第11話 必殺技《パッシブスキル》

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 カレンが調律師として持つスキルは、契約紋の強化に即したものと、プレイヤーの装備全般を強化する、ときに鍛冶師の領域にもかかるものだ。

 彼女も最近は工房にこもりがちだが、攻略プレイヤーとしての技量も今なおそれなり備えている。

 というか、調律師の前身職である調律士を解放するまで、彼女はヘリオポリスでも最前線に立っていた。

「そうだね、アスカやさっきの人の言う通り。

 これは私たち、ヘリオポリスがやらなきゃならないことだ。

 先に甘えるのは順序が違う」

「援護する、ユニットごとにステータス補助をかけておくからそのつもりで。

 あまりあてにしないことだ」

「ありがとう、アスカ」

 スキルを用い、カレンの後押しをするアスカ。

(あてにするなと言うわり、サポートは万全だし、キューリくんやミユキの補助してた頃から、アスカの本命はこっちだったもんな。前線に必要なオーソドックスな補助は全般揃ってる――みゆきちを、活かすための力なんだ)

 カレンは力の漲る感覚に、委ねる。

「ちょっと、羨ましい」「なにか言った?」

「ううん、けどね。

 ヤドリギなんか使わなくたって――きみのくれたものを、いつだってあてにしてる」



 カリンの手の先には、レイヨウ型の異形が頭を垂れている。

 契約は成立したのだ。ひと段落ついたと、キノは戦況を確認する。

「ところで、アスカさんを止めるって――」

「レイド級のやつが押さえられなかったら、それまでだ。

 ヘリオポリスのプレイヤーもいるけど、キノくん、ここからは私も手を抜けないから……まずは自分とカリンちゃんの身を守りな」

「え……と、そうしかないみたいですね」

 いよいよライトニングサラマンダー、レイド級変異種の到達だ。

 カリンのレイヨウ型に、キノはNOAHの背中へ跨り、素直に後退することにした。

(どのみちあれは直線で向かってきそうだし、遠巻きに射撃系スキルを撒いておこう、参戦判定で経験値さえ入れば御の字、今の俺たちが前線に出ても足手まといか、それで、あの人はどこ)

 気づくと槍を携えた女性へ、支援系スキルを渡しているのがみえる。

「ミユキさんや女の子には前線で戦わせるのに、自分は後方支援て、タマついてんの?」

(そりゃカリンをさっき泳がせた、俺が言えることじゃないかもしれないが……)

 男なら前に出て戦う精神性だって求められるだろう。

 まぁ女の子を控えさせたらさせたで、主体性を奪っているともとられかねないので、印象というものはつくづくくだらないわり、難儀にして繊細な問題である。

 それが互いを尊重できるやり方というなら、人が口を挟むことじゃなかろうが――キノは彼が想っていた以上にこの場で前へ出ないことに、モヤついていた。

「いや、それは俺もか」「キノくん、どうかした?」

 カリンが彼を案じる。彼女は手懐けたワイズレイヨウ属種に『オウメイ』と名付けた。

 意味は彼女のみぞ知るところらしい、なんか元ネタはあるようだがキノは関心がない。

「アスカさんのところへ行こう、向こうも近づいているし、一旦指示を貰う」

 ヘリオポリスのプレイヤーたちは部隊として動いているが、こちらはその中でレベルも低いし正直浮いている。



 ヘリオポリスのアタッカーたちはすでにレイド級変異種と会敵している。

 カレイドとクルーガーは、すでに戦況へ見切りをつけていた。

「……アスカくん、残念だがきみはヘリオポリスへ期待し過ぎだ。

 あれに対する決定打を彼らは持たないよ」

「カドクラとやらの蠍も、やはりダメ?」

「彼には指揮能力どころか、あれを本気で使役するつもりがないだろう。

 黄道級のパッシブスキル、一時期は存在すらわかっていなかったようだし。

 あるいは知っていても育成が間に合っていないだろうよ、完全に泡くってやがる。

 あれがホントに人の上に立つ者かよ?

 それさえできていれば、始末屋くんの負担もだいぶ減ったのに」

「遺憾ながら同感だ。

 マリエ殿は優秀なのだが、如何せん部下に恵まれん。

 一時はあれと懇意だと噂されていたが……変わらないらしい」

「そういや始末屋くんに口説かれたと知って、お前は随分驚いていたよな。

 マリエ殿のこと、今でも好きなの?

 ぶっちゃけただのBBA《ババア》だと想うが」

「勝手な設定を生やすな。年上好きのなにがおかしいかね?

 それにあの不埒者、そうでなくともあちこちの女にコナかけてるそうじゃないか」

 アスカは存外、ナンパ者として名の通っている。

 そもそもが年上好きなので当初はマリエを口説いたが、ミユキの上位調教絡みで警戒されていたこともあり、あまり進捗していない。マリエ自身は彼のことを嫌っていないが、指導者の体裁もあり、結果として配下にいたカレンのほうがより懇意になっていた。

(わりに自分の従僕には女として欠片も興味なさそうなんだよな、あの盗賊女、そこまで芋って感じでもなかろうに)

 カレイドは女に対する評価に忌憚なさすぎるところのあるが、なんだかんだカリスマ性で補っているらしく、そういうところまで含めて魅力らしく若い女は寄ってくる。すると世知辛くて胃が痛いのはギルドの人事もやっているクルーガーだ。

「最後まで見る必要はないんじゃないか?

 どうせ圧搾寄生弾体ヤドリギでケリがつくなら。あれは無生物の必殺技パッシブスキルってことはほぼ確なんだろ」

「いやダメだ、三条アスカにはまだ我々の知らない隠された情報が必ずある。

 戦術などは些細なこと、戦況次第ではとんでもない話が降って湧いてくるかもしれないんだ」

「そうかい、お好きに」

 カレイドは参謀の几帳面なところをよく買っている。しかし本質的に彼は戦闘狂であり、戦況の趨勢がほぼ決まりかけたこの段階においては、牛の上でふて寝をかました。

 ろくな努力もしてこなかった弱者が勝手に潰えてしまうなら、それも仕方ないだろうの冷淡な心理で。

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