第1話 武器を持って戦うのが常識ってことはない
光が差す森の中。
雨上がりのぬかるんだ道を歩いている。
私は振り回されてばかりいる今の状況にうんざりしていた。
第70サマーランド歩兵連隊に配属されて、王国の主力軍と合流しろって聞かされたあとには、戦場から退却しろともう無茶苦茶である。
私の連隊長殿が言うには王都に向かおうにも、帝国軍が居て迂回する必要があると。
ならば、迂回して王都に参上しようと連隊長と側近たちが話している時に、王都が陥落したと。
戦場に赴けなかった悔しさから怒りを露わにする連隊員。
そして追い討ちをかけるように、祖国ハリア王国が滅亡したと。
またまた、怒り狂う連隊員たち。
「帝国め。仇を打ってやる!!」
と怒号が隊列の前の方から聞こえてきた。
だが、私は戦闘が本職ではない。
まあ、戦いが起こってくれないと仕事が出来ないのだが、直接戦場で武器を持って戦う兵士ではない。
そう、私は戦場記録係!!
王国軍の基礎訓練を合格出来ず書かされた反省文が認められ、これに任命された。
お払い箱扱いの部署とも言えるところだ。
この連隊に配属される前は、王都の記録局という駐屯地の一角にある小さな部屋で、戦場から帰還した兵士を中心に話を聞き、記録していく仕事をしていた。
一般兵士はもちろん、士官や負傷兵などなど戦場について多角的に記すために、階級関係なく話を聞いていた。
すると、面白いことに士官は自分の活躍を自慢し負傷兵は、より感情的に語ってくれる。
一般兵士は……
控えめで物静か。
だが、その目は謙虚というよりは虚無感に近い。
記録局の私の部屋に訪れてくれた者全員が、何かしらの重い影を持っているのだった。
祖国失いし第70サマーランド歩兵連隊の連隊員たちも、同じであった。
「レイア、またメモっているのか」
嘲笑含めた言い方が癪に障る。
私の仕事を下に見ている発言はよく聞く。
軍人たるものマスケット銃を持って戦うのが正義かのように。
そう言う奴に言い返してやりたい。
君達のお偉いさんは前線に立って戦っているか?
君の友人を治療してくれた軍医は、武器を持って人を殺しているか?ってさ。
お偉いさんは頭を使い、軍医は技術を使って命を救う。
これは武器を持って戦っている軍人としている事は違えど、戦場で戦っているのに違いはない。
なんて強気なことを言っているが、私は自室にこもりっきりだ。(今はどこもかしこも戦場と化している)
だから、他の兵種様を利用して私の仕事を見下す奴に言い返す……予定だ。
亡国の主力となる兵士よ。
私もペンを持って、日々辞書とたくさんの情報と戦っていることをお忘れなく!!!!
よし、心情を語り終えたところで、まもなく第70サマーランド歩兵連隊は、森を抜けて逃亡先である街ナザリーに到着する。
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