第9話

 もちろん次の日は将輝先輩のことで頭が埋まっていた。先輩に会えるのが楽しみでならない。どんな事を話そうか、どんな事を話してくれるか。先輩がどんな動きをしていたかすら思い出していた。恋というものは一日、一晩でこんなにも人を変えてしまう。今日は珍しく結宇と登校せずに一人で行った。結宇にもこの事を話したかった。いざ話すとなるときっと緊張して話せないだろう。そんな事を考えていたら予鈴を迎えた。

 鮮やかな時間が過ぎ去っていくのに追いつけなかった。どこにいても、何を見ても輝いていた。授業中も眠くはならなかったが集中はできなかった。あっという間の七時間を過ごして、気づいたら生徒会室前に立っていた。楽しみにしていたものの、意識しすぎて緊張する。早く話したいが一歩踏み出す勇気が出ない。ドアの取手に手を置いていたら、誰かが私の肩を叩いた。

「おー彩。なんで立ち止まってんだ?」

 会長の声にびっくりして逆に会長にも驚かれた。

「うぉ、なんでそんな驚くんだよ。こっちもびっくりしたわ」

「今日会長元気なくないですか?」

「まあいつもよりローテンションかもな。ってか待て、それうるさいって言ってるよな?!うるさくなかったから気づかなかったとでも言いたいのか?!」

 会長の元気さで心が柔らかくなった。そのまま生徒会室に入ると将輝先輩は装飾づくりをしていた。

「彩さんおつかれー。あれ、今日は会長と一緒なの?」

「いやぁなぜかドアの前で立ち尽くしてたんだよ。だから一緒だったわけではないな」

 会長がそれを言っているとき、自分の気持ちがバレるんじゃないかと俯いているしかなかった。心拍数を元に戻そうと深呼吸する。顔色も整えて先輩のもとへ駆け寄った。

「先輩。今日は何を作るんですか?」

「調べたらね、サンタが作れるらしいからそれを作ってみようと思って。これなら簡単そうだよ」

 簡単そうという言葉から昨日のことを思い出して恥ずかしくなる。今日は役に立とうとすべてのエネルギーを集中することに使った。一つ作るのに五分かかった。昨日よりは断然マシな出来だ。息を大きく吐いて自分が作ったサンタクロースを見つめる。少し歪だが及第点といったところだ。

「おお、すごい!やったね」

 先輩の褒めが耳から入って脳に届く。心が温かい。やっぱり好きだなって、そう思った。この表情と声と言葉を大切に心のなかにしまっておいた。

「そういえば、二年生に転校生が来たらしいわね」

「あーなんだっけ、名前がねねとかだったよな」

 その名前を聞きたくなかった。体の芯から固まった。予想はしていたがまさか現実になるとは思いもしなかった。音嶺は私の人生をめちゃくちゃにする、悪魔だ。生きてきたうちの一番、二番目に嫌な日を作った張本人。わざわざ私から離れたのに、なんで来たんだ。しかしもう、受け入れるしかなかった。受け入れられたのは、将輝先輩がいたから。

「昨日よりめっちゃ成長してない?すごいよ!」

 ずっと褒めてくれる先輩に甘えてしまう自分がいる。もっと自分で、自律して行動できなくては。いや、甘えてみてもいいかもしれない。恋してるのだから、アピールしなくては。動かないまんまじゃつまらない。先輩に好きになってもらわなきゃ。

「せ、せんぱい。今日、一緒に帰りませんか」

「うん。いいけど、いつもそうじゃない?」

 言う言葉しか考えていなくて返す言葉に詰まる。でも、人生は一度きり。二度とないチャンスを無駄にしたくない。思い切って伝えてみる。

「二人がいいんです」

 先輩もようやく気づいてくれたようで、驚いた顔に少し赤くなった頬のままで答えてくれた。

「…もちろんだよ。じゃあ早く終わらせよっか」

 私と先輩の甘すぎる空間は会長たちにまでは届いていないようだった。少し気まずくなった活動の中でお互いに相手の事を気にしながら作業していた。嬉しくて今にも飛び出したいようなときを共有して、下校時間となった。

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