第4話

 廊下からドタドタという足音が大きくなっていく。足音が止まったと思えば、

バタン!

「よっしゃー!一番乗り…ってあれ。いるのかお前ら。やっぱ早いなぁ。生徒会長として誇らしい!」

「会長。生徒会長なら廊下くらい歩いてください。そしてのろのろと帰り支度しないでください」

 圧倒されるほどのはっちゃけオーラを放つ会長、理久先輩の後に歩いて来た女子副会長、茉美先輩が顔を出した。ずんずんと歩いてくる会長とこつこつとおしとやかに歩く茉美先輩を見比べる。この人が会長でいいのかと不安になるがなんやかんや真面目に仕事をこなす理久先輩。憧れる美しさとたまにでる冷徹な性格を持つ茉美先輩。そして、誰にでも優しく静かだけれど人一倍情熱を持っている将輝先輩。そんな三人がまとめるこの学校、生徒会は大好きだ。私もいつか三人のような人になりたい。

「まあまあ茉美もそんな怒らないで。さ、早く作業始めよう。会長、昨日頼んだ資料出来てます?」

「あぁもちろんだ!しーっかりバックに入れて来たからなぁ。ここにあるはず…んーんと?あれ」

「会長、遅れてきたのに資料すら持ってきてないんですか?まったく、どこまで迷惑かければ済むんですか」

「なーんてな!ちゃんとここにある」

 にやっと笑いながら資料をひらひらさせて茉美先輩を挑発する。茉美先輩の怒りに満ちたような笑顔が見えたので私は目を背けた。将輝先輩も呆れたような顔をして仲立ちをする。薄いオレンジ色に染められた生徒会室には柔らかい風が吹き込んだ。

 ああだこうだ言いながらクリスマスイベントについて話し合っていた。これは我が校で数年前に発案された生徒会行事である。二十五日の放課後に生徒会長がサンタクロースに扮し、校内でスタンプラリーのようなものを催すものである。最初は冗談半分に始めたものの、意外にもこれがカップルに好評で続いている、という感じだ。逆に言うと、お一人様にはあまり人気がない。今年はどんな人でも楽しめるようなものを、ということでかなり時間がかかっている。会長がたくさん意見を出してくれるが茉美先輩が全て一蹴していく。

「全部一人でしかできないようにしたらどうだ?」

「だめ。確かに一人でくるという人にとっては嬉しいかもしれないけど、それじゃあカップルの参加者がほぼいなくなってしまう」

「むむむ、じゃあ教室をリフォームするとか…」

「何を言っているの?無理に決まってるじゃない」

「なかなか決まらないね」

「そうですね。一進一退になってしまうというか…」

「早く決めないと、飾る物も作れないわよ」

「あ、それなら私が並行してやりますか?あまり意見出せてないので…」

「彩ちゃんやってくれるの?そのほうがありがたいかもしれないわ」

「一人じゃ大変だよね?僕も手伝おうか?」

 こうして私と将輝先輩は工作係になった。先輩は会長と茉美先輩たちの中に一人っきりでいたくなかったため、逃げるように工作係になったと言っていた。まずは買い出しに出かけた。近くの文房具屋まで徒歩三分。外はとても寒くて少しだけ工作係になったことを後悔した。太陽の光が横から真っ赤に照らしている。じゃりじゃりという音だけが響く。いつもは普通に話しているが、なんだか気まずくて話せない。息を吸って吐いて、右足を出して左足を出して。ただただ学校から離れていくだけだった。しかし、あまりこの空間から逃げ出したいという気持ちは湧かなかった。これも、将輝先輩と仲良くなれている証拠だと思う。ゆっくり歩きながら、文房具屋に着くのを待つだけだった。

 ようやく文房具屋の目の前についた。移動した時間がとても長く感じた。ちょうど先輩と目があって、お互いに笑いあう。話さないうちに凍りかけていた心が、先輩の笑顔によって暖かくなった。

「じゃあ、行こっか」

 優しい笑顔に導かれて後ろから引かれるようについていく。先輩の横に並んだらやっと声が出た。

「何買ったほうがいいですかね。私去年のやつとかあんま見れてなくて」

「あーそうだね。まだ見てなかったか。ごめんね。去年はピンクベースで飾ろうってなってたかな。結構カップル受けを狙ってたかも」

「なるほど…では今年は友達と行きやすいように、ポップ感じの装飾とかがいいですかね」

「それいいね!定番なクリスマスっぽいやつにしようかなーと思ってたけど、ポップなやつならアトラクション感でていいかもね」

「あ、ありがとうございます!」

 尊敬する先輩に褒められるなんてことが今までなかったため、びっくりしてしまった。目を見開いた先輩を見て、本当に褒めてくれていることが脳まで伝わった。嬉しすぎて顔が緩んでしまう。ぎゅーっと幸せで圧迫されて一瞬体が動かなくなる。この感情のまま買い物を続けようとしたが、そうはいられなくなった。

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