第10話
冷たい風も収まり少し軽いバックを背負って二人歩いていく。空には雲の一つもない。とても綺麗に星が見える夜だ。
「だんだん寒くなってますよね」
「本当にね。もうすぐ雪が降り始めるのかな」
「ホワイトクリスマスになったらいいですね」
先輩の溶ける声で空気が動く。先輩とクリスマスを一緒に過ごせたらなんて素敵なんだろうと思いを馳せながら帰っていく。私の心は常に薄いピンク色で満たされていた。先輩が沈黙を破って声を発した。
「彩さんってさ、恋愛とか興味あるの?」
この一言で心拍数が異常なほどに上昇した。言葉に表せないが、何か重要なことが起きそうな予感がする。自分を大きく動かす何かだ。すごく緊張して、どんな顔をすればいいのか分からなくなる。混乱した中で自分の言葉で返事をしてみた。
「ありますよ。いつでも私を好きになってくれる人を探してます」
間違いではなかった。私を好きになってくれれば、私が相手を好きになればいいだけ。こんな恋愛はあまり好きではないけど、最終手段としてこれがあった。私を好きになってくれる人なんていないだろうから、もはや手段として成り立っていない。変なことを考えていたら先輩は私の手を取って言った。
「じゃあさ、
僕と恋してみない?」
堕ちきった。もう先輩としか生きてけない。それは、私に最高に効く言葉だった。こうやって好きな人にはリードしてほしかった。今までと全く違う、優しいではなくちょっぴり色気を帯びた先輩に、惚れてしまった。私もそっと手を握り返して微笑む。
「もう、恋してますよ。先輩」
先輩の顔は今までに見たことないほど幸せそうだった。嬉しさが私の体から流れ出して辺りに水たまりを作った。嬉しさの流れをせき止めるように先輩は私を抱きしめた。二人の体温は混じり合って空気中に逃げていった。私の心音も、先輩の心音も共有しあった。このあと正式に付き合うことになって、お風呂でぶくぶく息を吐いて感情を溶かしていた。
帰り始めに誰かの視線を感じたのは気の所為だ。
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