Hint.4 _やり方 / How to _


たとえばあなたがスーパープレイに憧れて、実際にそれを成し遂げるやり方を知りたいと考える。

それはオーバーヘッドキックだったり、アルバトロスだったり、スプリットメイクだったりするだろう。

インターネットに無尽蔵に情報が溢れる現代であれば、検索エンジンに必要な単語を打ち込むだけで、すぐに目的の情報に辿り着くことが可能である。


「オーバーヘッドキック_やり方」という具合にだ。


しかし、この検索という行為にも「スポーツのヒント」が隠されている。

これが「オーバーヘッドキック」であれば、「やり方」と検索することで目的の情報に辿り着けるだろう。

ではこれが「振り込め詐欺」であればどうか?

試しにお手持ちのスマートフォン、もしくはパソコンの検索エンジンに打ち込んでみてほしい。


「振り込め詐欺_やり方」


どうだろうか。

「振り込め詐欺」を実行するためにはどのような下準備が必要で、どういった人間を標的にすべきか、そしてどうすれば詐欺は確実に成功するのか、その情報は手に入るだろうか。

恐らく検索のトップに出てくるのは、詐欺経験者による解説ブログや、詐欺グループ御用達の攻略サイトなどではなく、警察庁による「手口一覧とその対策」のページなのではなかろうか。

このように、インターネットで「_やり方」と検索すれば、やり方が何でもわかりそうなものの、実際は「_やり方」をもってしても得られない情報があるのだ。


たとえば仕事で、部下の能力をもっと引き上げたい。

そのためには、部下をもっと過酷な環境において、彼らの対応力や実行力を伸ばしてやりたい。

そのために、上司としてあえて苦難を準備することも必要だとあなたは思い立つ。

ある日、あなたは皆を集めて次のプロジェクトに関する会議を開いた。

会議はつつがなく進み、部下たちも今後の施策について理解を示しているようだ。

次の段階へ進むため、各人にタスクを振り分け、皆が自身の役割を理解したところで、会議はお開きになる。

ここで、あなたは部下たちをかき乱したいと考える。

しかし、これまで大きなトラブルもなく仕事をしてきたので、場を混乱させる手段が思い付かない。

まずい。このままでは部下が育たない。経験値が稼げない。

縋るような思いでインターネットにアクセスし、あなたは検索エンジンに打ち込む。



「二転三転_やり方」



出てこない。

状況を二転三転させて、部下たちがどのように対応するか見届けたいというのに、「二転三転_やり方」で二転三転のやり方がわからなければ、このプロジェクトは順調に進んでしまう。

せっかく二転三転させるチャンスだというのに、「_やり方」でやり方にアクセスできないせいで、日本の国力は下がってしまうだろう。


たとえば、あなたの家に初めて恋人がやって来るとする。

この日が来るのを待ち侘びていたあなたは、普段は汚くしている居間を片付け、洗面所を掃除し、玄関前もぴかぴかにしておいた。

逸る気持ちを抑えつつ、部屋の中を意味もなくうろうろしていると、あなたは大変なことに気が付いてしまう。

ちょうど恋人が来るこの時間に、宅配物の再配達を依頼してしまっていたのだ。

このままでは恋人と宅配業者がバッティングしてしまう。せっかくのお家デートなのに、そんな初めてはいやだ。

焦るあなた。インターネットを立ち上げ、検索エンジンに打ち込む。



「引っ越し_当日_やり方」



出てこない。

引っ越し当日にやるべきことばかりがヒットして、当日に引っ越しをするやり方はまったく見つからない。

今すぐ引っ越すことで恋人と宅配業者から逃れようとしたのに、「引っ越し_当日_やり方」でやり方に辿り着けなかったせいで、恋人と宅配業者が同時にインターホンを押してしまい、その指が偶然重なったことをきっかけに、二人はお互いを意識するようになって、やがて恋仲になり、結婚するまでに至ってしまうのだった。

「引っ越し_当日_やり方」でやり方がわかりさえすれば、こんなことにはならなかったというのに。


たとえば、あなたが裁判員制度によって裁判員に選出されたとする。

こんな機会は滅多にないし、自分の知見や常識が少しでも日本の司法の一助になればと崇高な思いをもってその仕事を全うしようと考えたが、一方でそんな自分に自信を持てないでもいる。

そこであなたは自分の決意を固めるために、検索エンジンにキーワードを打ち込み、自分を鼓舞しようと考えた。



「裁判員_全うし方」



出てこない。

全うしたいというのに、「_全うし方」で検索しても何ら全うし方は見つからない。

全うし方を知るために「_全うし方」で検索したが、全うし方がわからなかったため、あなたは裁判員を全うする自信を失うだろう。

しかし、裁判員自体を志したいという気持ちに変わりはない。

何とか志を前向きにしたいあなたは、ふたたび検索エンジンにワードを打ち込む。



「志_志し方」



出てこない。

志の志し方を知りたいのに、「志_志し方」では志し方がわからない。

そうか、検索ワードに問題があるのか。あなたは打ち込み直す。



「志_全うし方」



出てこない。

志の全うし方が、「志_全うし方」で検索できないなんてどうなっているんだ。志を全うしたいという気持ちを、そのまま打ち込んでいるというのに。

全うしたい。志したい。やり方を知りたい。



「全うし方_志し方_やり方_知り方」



あなたはそんな間違った検索を続けてしまい、何のやり方も、知り方も、わかり方のないままに、インターネットの黒く深い渦へと、吞み込まれていく。



このように、シミュレーションをすれば瞭然だが、「やり方」を知るためには、多方面からの「やり方の知り方」が必要になるのである。

不確かな情報も漂うネットで検索するだけではなく、その道の先駆者に直接指導を伺うとか、図書や論文に記述を求めるとか、信頼のおける仲間たちと知恵を出し合うとか、「やり方の知り方」は実に多様に存在しており、これこそが今回の「スポーツのヒント」である。

すなわち、まとめるとこういうことになる。



「やり方」に辿り着くためには、多様な「やり方の知り方」を知っておくべきだ。

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スポーツのヒント / Sports's HINT chief @captainchief64

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