第6話 帝国を甘く見ていたようだ
翌朝。
窓から差し込む光が眩しくて目が覚める。
寝床から起きると、メルティ少尉は、爆音のいびきをかきながらまだ寝ていた。
アルブラン軍曹の方は、……………もう起きているみたいだ。
シーツはきちんと畳まれており制服もすぐ着替えられるように準備されていた。
私も用意されていた桶で顔を洗い、寝間着から着替えた。
メルティ少尉を起こした方が良いのか迷ったが、気持ちよく寝ているのでそのままにしてあげることにした。
部屋を出ると、階下から芳ばしい良い匂いが漂ってきた。
「おはよう!! レイアくん」
「お、おはようございます。アルブラン軍曹」
アルブラン軍曹は、朝テンションが変わる人なのだろうか?
野宿していたときはそんなことなかったのに。
「見るからに困惑している顔だね……。はっはぁ。 無理もないさ。さぁ見たまえ!! この食事を!! 」
6人が座れる大きなテーブルには、豪勢な食事が用意されていた。
「これだけの食事は、宮廷以来だよ。……………おっと、さっき言ったことは忘れてくれ」
「え、ええ。軍曹の言う通りにしますね」
「ぜひ、そうしてくれ。……さて、メルティを起こしに行くとするか。レイアくんは座って待っていてくれ」
アルブラン軍曹は、駆け足で階段を上っていき勢いよく寝室のドアを開けた。
その後何かが落ちる大きな音がしたあと、首を押さえながらメルティ少尉が下りてきた。
「おはようございます、メルティ少尉」
「…………レイアか、おはよう……」
目をこすってあくびをするメルティ少尉。
まだまだ眠そうであった。
用意された食事を食べ終わる頃、今後について話し合うことになったのだが。
「ツヴァロッキはこの村にいると思うか? 」
「んー、どうでしょうね。もう村から出ているかもしれません」
「その時はどうするんですか? 」
「この村で情報を得て動くしかないでしょうね」
………………外が騒がしくなっている。
「朝っぱらから賑やかだな」
「いや、これは違う。オルセット伍長、一緒に見に行ってみよう」
アルブラン軍曹と共に宿屋の外に出てみると、深緑の軍服を着てサーベルやマスケット銃を持っている兵士たちが、村人を脅していた。
「宿屋に戻るんだ。……どうしてやつらが」
アルブラン軍曹が私の肩を掴んで、宿屋の中に押し込んだ。
そして、ドアを勢いよく閉め、武器を持つよう指示をする。
「何事だぁ? レイア、なにかあったのか? 」
「私には全く……」
「メルティ、帝国兵だ」
慌てふためきながらそう言ったアルブラン軍曹は、駆け足で階段を上っていく。
帝国兵という言葉を聞いて、メルティ少尉は窓の外を見た。
「ああ。たしかに帝国のやつらだ。………………何をボサっとしてるんだ!! レイア、すぐに上へ行って武器を持ってこい。俺のとお前のもだ」
殺気に溢れたメルティ少尉の声に身震いしたが、相手は帝国兵である。弱っている暇は無い。
私もアルブラン軍曹に続くように駆け足で上階で上っていく。
寝室に入ると、アルブラン軍曹が制服に着替えているところだった。
「メルティ少尉の持ち物は、彼のベッドの近くにあるはずだ」
メルティ少尉のベッドに近寄り、周りを探してみる。
カバンの中には着替えやカミソリが入っているが、探しているのはこれじゃない。
…………あった!!
ベッドの下、雑に置かれたサーベルを見つけた。
そのサーベルを手に持ってメルティ少尉のもとに戻った。
「少尉、これを」
「ああこれだ。でお前のは無いのか? 」
メルティ少尉の武器を探すことに夢中になってしまっていたが、大事かつ自分の命に関わることを忘れていた。
「あっ!!!! 自分の武器………」
寝室に忘れてきたのではない。
武器そのものを持っていないのだ。
戦場記録係は滅多に戦場に赴かないし、この連隊に配属されたのは王国が滅亡する寸前であったから、武器を支給してくれる時間はなかった。
それに帝国兵と出会うことが今の今まで無かったのだから、武器の重要性というものを忘れていた。
「武器は………無いです」
「無いだって? そんな軍人聞いたことがないぞ」
そう言ったメルティ少尉が、仕方なさそうにあるものを渡してきた。
「親父から初めてもらったものだ。無くすんじゃないぞ」
それは龍と盾の紋章が刻まれた短剣であった。
そこへアルブラン軍曹が、マスケット銃を片手に持って下りてきた。
「我々を追ってきたのか、それとも商人のほうをたどってきたのかわからないですが、帝国を甘く見ていたようです」
弾の装填を終えたアルブラン軍曹が外を見ながら、
「オルセット伍長、準備はいいですか? 」
と言ってきた。
この質問に返事をすれば、私は初めての戦いに参加するに違いない。
感情は恐怖と不安でいっぱいだ。
戦場記録係という役職を理由に、実戦の経験がない私である。
この気持ちに襲われるのは無理もない。
だが、メルティ少尉から渡された短剣、それに一緒に戦ってくれる仲間がいる。
私は、これは運命なのだと確信した。
「…………………軍曹、私は大丈夫です」
メルティ少尉がドアノブに手をかける。
それを見た私は、短剣の柄を強く握りしめた。
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