第5話

 その思考に囚われて何も手に負えなくなった。先輩といるのにも関わらず、同じ商品を取っては置いて、同じ場所をぐるぐる回って、おかしくなってしまった。これって、なんだかデートっぽい?今までそれに気づかなかった自分が怖い。校内にいたからあまり意識する機会はなかったが、外に出ただけでそれっぽさが出てくる。先輩の言葉に「はい」としか答えられなかった。もう頭も固まって何も考えられなくなった。

「彩さん?なんか変だけど、大丈夫かな」

「はい、大丈夫です。きっと」

「明らかに大丈夫じゃないけど…学校戻る?」

「いや、ちょっと待ってください」

 額に手を当てて脳を休ませる。眉間にシワを寄せ、深呼吸して暴走を止めた。いつも通りを思い出してそれを模倣する。真っ白だった視界もじんわり色を帯び、輪郭を現してきた。

「もう平気です。心配ありがとうございます」

 生まれ変わった世界にいる先輩の姿はとても輝いて見えた。先輩となら、恋できる。誰かが私の精神を将輝先輩のもとへ惹きつけるように、私はそれに従って浮遊していった。しかし、恋できると思っただけなので、このまま先輩と楽しく過ごしていこうと思う。惚れる瞬間を体感してこそ恋するってことだと思う。先輩なら、私に教えてくれる。そう信じていますよ、先輩。

「そっかー。もうクリスマスなんだね。彩さんはこういう季節のイベントとかではしゃぐタイプ?」

「私はあまり気にしないですね。そういう事を楽しむ人もいないので…あと、はしゃいでる自分がなんだか恥ずかしくて」

「それわかるな。前までは僕もそうだった。そんなことではしゃぐなんて子供っぽいって思われてそうでね。けどやっぱそういう事を楽しめれば季節の変化を感じられるかなって。自然とか、時の変化を体感できたら生物として生きられてるなって思えるんだよね」

「なるほど。確かに、こういうイベントって楽しむためだけでもないですもんね」

 クリスマスに期待を抱いたことは今までなかった。先輩の話を聞いて、クリスマスイベントにもっと精を出そうと思った。そして、クリスマスも楽しみになってきた。

 店を出るともう外は暗くなっていた。冬は日の入りが早いから夜が長くて私は嬉しい。淡い哀愁は心を落ち着かせる。しかし哀愁がよりドス黒く渦巻いて、重く淀んだ何かに変わると体中を這って自分を縛り付ける。夜になると悲観的になるのは空のせい。自分の周りが暗くなったら自分も暗くなってしまうんだ。まだ今日は哀愁のまま。きれいな夜だ。

「いやぁ今日も疲れたね。…疲れたって言ったら会長達思い出しちゃった。帰りたくないなぁ。本当にどうにかしてほしい」

「まあ、あんな空気私は好きですよ」

「そう?彩さんが平気ならいっか」

 行きの沈黙とは裏腹に、帰りはぽつぽつと会話が続き、あっという間に生徒会室まで歩いていた。廊下まで先輩たちの口論が聞こえるので、将輝先輩は入るのを渋ったが、私が先導してドアを開けた。行くときとは一風変わった生徒会室で帰り支度をしてみんなで話しながら各々帰路についた。たくさんの幸せを感じたあとの寂しさは、何を以てしても拭えない。

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