第13話
いつもみたいに生徒会室に行っても将輝先輩の姿はなかった。会長や茉美先輩が来ても一向に来なかった。珍しいというよりもおかしい。先輩たちも不思議に思って私に探すように頼んだ。
校内を早歩きで周る。一番近い自習室から探す。一年教室、二年教室とどんどん上がっていく。そして将輝先輩のクラスの教室をみると二人の人影があった。それは紛れもなく将輝先輩と、音嶺だった。もう最悪な予感しかしない。覚悟を決めて教室を覗いた。
二人は何か話をしていた。話の主導権は音嶺が握っている。そして音嶺が動き出した。将輝先輩に近づいて、体を触っていく。手から頬、足、腹、そして服の下。足は震えて動けない。あーあ。また奪われてしまった。絶望に呑まれて膝から床に崩れ落ちる。その間音嶺はもう先輩と唇を合わせていた。先輩の顔は抵抗しようとしていたものだった。見てられない。目をつむりたい。だが何らかの力が私の目を開け続けた。ちょうど先輩と目があってしまった。そして音嶺とも目があった。あの気味の悪い笑顔は忘れないだろう。これで確信づいたのは彼女が私たちが下校していたところを見ていたことである。もう散々だ。これ以上私を壊さないでほしい。むくりと立ち上がって、囁かれるままに走った。屋上へ。
ちょうど網を越えたところで先輩が屋上についた。音嶺はいない。荒い呼吸で先輩は叫んだ。
「彩!!!」
もう先輩が名前を呼んでくれるのもこれで最後だろう。なんだか悲しくなってきた。
「彩!!待ってくれ!さっきのは―」
「知ってますよ。あれは音嶺のせいだって。先輩は悪くないって」
「じゃあなんでそっちにいるんだよ」
「もういいんですよ。私は生を受けたときからこういう運命だったんです。あいつのせいで人生がめちゃくちゃにされるなんて、予想ついてましたよ。音嶺は最初は被害者だったんです。あんなふうに先輩にやられた。それを私は見てしまった。悲しかった。苦しかった。私が悲しみに打ちひしがれていたらなぜか音嶺は、やる側になっていたんです。あの行為に快感を感じてしまったんでしょう。けど今ここに立っているのはそれだけじゃない。真実の恋を、愛を見つけたんです。先輩と過ごしたのもすごく楽しかった。本当に、感謝しきれないくらい嬉しかったし、たくさん救われた。たくさんお出かけもしてたくさん話したけど、何か足りなかったんです。それは、結宇がいなくなってからなんですよ。あの時の喪失感は計り知れなかった。あの日からずっと何か足りずに生きていた。先輩が居たのに埋まらなかった。それって結宇でしか埋められないってことでしょ?そうなってしまったらもう私はこれからずっと何か足らずに行きていくしかない。それは嫌だった。だからこれを気に、死のうと思ったんです。それで最近気づいたのは、私、結宇のこと好きだったんですよね。あのあざとい声も、美しい笑顔も、誘惑するような笑顔も、全てに惹かれていた。大好きだった。だからこそ死ななきゃいけないんです。結宇のもとに行くために。好きだった人に、大切な人に見守られて死ねるなんてやっぱり私って幸せ者だなぁ。本当にありがとうございました。死んでも先輩のことは忘れません。じゃあ、またあの世で。先輩は長生きしてくださいね」
「待て彩!!まだ話したいことがたくさん――」
屋上の床を蹴って飛び降りた。あぁ、これでまた前みたいに過ごせるんだね。また、水族館も行きたいね。今度こそ二人っきりで幸せになろうね。結宇の好きな星になって、空の向こうで幸せになる。これが私たちの愛の形。
空よりもっと遠くの場所で 夢星らい @mizunoKAGAMI
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