クラブ活動 - 入部編 1
「お帰り!随分久しぶりね、大会の途中で居なくなるもんだからびっくりしちゃったわ。そんなに怪我が酷かったの?」
「イザベルから話を聞いた時は驚いたわ。まさかイザベルが階段から転げ落ちそうになってたところを助けようとして骨折するなんて。大丈夫だった?」
傷が完治したので、今日から授業に戻ることにした。久しぶりに会う顔は懐かしく、2週間ぶりであるにも関わらず親し気に接してくれている。
他の生徒には階段から転げ落ちるイザベルに巻き込まれて骨折したことになった。丁度あの付近には立て付けの悪い螺旋階段があり、手すり部分が魔獣の攻撃で破壊されていたから丁度いい。
ようやく火傷の跡が綺麗さっぱり消えてくれたので、変に疑われることもない。やはり治癒魔法は素晴らしい。
「いえ、メーティアには本当に悪いことをしたわ、ごめんなさい。」
「いいえ、気にしないでください。この通り元通りですから。もう、超元気です。」
イザベルだけは事情を知っているが、話を合わせてくれている。同じようにグリーベル教授に口止めされたようだ。
あの時の事を思い出したのだろう、身体を摩っている彼女の顔は暗い。そんな彼女に元気アピールをしてみると、彼女は少し笑ってくれた。
「イザベルったら本当に気を付けなさいよ。方向音痴が過ぎるわよ。」
「いえ、自分でもそう思うわ。それでメーティアさんをあんな目に合わせちゃって......本当に申し訳ないわ。」
再び暗い顔をして異常な程落ち込むイザベルに、デリケは慌ててそういえば、と話を変えた。
「メーティアに何度かお見舞い行こうかと思ったのよ、皆で。でも看護師に止められたのよね。そんな酷い形で骨折ったの?しかも普通の治療室じゃなくて特別治療室にずっと居たんですって?」
「うーん、結構見た目が酷くて。あんまり他の人に見られたくなかったんですよね。」
「そうなの?それじゃあ、綺麗に治って良かったわね。......そろそろ次の授業が始まるわ、それじゃあ御機嫌よう。」
デリケ達は上品に手を小さく振りながら去って行った。
私とメグも次の授業に向かわねば。
そう思って立ち上がった時、メグが耳を貸せとばかりに手招きをしてきた。私が耳を貸すと、メグは私の耳元でこそこそと囁いた。
「それで、結局のところ何したの?」
「何って、何の事?」
「そりゃ怪我の事よ。本当は階段から落ちたわけじゃないんでしょ?あれだけいつも自己強化を張り続けている貴方が、イザベル一人巻き込んで落ちた程度で骨を折る訳ないもの。」
困った。実際その通りだ。
しかし、本当のことをいう訳にもいかない。
「本当は別の理由があって怪我をしたんじゃないの?詳しくは分からないけど、誰かに喧嘩を吹っ掛けられたとか?それで色々あって口止めでもされたんじゃないの?」
「さあね、私はただ本当に階段から落ちて怪我をしたとしか言えないわ。」
これ以上聞かれても答えられないから、と肩をすくめてみせた。メグもそれで何かを察したのだろう。
「そうね、貴方がそういうならそうなんでしょう。悪かったわね問い詰めて。」
察しが良くて助かる。
「それより次の授業に行きましょう。次は......数学ね。」
休んでいた分の授業を取り返さないと。後でノートを貸してもらわねば。
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再び数か月が経ち、季節が変わった頃。
「本日から中等部1年生の貴方達は部活動に参加する資格を得ました。各々自分の興味ある部活に参加するように。部活は高等部と共同で行います。尚、掛け持ちは許可されていますが最低でも1つの部に所属する必要があります。」
部活動。それは、学校における青春の1つだ。
新入生は入学後半年程、この部活動に入部することを禁じられていた。学業への集中や寮生活への順応が理由らしい。しかし、今日その制限は撤廃された。
周囲の生徒は皆ワクワクしている。最近はずっとどこに入部するかで話は持ち切りだった。
