第4話 任務を任されました
「早速なんだが、ヤクブ村と言うところに行って欲しい」
「サンセット連隊長、ヤクブ村というところに何用で?」
「急ぎの用だ。そう、急務。とはいえその足じゃすぐには出発できないだろうね」
「急務ですか…… 内容は?」
「んー、そうだな。2日後、詳細を伝えよう。それまで休んでいてくれ」
そう言って、サンセット連隊長はテントから去っていった。
筋肉痛でなかなか寝付けない1日目の夜を過ごし、野営地やナザリーの街をブラブラして、サンセット連隊長が訪れた日から2日後が経った。
さすがにサンセット連隊長自ら私がいるテントに来ることはなかった。
その代わり、臨時作戦テントに出頭するよう伝言メモが置いてあった。
臨時作戦テントの周りは、たくさんの人が行き交ったのだろう。地面は踏み荒らされ足跡が絡まった糸玉のようについていた。
入口には、マスケット銃を肩にかけた2人の軍人が守衛として立っている。
「やあ、どうも。レイア・オルセット伍長だ。伝言を受け取ったんだが、何か聞いているかな? 」
「オルセット伍長ですね、どうぞ中へ。連隊長殿がお待ちです」
「これは親切にありがとう」
2人の軍人は、私をテントに通した。
テントの中は、大きなテーブルがふたつ、奥には机が置いてある。また、椅子が乱雑にいくつも置かれていた。
サンセット連隊長は、奥の机のところに座っており、地図や手紙を見ていた。
「おっ! 来たね。好きに椅子を取って座ってくれ
……フォレスト!! 2人を呼んできてくれ」
近くにあった椅子を連隊長のいる机まで持っていき座った。
沈黙の時間…………………。
「あー、サンセット連隊長? 」
「しばらく待っていてくれ。呼び出した者が来たら話を始めよう」
10分ぐらい待っただろうか。
「サンセット連隊長、おふたりを呼んでまいりました」
テントの入口から声が聞こえた。
入口にいた守衛の声である。
「ご苦労さま、フォレスト」
私は入口の方を振り返って見ていた。
フォレストと呼ばれていた守衛が、連隊長に向けて敬礼をするとテントから出て行く。
そして、2人の軍人が入ってきた。
「ハロルド・メルティ少尉、スピース・アルブラン軍曹、出頭いたしました」
1人は軍服がはち切れそうにパンパンになっている。
厳つい顔つきと角張った顎。腕まくりされたシャツから見える腕には、山脈のように血管が浮かび上がっていた。
そして、何より整えられたブロンドの口髭が、際立って目立っていた。
もう1人はひょろりとしているが、しっかりとした体幹の持ち主であることが歩き方から見て取れた。
顔は美形と言えよう。彼の目は透き通りかつ鋭さがあった。
「君たちも好きに椅子を持ってきて、座ってくれ」
サマセット連隊長が、立ちながらこう言った。
そして、光の射すテントの入口の方へ歩いていき、垂れ幕を下ろした。
テントの中は、天井からのかすかな陽の光のみに照らされ薄暗くなった。
「……さて、君たち3人には……前にも言ったが、ヤクブ村に行ってもらう」
「テルマの旦那や。そこに何しに行かなきゃならんのだね? 」
ブロンド口髭の筋肉男が、サンセット連隊長に質問した。
「メルティ少尉、まずはこちらのレイア・オルセット伍長に自己紹介をしてはどうかな? 」
そう言われたブロンド口髭筋肉男は、口髭を2回ひねりながら私の方に近づいてきた。
座りながら椅子を移動させる彼。
ある程度寄ると、私たちから少し距離を置いた美形の軍人にも声をかける。
「お前も自己紹介するんだぞ、スピース」
「えぇ、分かっていますよ」
美形の軍人が、足音立てない歩きで私たちの方に寄ってきて、
「私から自己紹介しましょう。スピース・アルブラン。階級は軍曹です。
初めまして、オルセット伍長」
見た目通りの品のある口調であった。
どこかの名家育ちだろうか。
「さぁ、次はメルティ少尉ですよ」
「おぅ!! 俺はハロルド・メルティだ。階級は少尉。よろしくなレイアくんよ」
ブロンド口髭筋肉男は、ハロルド・メルティと言うのか。
