11.緑の火、オリーブの瞳(3)(ラール)
奇跡的に、ホプラスは「無事」だった。服が少し焦げていたけど、皮膚は傷ひとつなく、剣も溶けず、何時も身に付けているペンダントも、革紐の一部が焦げただけ。
自分の水の魔力を、最大放出して盾にしたせいだろうと、医師は言った。
だけど、意識は戻らず、全身から熱気が立ち上ぼり、治療のため、魔法動力の治療装置をフル稼働させ、浄化しなくてはならない。この地方には、砂漠と接しているせいで、夏は特に、火属性のモンスターが多い。ファイアドラコンの生息地ではないけど火のエレメントは溜まりやすく、火竜炎症の治療研究も盛んで、専用の治療装置の他、薬品の開発も行っていた。
ディニィとエスカーが、交代で装置を動かした。一度、他の魔法官が変わってくれようとしたが、ホプラスの体内に残ったエレメントが強すぎるので、ディニィかエスカーのレベルでないと、治療効果がなかった。
残りメンバーには、祈ることしか出来なかった。
医師は、遅くても半月もあれば、といったが、意識が戻るのが半月として、起き上がれるのはいつか、リハビリ期間はどれくらいなのか。物理的にも精神的にも、今、ホプラスを失うわけにはいかない。特に、パーティのリーダーが、ルーミであることを考えると。
ふと気が付く。ルーミがいない。昔、麻痺ガスにやられて、ホプラスが一晩、意識がなかった時、泣くわ喚くわ、落ち着いても、枕元に張り付いていた。それが何故、この事態で静かなのか。
ルーミは、戸口にいた。泣いてもわめいてもいない。静かに、ホプラスのいる室内を見ている。
「エメラルドの谷に、薬草を取りに行ってくる。ディニィとエスカー以外、一緒に来てくれ。」
と、私たちを見渡しながら言った。
火竜炎症の特効薬として、注目されている非常に強力な薬草が、エメラルドの谷という所にある。薬草自体は、街でも栽培されているが、それからとった薬は、今回の騒動で被害のあった所に出してしまって、残り少ない。しかも収穫期は秋だ。つまり、冬の今は、薬の追加生産は出来ない。
だが、薬草の原種のあるエメラルドの谷では、栽培種より強力な薬草が、一年を通じて、豊富に取れる。(コンスタントに水のエレメントが豊か、という、特殊条件にあるためらしいが、そのため、原種は町中では育たず、品種改良を重ねた。)
「モンスターが出るから、原種が必要な時は、ギルドで人を雇うと聞いたが、俺たちなら、そのいつものパーティと比べて、余裕って話だ。今から行って、取れるだけ取ってくる。街の許可は取った。」
淡々と話すルーミに、かえって無理を感じ取った私は、
「あんたは、残ってもいいわよ。エレメントが水なんでしょ。」
と言った。正直、ルーミがいないと戦力ダウンだけど、二人をこんな時に、離すのは躊躇われた。
「俺は行くよ。ここに残っても、ホプラスのために出来ることは何もないし、俺が行かないと、回復係りがいない。」
ああ、もう、泣くだけの子供じゃ、なかったわ。「リーダー」が最適の方針を出すなら、私たちは、遂行しなくては。
ユッシが、運搬用のリュックか籠を借りてくる、と出ていった。サヤンは、地図を借りてくる、と出た。キーリは、ディニィとエスカーに、「後をお願いします」と、言う。
私は、ルーミを見た。ホプラスの寝台の脇に立ち、小声で
「すぐ戻る。待っててくれ。」
と、呟くのが聞こえてきた。
町を出たのが昼過ぎだったので、谷に着く前に、途中の小屋で一泊した。翌朝早くの出発で、谷には直ぐに着いた。
モンスターは、エメラルドグリーンの美しい鱗のリザード系で、透明な緑色の炎を吐いていたが、属性は水のようだった。魔法は効きにくかったが、物理攻撃はよく効いた。
薬草は、谷を埋め尽くすほどあった。取り尽くしを心配していたが、杞憂だった。
私達は、ユッシのリュックにいっぱいに薬草を詰め、帰りは、彼を守りながら進んだ。
夕方に帰りつき、街に入った。病院には、ほとんど駆け足で戻った。すると、ホプラスのいる病棟から、顔馴染みの魔法官の女性が、大慌てで、駆けてきた。
「ホプラス様が!ホプラス様が!」
私達の世界は、一瞬、凍りついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます