笑5


「ファウスト殿下ー。」

 門扉の方向から、赤髪の精悍な男子学生が走ってくる。制服に誂えられている二重線は、五大貴族ケーナイン一族の赤色と黒の線だ。


「側近の俺を置いて行かないで下さいよ、殿下。」

 火の魔力を有するケーナインの一族は、警察機関を総督している。その為、走って来たケーナイン一族頭首の息子ジェネラス・ケーナインは、幼少時より武術の鍛錬を積んでおり、フラーグ学院では王太子ファウストの側近を警護と兼ねて任せられている。


「今日は見知った者と旧生徒会しか来ないから、支障はないだろ。それより急に殿下とか、敬語はやめてくれ。」

「入学したら、同級生でも上司みたいなものだし。あ、会長て呼ぶ?」

「殿下よりましだな。」


 目の前の絢爛な校門を王侯貴族の生徒がくぐると、強制力で外見等が変質するだけでなく生徒会へ勝手に配属されるのだが、王族は生徒会長、副会長はプラントリー一族から、そして五大貴族より各一人ずつが生徒会役員として選出され、計7名で生徒会を結成することが決められている。

 今年はなぜか、在学していた王侯貴族が全て卒業してしまった。

 常に最低30人は在学していた王侯貴族が完全にいなくなり、入れ替わり入学するのが国王の一人息子、現宰相の娘と養子の俺、五大貴族の各頭首の息子5人という主要な貴族の嫡子ばかりで、それ以外の縁戚者がいない。さらに俺達が卒業する迄の3年間、入学相当に達する年齢の王侯貴族が一人も存在しないのだ。

 俺はこの状況に何らかの意図を感じざるを得ない。


 いずれにしても、生徒会は基本男子学生で構成されるので、今年入学するイコリス以外の王侯貴族全7名がこれから3年間生徒会を務める。

 王太子ファウストは生徒会長、俺は副会長、ジェネラスは生徒会役員だと、校門をくぐる前にもう確定していた。

 

「イコリス、サイナス、久しぶり。」

「3か月ぶりかな。髪、伸びたね。」

 俺は肩まで伸びた赤い髪、正確にはえんじ色の髪を見て応えると、ジェネラスは顔にかかる髪を雑にかきあげた。

「伸ばし放題で整えてないから邪魔だけど、強制力があるから仕方がない。」

 整えてないと言うが顔は十二分に整っており、何気ない動作でも絵になるので俺は少しムカついた。


「随分と丸いけど、それ扇子として持つのか?」

 イコリスの扇子は文字を見せなくても異質さが目立つ。

「そう。これが良いから、挑戦してみるの。」

「そうなんだっ。俺も、挑戦するんだ。今迄は模造刀だったんだが・・・。」

 ジェネラスは破顔すると、腰に差していた棒をイコリスに見せた。ケーナインの一族は強制力で帯刀する事になっている。かつては本物の剣を所持してたらしいが、木刀や模造刀が強制力に認められて以来、真剣は持ち込まれていないと聞いている。

 しかしジェネラスの持つ棒は、刀と認識されるには短すぎる。


「少し離れてくれ。」

 そう言うとジェネラスは見せていた棒を勢いよく振り下ろした。すると金属音と共に持ち手部分以外の棒が3倍に伸びた。

「おおーーっ。」

 令嬢にそぐわない感嘆の声をイコリスがあげると、ジェネラスが得意気に話す。


「警察で開発中の武器なんだ。走る時邪魔にならなくて、殺傷力が低く制圧に特化してる。親に無理言って持ってきた。」

「ここは学院だからね。怪我させずに倒せる武器は最適だろう。」

 ファウストに賛同されてジェネラスは口元をほころばせた。


「伸縮する分、強度はどう?」

 先端から持ち手部分まで、3段階に太さを大きくして収納する構造だ。先端に行くほど細く、収納される箇所は空洞なので俺は強度が気になった。

「刃物とも打ち合える耐久性だ。けど、元に戻すのが大変なんだよな。」

 ジェネラスは先端を地面に付け力を込めて押し込もうとするが、伸びた棒は縮まらず地面がえぐられていく。


「伸ばしたままの方が強制力に刀と認識されるのでは?」

「それもそうだ。さすがファウスト・・殿・・・会長。」

 慣れてない敬称にジェネラスが言い淀む。

「もう、会長もつけなくていい。今まで通り、名前だけで呼べよ。」


 ファウストと同じ歳である、ジェネラスを含む五大貴族の頭首の息子達5人は、7歳から9年間、王宮内に設けられた教育施設でファウストと共に学んでいた。ファウストとジェネラス達はただの幼馴染ではなく、立場の違いを越えた深い絆があるようだった。

 宰相の屋敷内にほぼ隔離状態だったイコリスと俺は、ジェネラス達とは年に数度の交流会で会う位だった。だがファウストの計らいで、五大貴族の頭首の息子達とは友好的な関係を築けている。


「チェリンとラビネも来たな。」

  ファウストが告げた通り、背が高く均整の取れた二人が校門の前にやって来た。

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