第2話

畳のいやな匂いがする部屋でお母さんが僕に聞いた。

「恵はお父さんのこと好き?」

と僕はお母さんが何を言っているのかよく分からなかった。だってお父さんもお母さんも大好きだからだ。だから僕は

「めぐみおとーさんだいすき!」

と答えた。それを聞いてお母さんはどこか悲しそうな目をした。僕は不思議に思って

「どうしてそんなおかおしてるの?だいじょう ぶ?」

と聞いた。するとお母さんは

「ううん、なんでもない。めぐみは気にしなくてもいいんだよ」

と言った。でも絶対おかしい。だってようちゃんがいってたもん。お母さんは、みんないっつもニコニコしてるって。それに僕のお母さんはおかおに焦げたクッキーみたいなものがついてる。幼稚園のみんなに聞いたけどみんなそんなことないって言ってた。

「やっぱりどっかへんだよ。なにかあったら めぐみにいえばいいんだからね!」

と言ったらお母さん泣いてる。なんでだろ。僕にはわかんなかった。


その日の夜、お父さんが帰ってきた。お母さんはお父さんが帰ってくると

「めぐみは出てきちゃダメよ?今日はもうおやすみ。またあしたね。」

と言って決まって僕をおしいれにとじこめる。僕はくらくてこわかったけどお母さんの言うことはまもった。そうしたら次の日お母さんがほめてくれるから。こわくないって考えてるとだんだん眠たくなってくる。あしたはみんなとなにしてあそぼうかな。またお父さんとも遊びたいな。つぎはいつおはなしできるんだろう。


あの時の僕にとって、当たり前の日々に隠れていたほんの些細な違和感を感じとることは難しかった。実際、あの時になにか感じ取ったとしても僕にできたことなんてない。やっぱり過去を思い出したって結果得られるものは何も無くて、心に残るのはあの時の楽しかった日々と今の自分の日々と比べたことで湧いてくる喪失感だけだ。

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愛されなかった全ての僕へ @Nananose2009

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