そして、細めの美形の軍人さんはスピース・アルブランと言っていたな。
2人の名前と階級を覚えた私は、自己紹介を始める。
「自己紹介をありがとう。メルティ少尉とアルブラン軍曹。
私はレイア・オルセット。階級は伍長で、この連隊には戦場記録係として配属されました。こちらこそよろしくお願いします」
パチパチパチ…………
サンセット連隊長が私の紹介を終えると拍手をした。
3人が自己紹介をしている間、サンセット連隊長はテント入口から元いた奥の机に戻り、椅子に座っていた。
「よし!! みなの自己紹介が終わったところで本題に入ろう」
連隊長は机の上に置いてあった紙を私たちに手渡した。
そこには反乱軍支援者リスト書かれていた。
「その紙は我ら第70サマーランド歩兵連隊を支援してくれる支援者リストだ」
「待ってくれ。俺たちは反乱軍になったのか」
「帝国から見れば、帝国領で悪さをする反乱分子だと、私たちのことを判断するだろう。それに忠誠を誓っていた王国が滅んだ今だからね。
今後の活動を見据えて反乱軍としてが一番いいと思ったまでさ。
ハリア王国領を取り戻すための反乱軍。
いいと思わないかい? メルティ少尉」
「帝国と戦えるのなら、なんだっていいさ」
「……うんうん。では、本題に戻ってと。
支援者リストは、王室や軍部と関係があった貴族や街の代表、商人の名前だ。だが、王国が滅亡してから彼らの命が危険に晒されている。
寝返った人も居るだろうが、なにせ私たちには後ろ盾が居ない。
だから、支援者を1人でも多く保護したいと考えている」
「その人たちとヤクブ村とどんな関係が? 」
足を組み優雅に座るアルブラン軍曹が、連隊長に質問する。
「ヤクブ村には、支援者の1人が居ることが確認できた。リストの上から17番目の彼だ」
私はリストの上から17番目を見てみた。
「ハリード・ツヴァロッキ 商人」
リフトにはこう書かれていた。
「このハリード・つヴぁ、、ろ?っき?って奴を保護すればいいんだな」
「ああそうだ。彼はフブロワ王朝とのコネがある。そのコネを私たちに活かしてくれないか交渉して欲しい。そのためにはまず彼を保護しなければ」
「帝国はハリア王国の残存勢力や有力者を排除しているみたいですからね」
「その通りだ。君たちはすぐにヤクブ村へと向い、ハリード・ツヴァロッキを保護してくれ」
メルティ少尉がリストをじっと見つめ、「こいつ、知ってるぜ!!」などと言っている。
その中、私はひとつの疑問が浮かんだ。
なぜ、私はこの任務を任されたのだ? と。
思い切ってサンセット連隊長に、この疑問をぶつけてみた。
「連隊長、どうして私が選ばれたのですか? このおふたりでも十分だと思うのですが…… 」
「伍長が適任かと聞かれるとと断言出来ないし、確かにメルティ少尉とアルブラン軍曹で十分かもしれない。
だけどね、私は君に色んな経験を積んで欲しいんだ。
軍人として、この連隊の戦場記録として」
「経験ですか…… 」
「戦場は決してひとつの場所でたくさんの兵士が戦っているところを意味するのでない。裏でいろんな人が、さまざまな場所で私たちと一緒に戦ってくれているんだ。
本当の戦場を経験して、君に記録して欲しい」
「たとえ、どんな運命になろうとも記録があれば、私達がやってきたことは残り続けるからね」
仲間意識が薄かった王都の記録局から配属された私を、どうにかして変えようというのが、彼の考えだろうか。
だが、なにか別のものを感じた。
回想というか、彼の悲しみを。
最後の一言、どんな運命になろうとも。
これに連隊長の帝国に対する憎しみと復讐が果たせなかったとしても、記録を見た次の世代が彼の望みを実現して欲しいという、彼なりの保険なのだろう。
自分勝手な解釈だが、サンセット連隊長の思いに賛同しようと思った。
「…………ヤクブ村に…行きたいと思います」
私は落ち着いた口調で、真剣な眼差しで彼の方を見ながらこう言った。
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