなら、グレートウィッチアリアタウンとか、レジェンドウィッチアリアタウンのほうがよかったですかね?魔女様」

「無駄に長くて覚えづらくなる名前はやめるべきではないかしら」

「あっ、はい……」


 さすがにそれは全力で止めた。

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