第2話 キミの話

夢を見た。小学生の頃の夢。

空気はよく読める方で。いや読み過ぎる方だったと思う。その性格は成長しても変わる事はなく、高校2年生の冬がやってきた。


「…」


ふんわりと柔らかい空気が流れる教室。人工的に作られたこの温度感が堪らなく好きだ。他人事の様な外と中の喧騒をBGMに、俺は現実と夢の狭間で揺られていた。


「もう本を読むフリすらしてないじゃん」


昨日と同じ格好で、昨日と同じ飲み物を手に持ち昨日と同じ場所に彼女は立っていた。さっきまでの喧騒が急に他人事ではなくなったような気がした。


「騒がしい」

「寝るなら家で寝なよ。わざわざ寝にくい場所で寝るなんて」


寝起きの正論というのはこうも気分を害するものらしい。俺は何も言わず、頬ずえをつき窓を眺めた。近付いて来る足音をよそに、ただボーッと眺めていた。


「昨日は特に目的はなく教室にいたんだけど、今日はちゃんと目的があって教室に来たんだ」

「へー。じゃあその目的が終わったら帰ってよ。1人でここにいるのが好きなんだ」

「うーん。キミが協力してくれないと、目的達成できないんだけど。私、今日はキミのことを知りに来たんだよね」


初めての事だった。俺のことが知りたいと言う人と出会うのは。だから俺も少し、ほんの少しだけ彼女のことが知りたくなってきた。


「いいよ。少しだけなら話しても」


彼女はえ、良いんだみたいな表情を浮かべながら俺に色々質問してきた。本当に俺のことが知りたいらしく、自分の話しは一切しなかった。

自分のことを人に話すのは初めてで、誰かに興味を持たれるのも初めてで、モノクロだった放課後に色がついた様だった。


「あー楽しかった。キミって意外と面白いんだね。いつもいる集団でもっと話した方がいいよ」

「それができたらいいんだけどね。でもそもそも俺あんまり人に興味無いし。合わせてのらりくらりやる方が楽」

「人に興味無くてもクラスメイトくらいには興味持ちなよ」

「うーん。いずれ」

「ダメ!今日この瞬間から!」


彼女はそう言うと黒板の前に行き、大きな字で『望月咲』と書いた。


「望月咲!これが私の名前。明日テストするからちゃんと覚えておいて!」


自信満々で自分の名前を彼女は名乗った。俺のこの身体の火照りは、暖房のせいだと思うようにした。

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