第4話 決闘を挑まれて困ってます(中編)
「なあ、アリア、決闘は? 決闘、決闘、決闘……」
「……………」
あれから半日たっても、一向にリッカはあきらめて帰る気配がない。
そしてそれは、次第にアリアの精神をすり減らしていくこととなるのであった。
アリアは薬の品質を疑われないために、人前では出来る魔女を演じている。
それはつまりリッカがここにいる間は、一切素に戻ることが出来ないということである。
今はまだ半日程度だから、すました顔で出来る魔女を演じていられる。
しかしこのままリッカがいつまでたっても帰らなければ、いずれアリアの精神がこの状況に耐えられなくなることは必至。
これは、リッカがあきらめるのが先か、アリアの精神が限界に達するのが先か、そういう勝負なのである。
……が、わりと早くに限界は訪れたようである。
「うぅっ、お腹すいたー」
リッカの腹が、ぐうぅぅぅっ…と、大きな音を鳴り響かせる。
そう、限界が来たのはアリアの精神ではなく、リッカの空腹であった。
そしてそんなリッカの姿を見て、アリアはある行動に出た。
「えっ、もしかして何か作ってくれるの?」
アリアは料理を始めたのである。
「何かなー? 何ができるのかなー?」
「……………」
リッカはどんな料理が出来上がるのかとにこにこ顔で待つ一方で、アリアは無言のままっ淡々と料理を進めていく。
だがその料理の腕は見事としか言いようがない。
アリアは普段、難しい魔女の秘薬作りを、魔法を使わず手作業のみで行っている。
そんなアリアからすれば、普通の料理など簡単なもの。
ゆえにアリアの料理の腕は、プロの料理人と比べても全く遜色のないものなのである。
そしてそんなプロ顔負けのアリアが作り上げた料理を見て、リッカは顔色を変えた。
「そ…それはっ、幻の異界料理、カレー!」
カレーはかつて、異世界からやって来た人間がこの世界に伝えたとされる料理のうちの一つである。
料理としてはさほど難しいものではないが、この世界ではカレーに必要なスパイスがあまり流通していないため、カレーを作る料理人も数えるほどしか存在しない。
「それ、一度食べてみたかったんだよなー」
リッカは意気揚々とテーブルに着き、カレーが自分の前に運ばれてくるのを今か今かと待ち構えている。
だがしかし、アリアがこのカレーを置いたのは、テーブルの…リッカがいる位置とは反対の場所。
そしてアリアはそこに椅子を用意して座り、自らそのカレーを食べ始めたのである。
「ちょ…ちょちょちょっ…ちょっとぉっ! それ、あたしのために作ってくれたんじゃないのっ?」
「なぜわたくしが、あなたのために料理を作らなければなりませんの? これは、わたくしが自分でいただくために用意したものですわ」
アリアはリッカの目の前で、優雅に…そしてとてもおいしそうにカレーをほおばっていく。
そんなアリアの姿を目にしたリッカは、より一層食欲を刺激され、大きな腹の音を鳴らす。
「うっ…うぅぅっ…」
「金輪際わたくしに決闘を挑まないと誓ってくれるのでしたら、あなたの分を作ってあげてもかまいませんわよ」
「ぐっ…。魔女アリア、なんて恐ろしい手を…。だが、あたしは負けない!」
リッカは必死に空腹に耐える…が、そんなリッカの鼻にカレーの香りが漂ってくる。
「うわぁぁぁっ! なんておいしそうなにおいを放つんだ、この料理は! や…やめろぉぉぉっ!」
「ふふふっ…。決闘なんてあきらめれば、楽になれますわよ」
「そんな誘惑に、誰がっ……」
これは、アリアの精神が限界に達するのが先か、それともリッカが空腹に耐えられなくなるのが先か、そういう戦いなのである。
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