勇者達の翌朝・旧書 回想
L・ラズライト
再会
1 .再会 (1) (ルーミ)
ただの鉱石採取のクエスト。毎年来るという話だったが、参加したのは初めてだった。もともと別の隊がメインに受けていたものだったが、その年は何時もより時期が遅く、俺達の隊にも募集がかかった。
時期がずれていたので、各隊から新人中心に数人、さらに騎士団からも下っ端を仮受け、現地で地元の採掘専門家達と合流。全体のリーダーは地元の役人で、退団した騎士らしい。
「それじゃ全部騎士団で受けりゃいいじゃないか。寄せ集めにする意味がないよなあ。」
カイルが物草と、防護服の金具にいらつきなが言った。
「騎士様だからね。地味な仕事は嫌なんだろうさ。」
俺はありったけ皮肉に言って見せた。騎士には、以前、酒場で「坊や、君、一晩貸し切りで、いくらだい?」と聞かれたのを、速攻で殴って以来、最悪のイメージしかない。
「おいおい、ルーミ。」
ロテオンが眉根を寄せて、俺をたしなめる。
「ああ、心配いらないよ、ロテオン。たかだか採取だろ。喧嘩する前に、とっとと終わらせよう。」
カイルは15、ロテオンは17、俺は13だった。俺の隊では10代はこの三人だけで、入団期は一緒だったので、仲が良かった。同じ隊からこのクエストに来ていたのは他にもいたが、一班三人と言うことで、自然にこの三人に決まった。
集合室には防護服のせいで、ギルドメンバーか騎士か、地元民か、分からなくなった要員が大勢いた。まだ専用のマスクはつけずに、顔だけは出していた。知った顔を遠くに見付けて、軽く挨拶をしたり。「あ、すいません、腕カバー、破損しているみたいなんですが」「空気タンク、けっこう重いよ。旧式かよ。」「俺のだけ、妙にぼろくないか。」等のざわめき。俺は空気タンクを背負い、初めてつかう、銃という武器を持ってみた。タンクは案外軽く、武器は案外重い。
元騎士とかいう、今回の責任者の説明によると、各種ガスの原料となる霧の結晶は、例年なら少し前に収穫期を終えるのだが、今年は諸事情で収穫が遅く、したがって「結晶に引き付けられるモンスターが出る。採掘区域の中心付近に当たったチームは主に採掘、周辺地域に当たったチームは、モンスターの威嚇」がメインということだった。
モンスターの本体は地下深くにあり、表面に出ているのは触手だけ、鉱石の生産にはモンスターが要るから、倒そうとしてはいけない。魔法を当てると、反応して近付いてくるから、聖魔法以外の攻撃魔法は使ってはいけない(高位の神官以外は、もともとそんな高度な術使えないが)、攻撃は威嚇用の銃で行う、等々。
「採掘場所、特に沼地で瘴気の上がっている場所では、マスクははずさないように。吸い込むと、個人差はあるが、混乱、麻痺、昏睡などがある。ただし、まず有り得ないが、空気切れの場合は外すこと。窒息よりましだからな。だがそうい場合でも、アイカバーの方は安全ランプがついていても外してはいけない。霧が深くて視界が悪いから、外すと光が足りなくて、ほぼ見えなくなる。」
要するに、空気のある場所では安全ランプというやつがつくんだろうか。アイカバーのグラスは透明度が低いようだが、霧の中で魔法も使わずに見えるのか。
説明が終わり、質問の受付になった。誰かが手をあげて、
「防護服を完全に装着すると、個体の識別が出来なくなるようですが、問題はないですか。」
と聞いていた。高めだがよく響く、張りのあるいい声だな、と思った。
脇から
「ネレディウスか、あの点数稼ぎ。」
「こんなとこでも自己主張か。」
という声が聞こえた。
「だいたい、あいつ、なんでいるんだ。花鳥狩りか複合実験の方に行くと思ってたよ。」
「人の嫌がる仕事をしてますってポーズだろう。」
「まあ確かに騎士の仕事じゃないよなあ。でもあいつにはぴったりかもな。」
会話の嫌味具合いからすると、騎士らしい。静かにしろといってやってもよかったが、
「いい加減にしろよ。」
と、俺達のすぐ横にいた男達が言い返した。
「中傷はよせよ。こっちのクエスト、志望者が少ないから、人数調整があったんだよ。」
先の数人はふんと鼻を鳴らして、「ほざいてろ」と言った。喧嘩でも始まるかと思ったが、話題のネレディウスの質問に対する答えがはじまったので、静かになった。
「採取地に入ると、胸に光る番号がはっきり浮かぶ。今でも正面から見れば、見えるはずだよ。例えば君は0007のようだね、ネレディウス。」
俺は左右の二人を確認した。カイル0084、ロテオン0085。「お前は0086だよ、ルーミ」とカイルが言った。
ネレディウスをみる。俺は後ろにいるので、顔は見えなかった。髪は黒だ。長くもなく、短くもなく。背はけっこうある。
彼はいくつか質問をした。どれももっともな内容で、正直、よく気が付く奴だと思った。だが、腐っても騎士のお上品な仲間から、あそこまで言われるくらいだから、どうせろくなやつじゃないんだろう。騎士だし。
カイルが、タンクが重いと言っていたので、ひよわだな、とからかうため、ネレディウスから目を離した。
その後、アイカバーをつけ、転送装置に向かう。
「ところで、これ、どう打つんだ」
とカイルが言った。そういえばその手の説明はない。
「その引金を引くんだよ。威嚇用の光線が出る。」
と、脇から声をかけてくるやつがいた。0007の文字が見える。
「カートリッジが切れると打てないから、残量表示に気を付けて。人に当たっても害はないよ。採取地のモンスターは、当たらなくても、近くを打てば直ぐに逃げるから、命中するかは気にしないでもいい。」
質問をしたのはカイルだが、彼は一番近くにいた俺の銃を取り、簡単に説明してくれた。ロテオンとカイルは口々に礼を言う。
「それじゃ」
と言って去っていく後ろ姿を、しばらく見送る。
転送室に入る前に、こっちを見て、少し笑った。アイカバーで見えなかったが、笑ったような気がした。俺は慌てて目をそらした。
「意外に気さくな人だな。」とロテオン。カイルは「うわー口きいちゃったよ。」と興奮気味。
「なんだ、知り合いか。」
と聞くと、二人が驚き、口々に説明する。
「お前、知らないのかよ。あのネレディウスだよ。」
「騎士養成所始まって以来の天才って言われてる人だよ。全科目、常にぶっちぎりで首席だとか。」
なんだ、おぼっちゃまか。道理でお上品なはずだ、と毒づきかけたが、
「でも、平民で孤児院出身の人の方が、名門貴族のぼっちゃん連中より、騎士らしいってのは、皮肉だよな。ほら、ルーミ、お前が殴ったやつ、あいつ、下品な奴だったけど、あれでもハープルグ将軍の孫らしいよ。」
との、カイルの説明を聞いて、毒は飲み込んだ。
「ずいぶん詳しいな、カイル。」
「俺の今の彼女、紅シダレ亭の、上の娘だから、色々情報が入るんだよ。」
「あれ、仕立て屋の子はどうした。」
「…あの子は、もっと落ち着いた大人な人がタイプ、なんだと。俺、自分じゃ、大人に見えると思ってたんだけどな。でもネレディウスさんみたいな人、見てると。同い年で、あれは反則だよなあ。」
「え、じゃあ、あの人、俺より年下?…なんで、あんな背があるんだ。」
二人が喋っている間、俺は黙っていた。イメージで判断して、悪かったな、と思いながら。
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