「それで、貴方はどこに入部するの?」
配られた部活動リストを眺めながら、メグが聞いてきた。
リストには運動部から文化部まで数十の活動が書かれており、名前を眺めるだけでも飽きない。
「そうね、この舞踏部と歌唱部が面白そうね。家で母に習っていたから馴染みもあるし。」
「ああ、そういえば貴方のお母様は元踊り子なんですってね。正直貴方が華麗に舞い踊り歌う姿なんて想像できないわ......」
それはどういう意味だ、と目線をやるとメグはあからさまに目を逸らした。
「私はメーティアに一番合うとこ、ここだと思うけれどね。」
ここ、と指を差した文字を読み上げる。
「武魔連携戦術部?」
「そう、魔法や剣での戦いについて研究し、実戦を行う部らしいわ。学校の授業だと剣術選択は魔術師の事について学ばないし、魔術選択は剣術に触れないでしょ?でもこの部は互いに交流しながら戦いについて学ぶんだとか。この前の決闘大会......は、確か全然見れなかったんだっけ。そこの優勝者の殆どはここの部出身らしいから、魔術師志望のメーティアにはピッタリかと思ってね。」
戦術か。確かに面白そうだし、私の今後に役立ちそうだ。
何よりこの前の魔獣との戦闘で思い知った。私は強くならねばならない。
勿論この学校で学び続ければある程度は強くなれるだろうが、今後何が起こるか分からない。準備はし過ぎる方がいい。
「そういえば、体験入部があるんだっけ。ちょっとこの後行ってみようかな。」
「それがいいんじゃない?私も別の部活を見に行こうと思ってたし。」
メグはどんな部活に入るんだろうか?後で決まったら教えてもらおう。
「舞踏部体験入部の方~!こちらへどうぞ!」
まずは舞踏部の体験に行くことにした。部員は女子が多い印象で、体験に来た生徒達もそれは同じだ。
そこそこ人気の部活らしい、沢山の人が見に来ている。部員達も対応は慣れているようだ。
「私たち舞踏部の体験入部では試しに一曲踊ってもらうことにしています!あっご安心ください。振り付けはこちらが教えますし、我が部は実力に関係なくたくさんの入部をお待ちしておりますから!」
そう言うと、私達1年生は数人ずつのグループに分けられ、それぞれに指導部員がつくことになった。
私と同じグループになった生徒は2人とも緊張しているらしい。そんな緊張をほぐす様に目の前の担当部員はにこやかに笑った。
「初めまして!今日はよろしくね。まずは私が簡単に踊るから、それを見てて欲しいの。その後は見様見真似でいいから私の真似をしてみてね!」
優しそうな上級生の女子だ。
音楽に合わせて、彼女は美しく舞い踊った。優雅だ。
ワルツに合わせてリズムよく衣装の裾が舞い、くるくると回転している。
一見単純に見えるその動きは、意外と体幹が必要な動作だ。母に厳しく教えられた記憶が蘇ってくる。
「それじゃあ、皆もやってみよう!」
言われたとおりに体を動かすもやはり難しい。曲自体に慣れていないせいで、それっぽい動きはできても優雅さは中々出るものじゃない。
しかも病み上がりのせいで余計にしんどい。
チラリと隣を見ると、他の2人も苦戦しているようだ。よたよたとバランスを崩して躓いている。
しかし、久々に踊ると中々に楽しい。
踊る音楽も以前母に習った時とは違って豪勢なクラシックだし、ステップの踏み方も違う。
これが上流階級の舞踏なのだろう。
「そこの白金の髪の子!貴方ちょっと踊り慣れてない?いい感じよ!」
親指を立てて褒めてくれた部員に軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。昔少し習っていたので。」
「やっぱりそうよね!他のことは体の動かし方が違うもの。どう?うちの部に入らない?」
勧誘されるのは嬉しい。だが、まだ他の部も見に行きたい。
「まだ少し迷っている段階ですが、入ることになったらよろしくお願いしますね。」
「そっか、色々見て来なよ!いつでも君を待ってるからね!」
次の日は、歌唱部へ向かった。
歌もやはり母に習っていたものとは少し異なる。庶民に人気のある軽快なリズムと身近な歌詞とは違い、ここで学ぶ歌は貴族に人気のあるミュージカルやオペラのような舞台上の音楽だ。
「歌を歌う上で重要なのは、その歌がどんな背景を持っているかでしょう。誰がいつ作曲し、どんな場面で歌われたか。それを学ぶこともまた、この歌唱部での活動の一環です。」
先輩部員は厳かな声で私達にそう告げた。
雰囲気は違えど、ここもまたいい部だ。
体験入部最後の日、私は戦術部に向かっていた。
戦術部の会場は第2校庭だ。第1校庭とは違って校舎の奥の方にあり、普段こちらに来る人も少ない。
しかし今日は戦術部に入部したい1年生で溢れていた。この前決闘大会があったこともあり、かなり人気のある部活らしい。
校庭の集合場所に集まって座ると、現部長を名乗る上級生が現れた。この国では珍しい白髪が風にたなびいている。
「ようこそ、武魔連携戦術部へ。ここでは、魔法や剣での戦い方を学び、教え合うところだ。早速で悪いが、この部は希望した人が全員入部できるという訳ではない。軽い面接や試験を受けてもらい、合格した者だけが入部できる。すまないな、だが実力のない人を入れて面倒を見れるほどの余裕はないのだ。」
ひそひそと小声が広がった。中には知っていた人もいるのだろう、表情が変わらない人もいる。
それでも体験入部しに来ていた1年生の半分は驚いた顔をしている。私も知らなかった。
「何、試験と言ってもそんな過酷なものではない。少しここにいる上級生と話していくつか技を見せてもらうだけだ。まずは、この学部のオリエンテーションをしよう。」
部長が指をパチンと鳴らすと突如空を炎の壁が覆った。メラメラと熱気が部長の姿を揺らしている。
驚きのあまり周囲がどよめいた。
部長が前方から引き、炎の壁の中を平然と通っていく。そのまま壁の奥に姿を消すと、舞台の幕上げのように火炎が揺らいで消えた。
舞台の上では先輩部員達が戦っている。剣士と魔術師の戦いだ。
剣が氷の冷気を纏って振り下ろされるとまだ熱の籠った地面を一気に冷却し、氷の破片が剣先から魔術師の方へ伸びていく。
魔術師はそんな衝撃波を横に避けると、いくつもの雷を剣士に飛ばした。剣士は魔力を纏った大きな剣で難なく弾いていく。しかも弾く方向はしっかりと安全に配慮されており、決して私たちの方に飛んでくることはない。
次第に攻防はエスカレートし、剣士は目に見えない速度で移動しては魔術師の背後を取り、剣を振りかざしている。
一方で魔術師は防御魔法を活用しつつ、応用魔法で剣士を囲んでは派手に吹き飛ばしている。
本気の戦いではなく
最後は魔術師が炎球結界を発動させ剣士を閉じ込めるが、剣士は水の魔力を込めた剣先を自身の周りに一振りして大穴を開けてしまった。
凄まじい力技だ。炎球結界は応用水系魔法ですら相殺できないというのに。一体どれ程の研鑽を積んだのか。
蒸気が立ち込め、ジュワジュワと突沸する音が地面にまで響く。その霧が再び振るわれた剣によって綺麗に掃われ、中から剣士が堂々たる姿で現れた。
1年生は一言も発しなかった。発せなかったのだ。
きっと決闘大会でも同様にハイレベルな戦いがあったのだろう。
それでも、大会時の闘技場よりも更に近い位置での観戦、闘技場での真剣勝負よりも舞台上の演出としての側面が強い派手な戦い方。それらは彼らの言葉を奪うほどに美しかった。
「このように、魔術師と剣士は異なる存在でありながら、互いに武器を向けることもあれば、強力して戦うこともある。互いが互いの技を使うこともあれば、対策して封じることもある。こういった魔術と剣術の融合を可能にした戦い方を模索するのが、我が部、武魔連携戦術部である。」
いつの間にか部長が目の前に現れている。無表情で淡々と話す姿は物静かで、それでいて圧がある。
彼もまた強者だ。そう思わせるオーラを漂わせていた。
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